第25話
〈やぁ、ディアーナ〉
〈エルヴィン、こんばんは〉
〈ソルも元気にしてる?〉
〈ええ、もちろん。ソル。エルヴィンよ――にゃぁ――あ!挨拶したのね!ねぇ、今の聞こえた?〉
〈うん。聞こえた〉
僅かだけど就寝前に彼と話す時間は、私の好きな時間だった。
〈そういえば、良い話と悪い話があるんだ。どちらから話そうか。どちらからがいい?〉
〈んー、悪い話から〉
〈ディアーナならそう言うと思った〉
〈だって。悪い話で心が乱れたら、良い話で落ち着けたいじゃない。嫌な話で終わると眠れなくなりそうだし。嫌なことは先に済ませたいのよ〉
エルヴィンは〈ははは。君らしい〉と笑ってから話し始めた。
〈少し前からそちらでまた魔物が増えていると言っていただろ?その原因がわかったんだ〉
〈原因がわかったのに、悪い話なのね〉
〈あぁ……。原因は、黒き魔女の仕業だった〉
黒き魔女とは、この世界に住む悪い魔女のことを指す言葉。
魔女には良い魔女と悪い魔女がいて、悪い魔女はとても気まぐれで気難しい性格をしているという。
黒き魔女には一般的な常識や価値観が通じないことが多い。
この世界には、魔法と魔術がある。
人知を超えた力を発揮するとき、素養がある人が補助としての道具や魔法陣を用いさえすれば技を繰り出せる――それが魔術。
道具に頼らず、己の力と呪文だけで技を繰り出せるのが魔法。
聖女の力は魔法の類い。聖女のように人の為に魔法を使う者を、他国では白き魔女とも呼んでいる。
黒き魔女は、本人たちに悪さをしているつもりがなくても、はた迷惑なことをする場合が多い。
この国の常識から逸脱している彼女らは、自分がしたことでどこにどんな影響が出ようがお構いなし。
彼女たちの考え方はとても簡潔。
自分がしたいかしたくないか。楽しいか楽しくないか。
ただそれだけだという。
こちらに良い顔をしてくれているときはいいが、そうではないときが厄介だった。
気分屋で油断ができない。
〈黒き魔女がどうして?〉
〈少し前に、ディアーナがいる離宮の端のほうの土地が気に入ったから欲しいと申し入れがあったんだ。だけど、王はそれを拒否した。それが癪に障ったようだ。代替案を出したけど、それについては無視された。欲しいのに自分の手に入らないならまた魔物が沢山出る土地へ戻ってしまえばいい――ということだろうな〉
〈……なるほど〉
私の管轄区域の端のほうで少し前から魔物の出現率が上がっていた。
一度浄化したらしばらくは出現しなくなるのに、その場所だけ浄化してもあっというに出現するようになった。
私の力が弱まってきたせいではないかと追加で聖女を送ることが検討されていた。
まさか黒き魔女が腹いせに魔物を出現させていたとは。
〈で、良い話だけど〉
〈うん〉
〈離宮へ行くことになった。明日、離宮に向けて発つよ〉
〈えっ!こちらに来るの?〉
〈うん。嬉しい?〉
〈もちろん!まだしばらく会えないと思っていたから、凄く嬉しいわ!〉
〈僕も嬉しいよ〉
〈でも……魔物が増えているのに。危険ではない?〉
〈その件で行くことになったんだ。黒き魔女と対話を試みるために〉
〈黒き魔女と?ある意味魔物より危険だと思うわ。もう少し時期をずらしたらどうかしら?黒き魔女が原因だとわかったのだし、私で対抗できるかもしれない〉
〈だからこそ僕が行くんだ。この国を統べる王族の代表としてね。どうしたら許しを得られるか、策は考えられている。皆で熟考したし、きっと大丈夫だよ〉
まだしばらく会えないと思っていたから、会えることは本当に嬉しい。
だけど、なんとなく今は来ないほうが良い予感がする――――
〈……来るのは決定事項なのね〉
〈今はまだディアーナの力で魔物は抑え込めているけど、魔物の出現範囲を広げられたりしたら厄介だしね。今のうちに対処したほうがいい〉
〈わかった。気を付けて、くれぐれも〉
〈ありがとう。あ!それと今回はいいお土産を手に入れられたんだ。楽しみにしていて!〉
〈えっ、お土産?何?気になる〉
〈着いてからのお楽しみだよ。それじゃあ、また連絡する。おやすみ〉
〈おやすみなさい〉
このときの私の予感は現実のものとなる。
胸騒ぎしていたのだから強固な姿勢で反対するべきだったと、今なら言える――――
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