第11話

「ふむふむ、なるほどな」


『何がなるほどなんだよwww』

『写真集から何が得られるねんwww』

『めっちゃ食いついたなwww流石銀色の風シルフ様やな』

『それな。流石の鈍感王でも銀色の風シルフ様には勝てなかったか』

『所詮顔なんやな。ワイ、新ちゃんに幻滅したわ』


俺は自転車に乗っている最中も、家に帰ってきてからも沙雪からもらった写真集を読んでいた。なぜなら

、明日関わるであろう、金剛姫さんについてしっかり知らなきゃいけないからだ。失礼があったら沙雪にも迷惑がかかるからな。


「新也、ご飯よ」


「おっつひゅうううううううう!な、なんだ、夕霧か。驚かせないでくれよ…」


『反応www』

『エロ本を読んでいる時に、お母さんがノックもせずに入ってきたときと同じ反応やなwww』

『分かるwwwしっかり布団の下に隠したしなwww』


「もう、何度も呼んでいるのだけれど…」


「あっ、そっかぁ。いやぁ、ごめんね。あはは」


「そんなに集中して…沙雪に何かあったの…?」


「…ああ」


『ああ、じゃねぇよタコwww』

『義妹ちゃんをエロ本の隠れ蓑にするんじゃねぇよwww』

『しょうもねぇ嘘やなwww』

『まぁ実際に深刻ではあったんだがな。でも、このタイミングでは完全に誤魔化しだよなwww』


とりあえず、金剛姫さんの写真集は隠せた。別に悪いことをしているわけではないけど、なんとなくバレたらいけない気がする。


「センパァイ、今、何か隠しませんでしたかぁ?」


「え、え、え?何もだよ?」


クルーシャが夕霧の後ろからニュッっと出てきた。完璧だ。これで誤魔化せた。が、


「センパイ、それは嘘をついている顔ですよぉ?」


「なっ!?お、おおおお俺は嘘と誤魔化す人が一番嫌いなんだ!そんなことをするわけがないだろ!?」


「グフ!?」


『クルーシャ様ああああああ!?』

『この人でなし!クルーシャ様のライフはもうゼロよ!』

『2900歳を29歳と偽ってるもんなwww』

『殴りやすいボディをしすぎなんだよwww何を言われてもクリーンヒットするからクルーシャ様は大変だなぁ』

『まぁ自業自得だしなwww』

『それにしても新ちゃんの嘘よwww』


すると、夕霧がため息をついた。


「はぁ…怒らないから何をしていたのか教えて頂戴。誤魔化されると思うと、こっちも寝覚めが悪いのよ」


「うっ」


『上手いな』

『流石、夕霧さん』

『言葉選びのセンスは断トツで夕霧さんやな』

『相手に罪悪感を与えず、自分の知りたい情報を得ようとする高等テクニックやな』

『浮気とか一生できる気がしねぇな』


怒らないと言っているから、見せてしまおうか?いや、それだと最初になんで隠したのってことになるし、かといってこのまま誤魔化せる気もしない。でも、見せるのはとても恥ずかしい。なんか悪いことをしたような気分になるのだ。


すると、クルーシャが正座になって俺の手をとって、ウルウルとした表情で俺を見てきた。


「センパイ、私だって、隠し事とか嘘が大嫌いなんですよぉ?早く教えてくれませんかぁ?」


「クルーシャ…」


『おまいう?』

『ブーメランを超えた衛星やな』

『違いない』

『衛星ってなんや?』

『定期的に惑星の周りを周回している天体のことやな。具体例をあげると地球の周りをずっと回ってる月がそれやな。今の比喩はブーメランの星バージョンってことやな』

『サンクス』


クルーシャが下から俺を覗き込んでくる。年下二人にそんなことを言われてしまうと、とてもじゃないがそれどころじゃない。俺は観念して、布団の下から写真集を取り出した。


「はい、これです…」


「なんですか、これ…ッ!?」


クルーシャが写真集を開くと、ゾワっと汗をかいた。そして、自分の耳にしているイヤリングに触れると、魔法陣が多重展開し、写真集が光輝いた。


「はぁ、はぁ…」


『な、なんだ!?』

『写真集を開いたと思ったら、クルーシャ様がとてつもない形相で写真集に付与魔法を使った!?』

『なんだ?一体何があったんだ!?』


銀髪美女:『ちっ、やっぱり駄目か。まぁこの場合はクルーシャを称えるべきやな。流石の危機管理能力や』


『義妹ちゃん!?』

『一体何をしたんや!?』


クルーシャが汗をドバっと掻いた。まるで村の主、いや、それ以上の何かと対峙したようなそんな雰囲気を感じた。


「大丈夫か?」


「はぁはぁ…なんとかね。それよりもこの書物は何?とてつもない呪いが付与されてたわよ?」


「呪い…?」


「ええ。常人、いや、エルフの長老である私でさえ、飲み込まれてしまうほどのね。新也はさっきからこれを読んで大丈夫だったの?」


「あ、ああ。何も異常はなかったよ」


「そう…この場合は新也の異常な耐久力を称えるべきなのか…いえ、もしかして、新也以外の人間がこの書物を見ると、発動する呪いなのかしら…?何はともあれ、私のイヤリングに付与していた封印魔法と結界魔法の両方を使わなきゃいけないほどヤバイものだったわ…」


銀髪美女:『いやぁ、写真集を見たらワイに魅了されて逆らえなくなるはずやったんやけどなぁ。そうすればワイのライバルはいなくなるから、万々歳やったんやえけど、そううまくはいかないもんやな』


