田舎のダンジョンで『ホイホイ』し続けて15年 美女も金も集まらないけど最近流行の配信とやらで義妹の医療費を稼ぎます ところで配信ってなんだ?ボタンを押して後は放置で良いと義妹に言われたんだが…

addict

第1話

久しぶりの新作で迷走した感が否めない…お願いしやす


━━━

俺は山口新也やまぐちしんや。今日で30歳でおっさんの仲間入りを果たした。村の中じゃまだまだ若造だけど、そうはいっても十年を三回経験したと思うと年を喰ったなと思う。


「戸締りはオッケー」


一軒家で一人暮らし。和風の平屋でそこそこ大きい家だと思う。庭はそれなりに広く野菜や果物を育ててる。盗まれても困る物なんてないけど、一応玄関の鍵だけは閉めておく。都会ではアパートとかいう小部屋に何人もすし詰めで押し込まれているらしい。


都会には憧れているけど、そんなとこに住みたくないなぁとは思う。玄関を出て、ポストを開けると、じっちゃんからの回覧板が届いていた。今度、ゲートゴルフをやるらしい。


おっさんといえどもまだまだ若者の俺はもっとイケイケの遊びがしてみたいものだが、生憎この田舎にはそんなものはない。まぁ慣れてしまえばそこそこ楽しい。村のみんなはわいわいするのが好きだし、俺も嫌いではない。


自転車を取り出す。子供の時に山に迷い込んだ時に、たまたま見つけたものだ。パンクしたら修理できる人がいないので、丁寧にメンテナンスを重ねて、十年以上現役で使っている。


「沙雪は元気かな」


沙雪というのは俺の義妹だ。俺の親父と再婚した義母の連れ子だった。年は俺の八つしたの二十二歳。俺が十五歳の時に、七歳だった。


ただ、父親と義母はすぐに亡くなった。理由はダンジョンでの戦死だ。


ダンジョンというのは数百年以上前、突如日本中に現れた大穴だ。ダンジョンの中には超常の『魔物』と呼ばれる地上にいない生物がおり、そいつらが地上に現れると、人口が一時、三分の一になったらしい。


ただ、ダンジョンの出現後『スキル』と呼ばれる超常の力を持つ人間が現れることで、魔物を撃退することに成功した。ダンジョンが現れたことで空気中の物質の中に『魔素』と呼ばれる物質が加わり、それを摂取し続けることによって、『スキル』を手に入れることができるようになった。


スキルを得た人間たちは今度は逆にダンジョン攻略に乗り出した。ダンジョンには地上にはない未知の物質が眠っていた。金銀財宝のようなものも眠っており、命の危険を省みずに穴の中に踏み入れた。俺の父親も義母もそれと同じだ。


まぁ結果帰らぬ人となったわけで俺と沙雪は二人、大きな家とそこそこの財産を残されて、二人きりになった。頼りになる親戚がいないから孤児院に行かされると思ったが、村のじっちゃんばっちゃんが俺たちの面倒を見てくれたので、村に残ることができた。


ただ、両親が亡くなったすぐ後に余り過ぎている金をすぐに使うことになった。というのも━━


「着いたぁ。隣町まで自転車で二時間は遠すぎるって」


山を二つ超えた先に、小さな町がある。といっても娯楽のようなものはなく、ほとんど過疎化した町だ。そろそろ村になってしまうんじゃないかと思われる。俺は隣町にある少しだけ大きな病院に用があった。

受付に行くと、顔なじみの人が何人かいたので軽く挨拶をする。


受付を済ますと、俺は病室に向かう。五階にあるので階段が少しだけキツイ。『山口沙雪』の名前を見ると、俺はノックをした。


「はぁい、あ、兄さん」


「久しぶり、元気にしてた?」


山口沙雪やまぐちさゆき、俺の義妹だ。両親が死んだ数か月後、原因不明の病で倒れ、それ以来、この病院にずっと入院している。もう十五年になる。


原因不明の病で沙雪の髪の毛は日本人離れした美しい銀髪になった。顔は超が付くほど美人だと思う。あまり比較対象がいないから、よくわからんけど。点滴の管に繋がれながらも、血色は本当に良い。


「うん。なんとか今年も生きられそうかな」


「それは良かった」


実は沙雪、ここに入院した時、余命一年を宣告されていた。治療には莫大な費用がかかり、それでも何年生きられるか分からないと言われた。実際、沙雪をこの病院に連れてきたとき、顔が真っ赤だった。手を触れたらもっと真っ赤になるし、俺は本当にパニックになっていた。


とりあえず大事を乗り越えた沙雪に一安心したのも束の間、すぐに両親の遺産はなくなった。なんのスキルもない俺が沙雪の医療費を稼ぐにはダンジョンに潜るしかない。俺は結局両親と同じく冒険者になる以外に道がなかった。


俺は十五歳にしてダンジョンに潜ることになった。村の人が言うには俺には才能があると言われていたので、熱心に指導してもらった。おかげで今まで五体満足で元気に沙雪の医療費を稼げている。


「ごしゅ、…お兄さん、来ていたんですね?」


「せ、先生!本当、なんとお礼を言っていいか…!」


俺にとっての最高の名医が現れた。すぐに土下座の要領で頭を下げる。そろそろおじいちゃんになりそうなのに完璧な治療で、沙雪は余命一年を十五回も・・・・・・・・・乗り越えられたのだ・・・・・・・・・。頭が上がらない。


