第9話

 あまりに無計画なミトさんに振り回される生活が始まってから1週間が経った。

 あの日見た表情は今でも脳裏に焼き付けられている。


 というか、ほぼ毎日のように見せられているから忘れることも出来ない。

 その代わり狩りが夕方を越すことがない分、おばさんに見つかることなくメイと会えるから有難いんだけど。


「今日もミトさんと一緒なんですよ」


「当たり前でしょう。パートナーなんですから」


「正論辛いです……」


 サーシャさんともこうして朝の待ち時間に話せるくらいの仲にはなれた。とはいっても、ここに所属している人の殆どと同レベル。


 綺麗なお姉さんを前にして緊張せずに話せているのはメイのおかげかな。メイ以上の女の人なんて見た事ないから。


「でも、1週間で辞めてないだけ感心ですね。レボル君にもミトにも」


「僕がなにかする前というか、構える時には狩っちゃうのでまだ問題が起きてないだけですよ。ただ、実力の差をまざまざと見せつけられて身体は全くなのに疲れた気分になるんです」


「総合E評価とA評価ですからね」


 A評価!?

 そうかなとは思っていたけど、改めてあの強さを思い出せば納得せざるを得ない。


「ただ君は魔法でミトは純粋な戦闘能力の評価なので、魔法力でいえば同等だったはずですよ」


「そんな雑な慰めでも有難いです……」


 結局同等なら魔弾しか習得していない僕がいるメリットは何もないことくらい分かっているからね。


「やっほー! お待たせ!」


 そんな話をしていたらミトさんがやってきた。

 天井知らずの明るさを今日も振りまいている。


「レボル君、行くよー」


「は、はい!」


 ギルドに入ってきてから出るまでたったの20秒。この素早さにも慣れてきたなあ。


 今度はちゃんとサーシャさんに挨拶をしてから出ていった。



 ◇◇◇◇◇



「いやー、今日はたくさん狩れたね」


「たくさんという限度を通り越してる気がしますけどね……」


 僕の肩には珍しく形が残されたままのモンスターが3匹。いつものように血を散らし弾けたのが6匹。


「とりあえず傷治すので動かないでください」


「はーい!」


 もうひとつ珍しいことと言えば、一度に多勢のモンスターの相手をしたせいで切り傷を負ってしまったみたいだ。


 久しく使っていなかった治癒弾ラブ・バレットを血が滲む傷口に向けて撃つ。

 1回、2回、3回と。


「他に怪我したところありますか?」


「んーん、大丈夫だよ」


 綺麗になった腕を見て満足気に頷くミトさんに聞いてみたいことがある。


「あの、ひとついいですか?」


「なに?」


「この役目、僕である必要性あるんですかね。そもそも僕程度の魔力しか持たない人間のメリットがないじゃないですか。

 物珍しい魔法をひとつ使えるってだけで、それが飛び抜けた能力を持っているわけでもないですし」


 自分で言ってて悲しくなる。


 反応を待つ間が怖い。次にくる言葉に掛ける期待が簡単に裏切られるのではという。

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