『一体何をしたんや…?』


銀髪美女:『ワイにだってスキルくらいはあるねん。ただ、兄さん以外にしか効かないんやけどな…流石にスキル名は教えられん。すまんの』


『クルーシャ様があんなに恐れるほどのスキル…?』

『マジで何者なんや、義妹ちゃん』


銀髪美女:『女は秘密の数だけ美しくなるんやで?』


何はともあれ俺がさっきから読んでいた写真集は呪いの産物だったらしい。クルーシャがここまで焦るってことはそういうことなのだろう。ただ、そんなことより、


「エルフの長老ってどういうこと?」


「え?」


「クルーシャってエルフの末妹でしょ?それに今までと違って随分、大人びた喋り方をしていたような…後、俺のことを呼び捨てで呼んでたし…」


「あ、そ、それは」


『あれ、アカンくね?』

『まさかのクルーシャ様ピーンチwww』

『さっきまで格好良かったのにぃwww!』

『汗の出方が写真集の時とは比にならねぇなwww』

『そろそろゲロっちゃえよ』

『でも、新ちゃんが嘘とごまかしをする人を嫌いって言ってるんやで?』

『アカン、八方ふさがりやwww』


「や、やだなぁ、センパイ。この書物は長老であるアルフお兄ちゃんに渡すって話ですよぉ。名前呼びだって、咄嗟のことだから出ちゃっただけですってぇ~それとも新也センパイは私に名前で呼ばれたいんですかぁ?ざ~こですねぇ」


「い、いやぁそういうわけじゃないけど…ただ、大人っぽいクルーシャもいいなぁと思っただけだから」


「…」


『顔www』

『素の態度を褒められて滅茶苦茶嬉しい反面、後輩ムーブをしてしまった過去の自分を呪っている顔やなwww』

『クルーシャ様には喜びと悲しみが常にセットなんやなwww』

『一時の過ち。義妹ちゃんに憧れてしまったが故にやってしまった2900歳の黒歴史やな』


銀髪美女:『ざまぁwww白飯がうまいわwww』


「と、とにかく、この書物は私が預かりますねぇ、いいですよね、センパイ?」


「え?それは…」


『めっちゃ嫌そうな顔www』

『そりゃあそうやで。さっきまでムラムラしていた書物をじっちゃんたちと後輩(長老)に研究されるんやで?地獄やろ』

『家族会議でエロ本が話題になるようなもんか』


すると、夕霧がため息をついた。そして、コンコンと壁を叩いて俺たちの視線を自分に向けた。


「ご飯にしましょ…冷めちゃうじゃない」


「あ、そうだねぇ。それじゃあ新也センパイ。五十年ほど預かりますねぇ?」


「はい…」


『エルフの時間感覚で持ってかれたwww!?』

『おいいいいい!それは人類の宝やで!?』

『新ちゃん、口から血が出とるやんけwww』


俺が預かった宝物はクルーシャに持っていかれた。仕方がない。呪いと言われてしまっては俺も反対しようがない。もし、他の村人に感染したら、それはそれで問題だ。今日も病院で言われたかことだしな。こういうのは専門家に任せるしかないんだ…!


『そういや、義妹ちゃんは新ちゃんが銀色の風シルフ様に惚れるのはええのか?』


銀髪美女:『愚問やな。銀色の風シルフ様は世界で一番の美女やぞ?惚れてまうのは仕方がないやろ?』


『義妹ちゃんが…認めた…だと!?』

『アカン…これは大事件や!』

銀色の風シルフ様の美しさはアタオカな義妹ちゃんすら超えるのか…?』

『アレ?それじゃあ金剛姫は?』


銀髪美女:『それは許さん。まぁ兄さんがドМに惚れることは万が一もないけどなwww』


『そりゃあそうやなwww実際、金剛姫は銀色の風シルフ様を引き立たせる素材としては最高やけど、銀色の風シルフ様と比べたらあかんよなwww』

『それな。実際、金剛姫と銀色の風シルフ様の二人の写真集ってことになってるけど、銀色の風シルフ様がメインのブツだよなwww』

『違いないな!』


配信でとんでもない勘違いが起こっている一方、新也たちは夕霧のご飯を美味しくいただいていた。


俺は夕霧が用意してくれた夕食に舌鼓を打ちつつ、明日のことについて言わなければいけないことを思い出した。


肉じゃがうまい。


「明日、もう一度町に出てくる」


「そうなんですかぁ?」


「沙雪関係?」


「まぁそんなところ。日本ダンジョン協会っていうところから招集がかかってさ。Sランク冒険者っていうのに推薦されてね。試験に受かればお金がたくさんもらえるんだ。そうすれば、沙雪にかけてあげられるお金も増えるし、もしかしたら完治するかもしれないからね」


お金があればもっとやれることが増える。そうなれば、沙雪の病気がよくなる可能性が高くなる。


「新也…センパイ…」


「新也…」


クルーシャと夕霧が温かいまなざしで俺を見てきた。そんな大層なことをしているわけじゃないから、そういう視線は勘弁してほしい。普通に恥ずかしい。


銀髪美女:『アカン、ワイ泣きそうや…結婚してくれ…」


『ええ兄貴持ったなぁ』

『絶対に病気治せよ?』

『応援しとるで?』


しかし、


『感動の話をしている最中にごめん。あれ干将/莫邪だよな…?』

『マジでシリアスな話をしてる時に、そういうのやめろ。どういう顔すりゃあええねん』

『全くや。笑いとシリアスが混在して感情が死んでる』

『新ちゃん、飯の最中に武器を使うのやめろや。箸じゃねぇんだぞ?』

『普通の割り箸を使ってくれ…』

『普通の割り箸やけどな』


━━━


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