IronBlood-FakeLeg

マンドラゴラ

幕開き

軍隊に入って半年程たった時、俺は負傷した敵国の兵士を救ってしまった。

弾幕と爆撃の中、死を覚悟して敵軍の元まで彼女を送り届けた、迎えに来たのは敵軍の隊長と思わしき男だった。

状況を察してか俺は捕虜にされることもなく味方の元へと届けられた。

その時にはすでに脚の感覚は無いに等しかった。味方のもとに届けられた瞬間目の前が真っ暗になった。


目を開けるとそこは医務室だった、横には見知らぬ男と女がなにか話している、男の方はしっかりとした体つきに軍服、放たれる圧はいかにも歴戦の兵士といった風に見える。女の方はボサボサの髪に白衣を着ていて医務室のドクターかと思ったが、腕章には [兵装技術開発局] と書かれていた。


「目が覚めたようだな、」


軍服の男はこちらに気づき安心したように呟いた。


「君、今なぜ自分がここにいるのか記憶はあるか?」


白衣の女は機械を操作しながら尋ねてくる。

記憶はもちろんのこと自分がこのあとどうなるかも検討はついていた。


「はい、覚えています。俺は…やはり罰せられるのでしょうか。」


俺は敵国の兵士を救ったその上捕虜になる可能性もあるにも関わらず敵の本部に向かった、罰せれることなど考えなくてもわかることである。


しかしそれを聞いた二人は互いの顔を見合わせて笑い始めた。


「フッ、そんなことあるわけないじゃないか」


白衣の女は心底面白そうに笑った。そんなにおかしなことを言っただろうか。


「君のやったことは、人として誇るべきことだ。少なくとも、敵国の部隊長と話す機会を得られた。おかげで今はこの地域の戦闘は停戦中だ。

君は一時的とはいえ戦いを止めたんだ。そんな勇者を罰するなんて、神が許しても俺たちが許さんよ」


軍服の男はそう言って手を差し出してきた。


「ウィルドマンだ、兵装部隊の指揮を執っている。」


差し伸ばされた手をとる。


「ボロです、助けていただいて感謝します。」


そう言って起き上がろうとしたが体に力が入らない、意識がはっきりしてきたと同時に足の感覚が全くないことに気づいた。視線を向けると脚には機械が取り付けられていて、そこには多くの管が刺さっていた。管の中は赤い液体が満たされている。

感覚が無いお陰なのか痛みはなく、まるで自分のものではないように見えた。


「こ…れは、」


言葉を失ったボロを見て白衣の女は真剣な顔で口を開いた。


「君の脚はこちらの軍に送り届けられた時にはすでになぜ動けるのかわからないほど負傷していた、敵軍内で何かされたわけでもなさそうだったからきっと爆撃の中走る中で負傷し続けたんだろうな。その結果がその脚だ、医療班が死力を尽くしたが君の脚は治らなかった。

それでも左足はリハビリをすれば動くまでには治療できたんだ。

問題は右足だ。」


そう言って白衣の女はウィルドマンを見て何かを確認する。

ウィルドマンは何かを決意したような顔をして頷いた。

それを確認して白衣の女はボロを見て言葉をつづけた。


「単刀直入言おう、君の右足はもう元には戻らない、」


ボロはうめき声のような声を漏らした。

故郷を守りたいと戦争を終わらせたいと思ってボロは軍隊に入った。

しかしもうそれはできないのだと、感覚のない脚から痛みを感じるような気さえした。


「絶望しているところ悪いが君に一つ問いたい」


白衣の女は少し悪戯めいた顔でボロの顔を覗き込む。


「まだ戦える方法があったと言ったらどうする。」


「そんなことできるんですか、」


「あぁ、ただ成功するかどうかはわからない。失敗すれば君は苦しみながら死ぬことになる。」


このまま何もできずに死ぬよりマシだ。


「成功すれば、この戦争を…止めることができますか?」


自分でも笑われると思うような夢を口に出した。それを聞いた二人は先ほどのようには笑うことはなかった。


「できるよ、ボロ、君はその夢のために私たちとともに命を懸けてくれるかい?」


いま会ったばかりで相手のこともこれからどんなことをされるのかすら分からなかったが、その言葉は命を懸けるに値するものであるように感じた。


「はい。」


それを聞き白衣の女は嬉しそうに手を伸ばした。


「デミ=ヒサギ・ラヴァットだ。よろしく。」


俺はその手を強く握り返した。


それから俺は約1か月かけて脚に兵装と呼ばれる装備をつけていった。

1日に一回、体の血液を少しづつ抜きそれと同じだけの量の疑似血液と呼ばれるものを体に入れる、時折吐き気や体の違和感に襲われた。

ヒサギが言うことには人口血液に対する拒絶反応ということらしかった。

兵装というのは体につけることで尋常ではない力を扱えるようにするものらしい、

これまでも多くの負傷兵に試したがほとんどが拒絶反応で苦しんで死んでいった。そう語ったヒサギはあれは人体実験だと苦しそうに呟いた。

今回俺にしているのは急激な血液の入れ替えに耐えられるように少しづつ疑似血液を入れていくというものだった。しかも入れる疑似血液自体もこれまでのものと打って変わって新しいものを作り直したらしい。なんでも、抜いた俺の血と疑似血液そこにヒサギの血を一定の割合で混ぜたものを使っているそうだ。


