第4話
屋敷は軽く50部屋はありそうなくらい広かった。
そんな屋敷を俺は屋敷のメイドであろう女の案内に従う。確かあの少女....翼からは綾香と呼ばれていた。さすがは良家のメイドというところだろうか、容姿も仕草も完璧であった。
「にしても.....広すぎだろ」
ぽつりと独り言が漏れる。
思わぬことにメイドから反応が返ってくる。
「飛鳥家ですので、周囲に偉大さなどを示すためにこの大きさになっています」
メイドが笑顔でこたえる。
金持ちの性なのかねぇ....。ようするに見栄だろう。たしかにおっさんはプライドが高そうだった。
しかし結構歩いたが思ったより質素というか、何もない。
「なんか壺とかないのか?結構質素な感じがするぜ」
「これだけの広さなので、均一に飾ろうと思ったら結構な金額がかかってしまうからですよ。それに、この屋敷に人は基本的に来ませんから」
飾っても人が来ないのだから飾る意味が無いという事だろう。
しかし使用人が見当たらない。こんだけの大きさの屋敷ならば相当な数の使用人がいるはずである。
「メイドってお前だけなのか?まだ誰ともすれ違ってないぞ」
純粋な疑問を口にした。
「私だけではありませんが....。そうですね.....。一応この屋敷の使用人は私含め6人です」
少ないことを自覚しているのだろう。少し言葉に詰まりながらこたえる。
しかし...6人か。この大きさの屋敷からして少なすぎるのではないだろうか。
掃除するにしても6人だけではこの広さは無理だろう。
「掃除とかどうしてるんだ?6人でこの屋敷を掃除するのは無理じゃないか?」
「空いている部屋などは毎日ではなく定期的に清掃しています。毎日の清掃は使用される部屋などに限定しています」
「おっさんが使用人を雇うのを渋ったんだろ?」
憶測を口にしてみる。多分だがあのおっさんは拷問が趣味ってことを隠しておきたかったのではないだろうか。
はたまた拷問部屋がこの屋敷にあったり?まあすべてただの憶測にすぎないが....。
「......そう.....ですね。旦那様は人があまりお好きではなかったからだと思いますが、おおむね連理さんの言う通りです」
メイドが渋い顔でこたえる。
「この屋敷で俺が拷問されていたのか?」
おっさんは食事から戻ってくるのが早かった。ならば屋敷にある可能性も少なくないだろう。
「.............。私からはお答えしかねます」
なんとなく反応からわかってしまう。
なるほどな….。素直な女の子なんだろう。嘘がつけなそうな性格そうである。
「そうか。すまないな色々質問してしまって」
この話題を終わらせるために謝っておく。
「いえ....。私に質問があればなんなりとお申し付けください」
そう言いメイドが歩き出す。これから案内の続きをするのだろう。
暫くあるき大ホールらしき場所にやってくる。
豪華絢爛というほどではないが今までに比べ幾分か金持ちの屋敷らしくなった。
「ここは?」
たずねてみる。
「ここは玄関ですね。先ほどは裏口から入ってきましたので」
玄関ね.....。先ほど歩いてきたのは屋敷の裏側だったわけか。
玄関では道が3つに分かれており、二階に上がる階段などがあった。多分右にあるのは食堂だろうか。
食堂にはメイドが見える。あれがこのメイドの言っていた残りのメイドたちか.....。
「綾香ちゃんだ~!その子は例の?」
なんともアホそうなメイドがいたものである。アホそうというより抜けてるというべきか。
「優菜....。私はいま仕事中なのでまた後にして」
そっけなく突き放す。
「そんなこと言わずに一緒にご飯たべようよ~」
仕事中でもお構いなしのようだ。
「はぁ....。連理さん、お腹がすいてませんか?良ければ今からお食事になさいますが」
最近食べたものと言ったらネズミやゴキブリだったのでありがたい。
「いいのか?金はないぞ?」
あとからお金を払ってくださいと言われないよう保険を掛ける。
「大丈夫ですよ。ではお食事に致しましょうか」
そういい食堂の奥に入っていった。
まさか料理を作るのだろうか。
「連理くんって言うんだ~。よろしくね~。私は優菜だよ」
横から声を掛けられる。なんとも気が抜けそうな声である。
「ああ.....。おれは連理だ。こちらこそ迷惑をかける」
「そんなことないよ~。この屋敷男の子居なかったから大歓迎ですよ~」
おっさんはよっぽど男嫌いだったんだろうか。
泥棒に入られたらこのメイドたちでどうするのだろうか。と考える。
「大丈夫なのか?守衛とかいないのか?」
「この付近は治安がいいですから~。それに上層区域に入るには許可証が必要ですので~」
上層区域ときたか。