「頭を上げてください。沙雪さんが今まで生きられているのは沙雪さんの努力の賜物ですよ?」


「それだけではありません!絶対に先生のおかげでなんです!なぁ沙雪」


「はい。先生のおかげです」


「ごしゅ、そういっていただけると医者冥利に尽きます」


ごしゅ?何か変なことを呟いていた気がするけど、気のせいか。俺と軽く挨拶を済ませると、先生は沙雪と向き直った。


「沙雪さん、例のモノが届きました」


「やっとですか。ありがとうございます」


「はい。では、また後で」


先生は沙雪に何かを渡すと、どこかに行ってしまった。沙雪は先生を見ずに、一目散にダンボールを開けていた。沙雪がダンボールをビリビリに破けるほど元気になったのかと俺は目頭が熱くなった。


「これだぁ。やっとスマホとドローンが届いた」


「『スマホ』?『ドローン』?」


「うん。兄さんに誕生日プレゼント」


「え?」


「いつも私のためにありがとう。大好きだよ」


「さ、沙雪ぃ」


「ダ、ダメだよ!ここは病院だよ!?」


俺は感極まって沙雪に抱き着いてしまった。誕生日プレゼントなんてここ十数年貰ったことがなかった。何よりも義妹に大好きだと言われてしまっては、今までの苦労が報われた気がした。


がんばってきて良かったぁ。沙雪の治療費は馬鹿にならない。それを毎月納めないと沙雪が死んでしまう。どうして、俺の金を血のつながらない妹のために使わないといけないんだと疑心暗鬼になってしまったこともあったが、そんなこともどうでもいい。


「兄さん、喜んでくれているは分かったから、せめてプレゼントの話を聞いてよ?」


「あ、ああ。ごめん、嬉しすぎて興奮が抑えられなかった」


俺は椅子に座り直す。そして、沙雪に『スマホ』とドローンを手渡されるのだが、正直、何がなんだかわからない。俺は上下左右、ひっくり返して、色々見る。特に、この薄い板みたいなのが、何なのか分からない。


「それは『スマホ』って言ってね、私のスマホと通信ができるんだ」


沙雪は『スマホ』と言われるものをもう一台取り出した。そして、何か操作すると、それを耳に当てた。俺が訝しんでいると、俺のスマホがブーブーと動いた。


「兄さん、それを耳に当てて、病室から出てみて」


「お、おう」


俺は言われるがままにスマホとやらを耳に当てて、病室から出る。すると、


『兄さん、聞こえる?』


「うお!沙雪の声が聞こえる!?」


スマホから沙雪の声が聞こえた。


『ふふ、凄いでしょ?これがあれば兄さんと離れていても会話ができるんだよ?都会だったら必需品らしいからね』


「す、凄いなぁ。都会」


改めて田舎暮らしの俺からすると、外の世界は進んでいるなぁと実感させられた。すると、ブツっと切れた。病室に戻ると、沙雪が笑顔でこっちを見ていた。


「ということでこれが私からのプレゼント。どう?気に入ってくれた?」


「ああ。これで沙雪の声が毎日聞けるな!」


「ふ、不意打ちは卑怯だよ…」


沙雪の顔が赤くなった。些細なことで沙雪の体調は悪くなる。俺は沙雪が病人だということをうっかりしていた。俺と一緒にいるから無理をしているのかもしれない。あまり長居は良くないな。


「それで、この『ドローン』っていうのはなんなんだ?」


「も、もぉ兄さんったら」


「沙雪ぃ?」


「あっ、ごめん。それはドローンっていってね。そのスマホと連動してるんだ。簡単に言うと、それが兄さんを追跡して、撮った映像を『配信』するんだ」


「ご、ごめん。沙雪。俺にはお前が何を言っているか分からない」


配信だとか追跡だとか言われても根っからの田舎育ちには何を言われても何も分からない。俺の家には機械はほとんどない。あるのは扇風機と掘りごたつだけだ。


「とりあえず起動してみよっか。スマホ見して」


「ああ、うん」


沙雪と一緒にスマホを見る。すると、沙雪がスマホを触ると、そこに画面が現れた。


「このスマホをタッチして、ここのボタンを押すと、ほら!」


「うわ!」


ドローンと呼ばれる機械が病室を飛ぶ。そして、俺のすぐ横でピタリと止まった。


「な、なんか見られている気がするんだけど」


無機質な瞳でずっと見られているようなそんな気分になる。黒い穴を俺もじっと見つめてしまう。


「これはドローンって言ってね、うーん、かいつまんで言うと兄さんを追跡させることでお金を得ることができるんだ」


「それは凄いな!」


お金という部分に惹かれてしまう。これはお金を生む機械なのか。そう思えば、ドローンにも愛着がわいてきてしまう。というか都会の人たちはこんなお金を生み出す機械を使っているのか。そりゃあ田舎と格差が生まれるわ。


「ドローンは兄さんが寝ている間に勝手にコンセントで充電するから、何もしないでおいてね?」


「任せてくれ」


多少、視界に入るけど、慣れれば気にすることもなくなるだろう。そこからは他愛のない話を一時間くらい話した後、俺は重い腰を起こした。もう少し一緒に居たいが暗くなる前にダンジョンに潜っておきたい。沙雪の医療費のためだ。少しでも稼いでおく。


「それじゃあ、俺は帰るわ」


「うん、またね、兄さん」


俺は病室を出て、顔なじみの看護師さんに頭を下げ、病院を出る。すると、ふと頭に思いついた。俺は早速スマホを使ってみた。確か、沙雪に連絡するにはこうだったよな…?


『どうしたの兄さん?』


「あっ、繋がった。沙雪に言い忘れたことがあってさ」


『何?』


「ずっと愛してるぞ」


『はう!?』


「おい、沙雪!?沙雪!?」


ブツッと切れてしまった。俺はスマホの操作を誤ってしまったのかと悲しくなった。視界の端に映るドローンがずっと見ていてくれているので、少しだけ慰めて欲しかった。


━━━


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