第28話 問1の回答

 私は1日中ずっと千秋の背中を思い出していた。

 

 何してんだ私は、千秋が強い?強くても限界があるだろ……。


 でも、また私が出て行ったら?


 私は千秋に丸投げして、布団に潜りこんでるだけ。


 状況が悪化したらどうなる?


 私は勝手に大丈夫だと決めつけてた。もし私の代わりにあいつ等の標的になってたら?


 私が助けられるのか?千秋を……


 考えたくもない。痛めつけられて、辛い思いをしてる千秋なんて見たくない。

 私はそんな無意味な自問自答をただひたすら繰り返してた。


 夜になっても考えて考えて。



「私はどんだけバカなんだよ」



 無意味に貴重な時間を過ごして、現実から逃げて、千秋を1人にさせて、本当にダメな先輩だな。


 重い瞼は私の意思に逆らって落ちきると、目の前には千秋がいた。


 まだ膝を抱えて座り込んでいる。

 私は背中から優しく抱きついた。

『今行くからちょっと待っててくれ』

 耳元で囁くと小さく頷いてくれた気がした。

 千秋からそっと離れると、また眩しくて目が覚める。


 時計に目をやると午前10時を教えてくれた。


「やっば!遅刻ってか、スマホスマホ!」

 久しぶりにスマホを覗くとバッテリーは10%程度。

 溜まっている未読メッセージは50件ほどあった。

「いや、どんだけ送ってんだよ……」

 見るのは怖い。でも見ないと前に進めない。現実をみないといけないんだ。

 私は少し震える指でアプリを起動する。

 ほとんどが千秋からのメッセージ。

 深呼吸してから千秋の開くと


【五十嵐先輩大丈夫ですか?】

【いらないってどうゆう事ですか?】

【嘘なのは分かってますから返事ください】

【今日学校来ます?】

【ずる休みはダメですよー!】

【私も生徒指導室に連れてかれちゃいました】

【五十嵐先輩?ちょっとは見てくださいよ】

【五十嵐先輩が後ろにいないとつまんない】

【もしかして私の事気にしてます?】

【私は全然平気ですよ】

【早く返事ください】

【五十嵐先輩】

【削除されました】

【削除されました】

【削除されました】

【あはは私もずる休みしちゃいましたー!】

【削除されました】

【削除されました】

【五十嵐先輩】

【わたしもう……】

【削除されました】

【なんで?なんで返事くれないの?】

【削除されました】

【削除されました】

【削除されました】

【削除されました】

【削除されました】



【わたしは負けませんから】



 私は夢の中の千秋を思い出した。

 顔のない千秋は苦しくて、悲しくて、すごく辛い思いをしてたんだ。

 正夢?とは言わないかもしれないけど、あの千秋はずっと私に助けを知らせたかったのかも。

 スマホを持つ手が震えてしまう。また気持ちが後ろに下がってしまう。

 それを引き止めるかのようにスマホがブル、ブル、ブルっと連続で震える。

 キツネからだった。

 何枚もの画像が送られる。

 それは千秋だった。全身びしょ濡れ、汚れた制服、靴も履かないで道路を歩いている。


【イガちゃんやっと見たね?千秋は苦しんでるよ。これを見てもまだ逃げるの?】


 私は部屋を飛び出す。別にキツネに煽られたからとかじゃない。

 自分の意思で、自分が決めた行動だった。


【もう逃げねーよ】

 そう返信して、制服も着ずに帽子だけを被って外へ飛び出した。

【さすが。それとお昼休みに来てね?来ないと千秋が怖いよ】

 怖い?もう怖いのは私にはないって。




 ごめんな千秋。


 今行くから


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