16話
先ず、なぜ下層区域や中層区域などと言う区域が出来たのかという点から話そう。
数十年前、この日本ではある出来事があった。それは異能の発現である。異能という人知を超えた力は人を混乱に貶めるのに十分なものであった。
次々に異能を発現させる人たち。それに伴い犯罪率が大幅に増加した。この期間は暗黒期と呼ばれている。この暗黒期に一部の地域では治安が一気に悪化し、不良や半グレなどの犯罪に躊躇が無い層が居座るようになった。
勿論警察などが出動した。しかし異能を用いた戦闘は苛烈を極めた。
そのため一部地域は国から見放された。その結果治安は最悪であり、警察が介入することも無い地域が誕生してしまったのだ。
今では犯罪率の9割は下層区域での犯罪だとされている。
といった所だな。国に見放され、住人すらも居なくなり、その結果が今の下層区域だ。
唯が必死で止めた理由も分かるものだ。こんなところに一人で行くのは自殺行為だろうな。
逆にその暗黒期でも金持ちや政治家が住む町などが上層区域になったと言うわけだ。
ここら辺が本から得れた知識だろうか。
「そろそろ時間だな」
既に時刻は12時を少し過ぎていた。唯と一緒に昼飯を食べることになっているため急いだ方がいいだろう。
小走りで校舎を駆け巡る。
そうこうしない内に翼の居る教室までやってきた。
「翼ー!飯だ!」
教室からは視線を感じるが、あまり気にしない。
ここ数日はずっとこんな感じなので教室のやつらも慣れてきたのだろう。
翼も俺が教室に入るなり、やれやれと言った感じの顔で見てくる。
「全くもう……騒々しいんですから」
「そうだ翼、唯も飯に誘ったんだが良かったか?」
既に誘っているため拒否されようがもう遅いけどな。
「そうなんですね。久しぶりに賑やかそうで良いですね」
お許しは貰えた。
「いつもの裏庭で待ち合わせしてる。早く行こうぜ」
「あ、連理のお弁当忘れてしまいました……」
「えっ!?マジ?それは由々しき問題だぞ」
非常によろしくない。俺の一日の最大の楽しみと言ったら咲良のご飯を食べる事である。
咲良の弁当が無いとなると一日の楽しみが無くなってしまう。
「はい.....。どうしましょう....」
しょうがない。
「俺の学園での出入りって自由だよな?だったら取りに帰るわ」
歩いて20分くらいだっただろうか。全速力で走ればあっという間に往復する事が出来るだろう。
「大丈夫でしょうか……。」
「すぐ帰ってくるから先に裏庭に行っててくれ。すぐ戻る!」
そう言い俺は教室の窓から飛び降りる。
「え!?連理!?」
上から翼の声がするが気にしない。今は屋敷へ戻るのが最優先だ。
セキュリティに一々話を通すのは面倒くさいな。
「よっと。さてと出来るか…..?」
俺はセキュリティの居る所を避ける。
避けると言っても見られては意味が無い。最大限まで気配も音もシャットダウンする。
周りの環境に溶け込む。ごく自然体であるかのように。
「此処まで来れば十分だな。素通り出来るゲートで助かったぜ」
そこからは屋敷まで直ぐだった。毎日走っているお陰だな。
「咲良ー!!弁当忘れたー!!」
屋敷に入るなり叫ぶ。
「なになに!?え?学園はどうしたの???」
「全速力で抜けてきた。翼待たせてるから早めに頼む」
「お弁当?それなら学園に翼様の分もまとめて送ってるわよ」
ん???どういうことだ。
翼は確かに屋敷に忘れたと言っていた。
「翼が屋敷に忘れたって言ってたぞ??」
「それはないわ。だってお弁当は私が学園に届けるのよ」
ん???じゃあなんで翼は弁当が無いなんて嘘をついたんだ?
皆目見当も付かない。
目的のものが此処に無いことが分かったため、学園に戻ることにした。
「意味わかんねぇな……」
嘘をつくメリットが思い浮かばない。
何か隠したい事でも?
考えても埒が明かないので小走りで屋敷からでる。
「愛してるぞー!咲良ー!」
取り敢えず去り際に軽口だけ叩いておく。
瞬く間に学園に戻ってきた俺は翼に問いかける。
「おい翼、なんで嘘つくんだよ」
そこには既に唯も居て、二人で談笑しながらお弁当を食べていた。
「やっぱり思ったより早かったですね。普通だと後10分くらいは掛かるんですけど…」
照れちまうなぁ。
ちがうちがう。今は何で嘘をついたのかって話だ。
「ちょっと唯と二人で話したかったんです」
嘘だな。二人で話す事は幾らでも出来る筈だ。幼馴染でもあるしな。
という事は他に理由があるという事だ。
「それも嘘だろ?俺を試したな?」
多分だがな。
「..........。そうですね。なんとなく連理は見通してそうなので隠す意味もありませんね」
ったく。弁当が待ち遠しいって言うのに。
「まあいいや。弁当よこせ」
翼が弁当を渡してくる。
「でも翼ちゃんは何で連理さんの事を試したの?」
唯が翼に問いかける。
まあある程度の予測は付く。
大方セキュリティが素通り出来るって所あたりが嘘だったのだろう。
だから屋敷に帰ることは普通出来ない。翼が居ない限りな。
初日にセキュリティは素通り出来るだなんて可笑しいと思ったぜ。
だからこそ試したのだろう。
「連理には私を護ってほしいからですよ。だから少し試しちゃいました」
テヘっとしながら言う。
「護ってほしいだぁ?」
「はい。いずれ必要になるときが来ると思いますので」
恩人の頼みは無碍には出来ない。
「まだ護るなんて一言も答えてないけどな」
「護ってくれないんですか……?」
そんな目で見つめるな。俺はチョロくないんだからねっ!!
「死にそうだったら助けてやるよ」
「あら、優しいのですね」
言質は取られてしまったな。
「連理さんと翼ちゃんってどういう関係なの?」
しまった。唯には護衛って言う事で通っているんだったな。
「難しいな。翼は俺の恩人なのは間違いないな」
「そうなんですね…。でも羨ましいです。連理さんが護衛なんて」
「だってよ翼。感謝するんだな」
「とんだ拾い物です」
俺は物!?やはりサドッ毛がある気がするぜ。
「確かに忠誠心の高いワンちゃんみたい」
うふふといった感じで唯も便乗する。
「俺を犬畜生と一緒にするな!」
「たしかにそれではワンちゃんに失礼かもです」
このアマ…。
「あー腹減った!飯だ!飯!」
話を逸らすため弁当を食べる。
「うんめー!!」
「連理さんってそんなに食べるんですね」
「その分運動もするからな。お前らももっと食え」
そういい俺は翼と唯の弁当箱に肉を入れていく。
特に唯なんか異能が異能なだけに食事は重要だろう。
「お昼からお肉は…。でもありがとうございます」
唯はなかなか小食なんだろうな。だからこそ異能でのデメリットも大きくなるのだろう。
それから色々話しながら昼ご飯を食べていった。
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