第29話 幻覚の現実性 その三

そして、一回目と二回目の時よりさらに期間が空いて三回目、ベッドで横向きで寝ていてパッと目が覚めると今度は目の前にクモである。

ガバッと起き上がった私は、今回は絶対に処理する、とかたい決意と共に前回の本を手に取り、叩き潰そう、とティッシュをあさっていた。

その間、絶対にクモを見失わないようにずっとクモを凝視していた。

クモは、ベッドの枕元からトコトコ移動していき、カーペットの敷いてある床の上に移動した。

そして、カーペットと同化するように、沈んでいくように、とも感じた。

そんな風にスーッと消えていったのだ。

ずっと見ていたから気づけたのである、その瞬間は意味がわからず ハァ?

と思ったが、その後、アレもコレも幻覚だったんだ、と思った。

そして、幻覚と現実は絶対に区別できないと思った。

少なくとも、目の前でクモが消えていった、なんて事がなかったら今回も幻覚だなんて微塵も思わなかっただろう。

完璧に現実として見えているのだから。

こんな話は経験がない人からしたら、与太話でしかない。

そもそも長すぎる、だから人に話せる内容ではないが、幻覚というものの現実性を私は知っている。

そして、それは気づく事のできないものだという事を知っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る