「当人の血と疑似血液を馴染ませるんだ、中継ぎのために私の血も入れた。三本の矢みたいなもんだよ。これで君には私の血が流れてるからね、ほとんど姉弟みたいなもんだね。」


と、ヒサギは笑った。もとより血のつながった家族はいなかった俺にとってそれは少し嬉しいような何とも言えない気持ちになった。


そして1か月後、俺の実験は成功した。疑似血液の回復力もあってか左足は今まで通りに動くようになった、右足には黒鉄色の義足もとい兵装が装備された。

それから少しして義足の使い方に慣れた頃、俺とヒサギはウィルドマンに呼ばれ軍の本部に連れていかれた。


広く壁に囲まれた場所入れられた俺は周囲を見渡す。壁は一部ガラス窓になっていてそこからヒサギやウィルドマン、そして知らない者たちがこちらを見ていた。


『ボロ、聞こえる?」


スピーカーからヒサギの声が聞こえた。窓の外のヒサギに大丈夫だと頷くとヒサギは悪気もない様子で


『ボロごめん、実はなにも許可をとらずに君に義足をつけたのバレちゃった。

このままだと私とウィルドマンは厳重処分で最悪殺されちゃうから頑張って。』


とむしろ楽しんでいるかのように告げた。

いや、結構ピンチじゃん。

スピーカーからの声は続けられる。


『だから今から君には実験の成果を見してほしい。そこにいるお偉いさんたちを満足させれば私たちは生きれるから。』


その言葉を合図に目の前の壁が開き、中から3メートルはあるであろうロボットが入ってくる。軍で使われている無人戦闘ロボである。


『そいつをぶっ壊せたら合格だよ!!大丈夫だ今の君はただの人間じゃない。その程度の相手なら問題なく戦える、君の力を見してくれ!!」


そうしてスピーカーからの声は聞こえなくなった。


ロボットと対峙する、自分の2倍ほどある金属の塊はとても倒せるものとは思えなかった。

そのときボロの腹に拳がめり込む


「ゔっ、」


ボロは数メートル後ろに飛ばされる。


「ゴホッ…いってぇ、」


窓を見るとヒサギが爆笑している。横にはウィルドマンが自分の頬を指さす。

ん、 ?

頬に強い衝撃が走る


「んがァ!!」


またしても後ろに飛ばされる。相手の方に向き直すとロボットはすでにこちらに迫っていた。そしてまた攻撃が繰り出される。

ボロはそれをすんでのところで全力でよける。


「…お?」


ロボットに向きなおった時、相手との距離が異常なまでに離れていることに気づいた。下に目を向けると義足が発光していた。


心なしか熱いような気がする、それに体が軽いような・・・

ふと、リハビリの時にヒサギが言っていたことを思い出す。


「その脚はボロのやる気次第でどうとでもなるから、頑張ればどこまでも強くなるよ。何も考えず、自分の脚だと思って使いな、試しに踏ん張ってみれば?」


その言葉通り脚に力を入れる、

カチカチカチと義足が音を立てる

体をめぐる血液が速くなり始めた。


こちらに向かってくるロボットに向かって飛び出す。

一瞬で間合いに入る

そのままありったけの力を込めて脚を振りぬく


「うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!!」


脚を振りぬいた瞬間、ロボットは砕けそして溶けながら散った。

散った部品がはるか先にある壁にぶつかる

脚からは煙がとめどなく漏れ出ていた。


窓の外では人々がこちらを恐怖したような目で見ていた。


すぐに壁が開きウィルドマンとはヒサギが入ってくる。


「よくやったねボロ!!大成功だよ!!これで私たちは生きていけるよぉー」


うれしそうに跳ね回るヒサギの横でウィルドマンは静かにこちらを見ていた

外にいる者たちとは違うなにかを考えているような目だ、


「ボロ、お前にはこれから俺のもとで働いてもらう。そしてそこの馬鹿とお前は運命共同体だ。責任というやつだな、お前は今から少尉となったそこの馬鹿もな。

これからよろしくな。ボロ・ラヴァット少尉。」


その後、すぐに国軍戦線兵装機動隊が発足その隊長にウィルドマンが就任、また中央支部技術部の部長にヒサギが就任した。

それを皮切りに安全性を追求した第二世代兵装が開発、普及した。


第二世代兵装ができるまでの間、俺たちは化け物だと恐れられた、中には軍に反乱を起こし大規模な被害をもたらした兵装持ちもいた。

その結果第一世代兵装といわれる俺たちの生き残りは8人になった。


戦場に出てこの脚で人を殺すたびに俺はもう人ではないのだと痛感する。


人を救って失ったこの脚は誰かを殺す兵器になった、それでも俺は前に進まなければならない。















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