真夏のメリークリスマス。

崔 梨遙(再)

1話完結:2200字

 仕事の都合で、急遽青森と秋田に出張することになった。青森出張は、僕が働いている会社では珍しい。仕事の内容は、お客さんと一緒にイベントに参加することだった。だが、僕は夜遊ぶ時のことを考えてウキウキしていた。勿論、仕事はちゃんとするのだが、その後、自分にご褒美をあげてもいいかな? などと考えていた。青森の女性って、どんな人なのだろう? 優しい女性が多そうなイメージ! 青森の女性を知りたい! 期待が膨らんだ。


 当日の青森、僕はお客さんとイベントに参加した。イベントとは、合同企業説明会だった。青森の学生が入社してくれるようにと、僕らは暑苦しく熱弁をふるった。手応えはあった。とりあえず、仕事熱心な僕達だった。


 夜! 夜! 夜! 夜! そして待ちに待った夜がやってきた!


 僕は、居酒屋でお客さんと夕食を食べ、軽く飲んで、ホテルに入った。


 お客さんは、


「もう、寝る」


と言って、自室に引き込んだ。自室に引き込む際に、


「君は、遊びに行ってくるか?」


と聞いてきた。


「さあ、どうしましょうか」

「まあいい、とりあえず、おやすみ」


僕は、お客さんがドアを閉めるまで見送った。お客さんの部屋は、僕の部屋の隣だった。

 

 そして僕は、すぐにホテルを抜け出した。

 

 フロントのオジサンに、繁華街の場所と優良店を教えてもらったので、真っ直ぐ、その店へ。足取りは軽い。

 

 店に着いて、顔写真を見て指名した。


 まあ、実物は写真よりも劣っている傾向にあるので、写真通りの女性など来るわけがない! その点において、僕は期待はしていなかった。それでも“青森の女性”ということで期待していた。こういうときの待ち時間は長く感じる。3本目のタバコを吸っているときに、ようやく名前を呼ばれた。


 部屋に入ったら、写真と同じ顔の僕好みの女性が待っていた。カメラマン、ナイス! 写真の加工はしていなかったようだ。

 

 一通りサービスをしてもらい、まだ時間があったので、雑談をした。“大阪人はおもしろい!”と喜ばれた。


「名前、何ていうの?」


一段落して静かになったところで、僕が聞いた。


「りょう」

「僕、崔。大阪から出張で来た」

「いつ帰るの?」

「明日」

「もう、時間が無いね」

「そこで、頼みがあるんやけど」

「何?」

「僕、○○○○ホテルに泊まってるねん、気が向いたら遊びに来てくれへん?」


言いながら、僕は電話番号をメモに書いて渡した。


「せっかく大阪から来たんやから、思い出が欲しいねん」


 そこで、時間終了のベルが鳴った。


「待ってるから!」


と、最後にもう一度想いを伝えて去った。



 ホテルに着いてから、テレビを見ていると携帯が鳴った。りょうからだった。


「今から行く!」

「ありがとう、来てくれ!」


 彼女はすぐに部屋に来てくれた。最初は酒を飲みながら世間話。もう、世間話は必要なくなった頃に、僕と彼女は結ばれた。1回結ばれて、まだ寝たくなかったからもう1回結ばれた。ベッドが軋んで、壁にゴンゴンと当たっていたが、そんなことは関係ない。


 僕と彼女は抱き締めあったまま少し眠った。


 朝方、目を覚ました。りょうの方が少し早く目覚めていたようで、僕の寝顔をのぞきこんで微笑んでいた。


「おはよう」

「おはよう、りょうさん。りょうさんに何かお礼をしたいんやけど」

「どうして?」

「いや、お店以外でのサービスやし」

「お礼を受け取ったら、良い思い出にならないでしょ!」


 その一言を、僕は清々しい風のように感じた。


「じゃあ、私、帰るね」

「ありがとう、あなたの連絡先も教えてほしい」

「いいよ」

「絶対に、あなたのことは忘れないから」

「私、崔君とまた会いたい」

「会おうや、僕はいつでも会えるで」

「じゃあ、クリスマスは? 毎年、クリスマスから年末年始は寂しいから」

「じゃあ、クリスマスで。ほな、僕が青森に来たらええの?」

「ううん、私が大阪に行く。大阪に行ってみたいから」

「ほな、待ってるわ。大阪を案内するから、楽しみにしててや」

「うん、待っててね」


 僕は、電話番号をゲットした。りょうはタクシーで帰った。勿論、タクシー代は僕が出した。タクシー代だけで美しい思い出をもらってしまった。僕は上機嫌だった。


 身だしなみを整えて、お客さんの部屋をノックする。少ししてから、お客さんが部屋から出てきた。


「おはよう」

「おはようございます」

「昨日、あれから一人で遊びに行って来たんか?」

「いやぁ」

「まあ、君のことやから一人で繁華街は行かんやろな」

「いやぁ、まあ」


今更、“夜遊びしてきました”とは言えない雰囲気になってしまった。


「ところで」

「はい」

「昨夜、壁からゴンゴンゴンゴンと音がして、うるさくなかったか?」

「いやあ、どうでしょう。僕は気づかずに寝ていましたから」


冷や汗をかいた。


 秋田に移動して、イベントに参加。昨日よりもトークが冴えているような気がした。やっぱり、機嫌が良いと楽しくにこやかに話せるのだろうか? 僕達の手応えはあった。やれるだけのことはやった。後は結果を待つだけだ。


「ほな、帰ろうか」

「はい!」



 夏。僕は空港にいた。会社は夏期休暇だ。りょうが向日葵のような笑顔で手を振るのが見えた。僕も手を振る。りょうは、僕に抱き付いてきた。


「ごめんね、クリスマスまで待てなかった」

「ええやんか、今日は僕達2人のクリスマスや」

「「メリー・クリスマス!」」







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真夏のメリークリスマス。 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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