命、在るものになりたくて

柴田彼女

崩壊

 壊れる、という言葉の、本当の意味を知った瞬間があった。

 指先の一つも動かせなくて、呼吸は浅くて、ただ一点を見つめて、横になった身体の鼻の付け根を、無意識の涙がだらだらと止めどなく流れていく。生きたいとはとても思えないけれど、死のうとも思えなかった。ただ、そこに在ることだけが事実として証明されていて、しかしそれは生きているとも死んでいるとも言えるものではなかった。

 私は壊れてしまった。何時間も動けないでいる。スマートフォンは鳴らない。鳴らしてくれるような人はもう私には存在しない。壊れてしまった。寒い。誰かに毛布をかけてほしい。誰かって誰? 私には誰もいない。私は壊れてしまった。聴きたい曲がない。読みたい本がない。やりたいことがない。助けてほしい。誰に? 誰もいない。助けて。誰が? 私ごときを? わからない。死にたくない。世界から消えてしまいたい。ここにいたくない。壊れてしまった。救われたい。神さまなんていない。わかっている。皆消えてしまえばいい。死んでしまってほしい。どうして? 都合が悪いから。私が消えればいい。その通りだ。どうやったらいい? 考えつかない。


 壊れてしまった。

 私は、壊れてしまった。

 鼻の付け根を涙が横切る。私は壊れている。

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