この世界では4つの区画がある。一つがメイドが言った上層区域。
端的に説明すると金持ちが集まったエリアだ。そのため治安が良く犯罪率が少ないというかほぼゼロだ。
上層区域の外側には中層区域がある。ここは一般の市民が生活するエリアだ。遊園地や水族館なども基本的に中層区域にある。治安も悪くない。
その中層区域のさらに外側に下層区域がある。ここは犯罪者や身寄りのない者が集まるスラム街
になっている場合がほとんどである。治安は言うまでもなく最悪で、たとえ人が死んでも問題になることはない。
また下層区域の更に奥には深層区域と呼ばれる区域があるといわれている。
これは噂にすぎないが、下層区域からさらにはみ出たものだけが住んでいるらしい。
記憶のない俺からすれば中層区域で住みたいものだ。
と思っていると綾香と呼ばれていたメイドが戻ってくる。
「お食事が既にできているそうですので、いったんお食事にしましょう」
席に案内される。
金持ちが食べる物には少なからず興味がある。
研究所で生活していた時もろくな食べ物は与えられなかった。そのため食に飢えているといってもいいだろう。
席についてそうこう思っている内に料理が運ばれてくる。
席に次々に料理が置かれていく。
8人分あるようだ。
いい匂いだ….。よだれが反射的にあふれそうになる。
「.....ジュルル」
危ない危ない。唾液が思っているより出ていたらしい。
なんの肉だろうか。とりあえずフランス料理みたいな綺麗な盛り付けだった。
一刻も早くこの肉に齧り付けと脳が命令する。
しかしメイドたちが未だに静かに座ったままだった。
「いつ食べるんだ?」
早く食べたかった俺は問いかける。
「いえ、そろそろ来る頃だと思いますので少々おまちください」
と綾香が答える。
翼とほかのメイドが来るのだろうか。と考えていると食堂に何人かの気配がする。
「おまた~!あーお腹すいちゃった!早く食べよう~!」
ピンク髪のチビが入ってきて早々言う。
「はるか~待ってよ~!」
ピンクのチビは晴香という名前なのだろう。
そ声の主ははるかの後ろに続いて入ってきた。黒髪のすごい巨乳だった。あれは…..95は固いな。
「急がなくてもご飯はなくならないわ」
何がとは言わないが95は固い女の後ろから、はたまた新たな女が顔を見せる。
容姿がとても整っており妖艶な雰囲気を纏っている女だった。
「あれ、あなたが噂の……?」
はるかと呼ばれた女が俺を見た途端そう一言こぼした。
「噂というのが何か知らないが、今日からここで迷惑になる連理だ」
手短に済ます。
後ろの女二人にも伝わっただろう。
「よろしくねー!私は晴香!」
「よろしくね~。私は美穂って言います」
「舞よ。よろしく」
95は美穂という名前でモデルのような美人は舞という名前らしい。
美穂は思った通りのおっとりした年上の女性という感じの喋り方だった。
舞は少し素っ気ない感じがするが、メイドたちの反応を見る限り素なのだろう。
「おまたせ~ってあたしが作ったんだから文句は言わせないわ」
食堂の奥から少女が姿を見せる。少女の後ろには翼もいるようだった。
「さくらちゃん~!翼お嬢様もお疲れ様です~!」
優菜がアホそうな声でいう。
「お前も料理するんだな」
翼に向けて言う。
お嬢様が料理するものなのだろうか。
「咲良ちゃんの料理はすごくおいしいので自分で学んでみようと思ったんですよ」
そういうもんなのか。金持ちの考えることはわからん。
「この屋敷のシェフの咲良です。よろしくお願いします」
この料理を作ったのは咲良と翼らしい。
「早く食べよ!お腹ペコペコだよ~」
晴香が待ちきれないとばかりに言う。実際俺も待ちきれない。
目の前に広がる豪華な料理。ついこの間までネズミなどを食べていたとは思えない。
日本人には馴染みのある白米に味噌汁までついている。
メインディッシュは多分この肉料理だとは思うがどれもとてもおいしそうだ。
「それでは連理さんの歓迎会もかねて乾杯をしましょう」
翼が提案をする。乾杯をする程のことではないのだが.....。
ここで反対しても仕方がないので合わせることにする。
グラスに飲み物が注がれる。お茶だろうか。
「かんぱーい!」
翼が乾杯の音頭を取った。
メイドたちと杯を交わす。
「「「「「かんぱーい!」」」」」
それからはメイドたちや翼と色々なことを話した。
俺のことも聞かれたが記憶が無いのでそこは理解してもらえた。
こいつらは相当なお人よしらしい.....。が居心地はすごくよかった。
あと料理は今までに食べたことが無いくらいおいしかった。まる
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