天使と悪魔の輪舞 ~学校に天使と悪魔が転校してきてなんだか張り合っているんだけど、僕を挟んで勝負をされると困るんですけど~

川獺右端

第一話 天使ならびに悪魔恐怖症

 魔界の第二位にレビアタンという大悪魔がいる。

 リバイアサンの別音訳だったりするのだが、まあ、大海竜で凄い能力を持っている存在だ。


 そのレビアタンさんが、ヤマザキストアの前の肉まんあんまんの蒸し器をじっと見ている。

 僕は登校中、その光景を見つけたのだが、頭の悪い魔物女にかかわると遅刻しかねない時間なので、無視して通り過ぎようとした。


「まって、吉田君」

「……うるさい」


 レビアタンは僕の制服の後ろをぎゅっと掴んで、登校を妨害した。

 うるうるとゆれる瞳で僕を見つめる。


「私、肉まんが食べたいの……」

「買えば?」

「今月お金ないの」

「じゃあ、諦めろ」

「十二月の早朝の寒空の下、ほかほかの肉まんを食べるのは、さぞ幸せでしょう」

「僕のお財布が百円分不幸せになる」

「私は大悪魔だから、そんな不幸はちっとも気にならないわ」

「僕は大変気にする、というか、ここで百円を使うと、帰りに『ガッツイーブン』の三巻目が買えなくなる」


 ガッツイーブンは、今、僕の中で大流行のライトノベルだ。


「わ、私のおっぱい見たい?」

「み、見たくねえっ!」

「ひゃ、百円でそんな所まで見たいというのっ! なんて強欲なっ!! マモン憑いてるんじゃない?」

「七大罪の悪魔なんか憑いてねえっ! というか、レビの色々な部分は見たくないって言ってるだろう」

「さ、触りたいの……? でも、吉田くんだったら……」

「うがーっ!! 黙りまくれっ、貴様っ!」


 と、ヤマザキストアの前で揉めていると、レビアタンと同じぐらい厄介な代物が、僕たちの横を通り過ぎ、店員に声を掛けた。


「すいませーん、肉まん五個ください」

「やあ、ガルガリンちゃん、いつも可愛いね」


 店員さんはガルガリンにおせじを言いながら、肉まんを五個袋に入れて渡した。

 路上でいきなりパクパクと肉まんを食べ始めるガルガリンをレビアタンが物欲しそうに見つめていた。


「ずるい、一人で五個も、ガルガにはベルゼゼブさまが憑いてるのだわっ!」

「飽食なんかっ、うぐうぐ、憑いてない、まぐまぐ、座天使ガルガリンに悪魔は憑かない」

「座天使って、なんか、長っ尻で座ってる落語家みたいで、格好悪いわ」

「うるさい、もぐもぐ」

「朝から肉まん五個食べるような人でなしの大食いの天使にはふとっちょの呪いが掛かるわよ!」

「喧嘩するなおまえら」


 なにしろ、天使と悪魔なので、レビアタンとガルガリンは仲が悪い。しかも頭の程度は同じぐらい悪くて子供っぽい。

 僕たちの頭上に学校の予鈴が響き渡った。

 とりあえず、僕は頭の弱い子達を置いてきぼりにして、学校へ昇る坂をダッシュした。


「うわわー、まってよう、吉田くん~」

「まぐ、まぐぐっ、まへー、よひだー」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 三年前の事だ。

 東京上空に百万ぐらいの天使と、百万ぐらいの悪魔が大挙して訪れた。

 とりあえず、各国首脳を交えて、臨時サミットとなった。

 大天使ミカエルと大悪魔ルシファーは語った。


「神は三界をお作りになられた、いとたかき所にホザンナ」

「とりあえずだな、三界のうち、この人間界は圧倒的に力の無い世界だ」

「聖なるかな、聖なるかな、力の弱き世界は力ある世界に併呑されるのが理」

「というわけでよ、俺ら悪魔と、天使どもが、人間界を併呑するために別の次元で戦争してるわけ」

「主はよろず世のさきに、父より生まれ、神よりの神、あとしばらくにて戦の決着をいざつけたまわん」

「決着が付いて、勝った方が人間界を取ると、そういうことだ」


 もうすぐ人間界争奪合戦の決着が付くから、その前に、人間界統治の方法を知るため、世界各国に天使一人、悪魔一人ずつを留学させたい。という主旨だった。


 全世界が呆れた。


 呆れたんだが、なんとも打つ手がなかった。

 天使も悪魔も現有近代兵器でどうかなるような感じがぜんぜんしなかった。

 仕方がないので、各国二人ずつ、天使と悪魔を引き取ったのだった。


 で、日本に来たのが、レビアタンとガルガリンなのであった。

 二人は日本に来て、国費で遊んで遊んで遊び暮らしたあげくに、去年、遊びあきたから学校へ行きたいとかぬかしやがった。

 全国の校長を集め、籤を引かせた所、我が浜崎第四中学校の校長が赤い籤を引いた。

 引いた瞬間校長は泡を吹いて倒れ、今も入院中だが、厄介な天使と悪魔は我が校に来た。


 悪魔が来る、天使が来ると、校内騒然となり、出席率十七%の閑散とした学校へ二人は降り立った。

 どんな怪物が来るかと思っていた僕たちは肩すかしをくった。

 二人ともなんとも愛くるしい美少女に変化していた。


 リバイアサンは黒髪で眼のくりっとした小柄な少女に、ガルガリンは金髪碧眼で背の高いキリッとした少女に変化していた。

 その見目麗しい姿に、さすがは高等な魔法生物と皆怖れおののきながらも憧れの眼差しで見ていたのだが、朝礼台の上からレビアタンが転げ落ち、おぱんつを見せて半べそをかき、それを台上から腹を抱えて大笑いのガルガリンを見て。

 これは、お馬鹿な生き物だな……。

 と、我々が正しい判断を下すのに一時間も掛からなかったのだった。

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