第3話 英雄譚に困難はつきものだ
「はぁっ…はぁっ…」
ザザザザッッ
「くそくそくそくそくそ!!!何でいつまでも追ってくるんだよぉ…!」
* * * * * * *
冒険者になるべく村を飛び出した俺は、王都を目指してひたすら歩いた。
公共交通機関なんてない異世界だから、移動は主に徒歩になる。そして、アスファルトで舗装された道なんて無いから、歩くのは人や馬車が通って出来た土の道。凸凹として歩きにくいが、草原の中を歩くよりはマシだ。
俺の視界には青々とした草原と、奥の方に森が見えている。街道は森を避けるように緩くカーブしていて、時々馬車がゆっくりと通り過ぎていく。人通りはあまりなく、とても静かな道をひたすら歩く。転生チートのお陰で疲れ知らず…とはいかず、1時間もすると疲れてきてしまった。
周りに水場は無いので、革袋に入れた水をゴクゴクと飲む。
こういう時、魔法が使えたら便利なのだろうが何故か未だに使うことが出来ない。
こういうのは、体内の魔力を感じるか空気中にあるマナを感じるかしてイメージすれば使えるものだろう?なのに一度も成功していない。…もしかして、魔法のない世界なのか?と疑問に思うこともあったが、村に来た冒険者の中には魔法使いも確かに存在していたので、確実に魔法はあるはずなのだ。
まぁ、王都まではまだ距離がある。その間に使えるようになれば問題ないだろうと、再び歩みを進めた。
何度目かの休憩をした所で、日が傾いていることに気がついた。
異世界で野宿する場合は、日のあるうちに街道脇にある安全地帯へ向かうのがセオリーだ。なので、俺もそのような場所を探しながら進んだ。が、一向に見当たらない。
そうこうしている内に日はどんどんと陰っていく。焦った俺は、近くの森に足を踏み入れた。もしかしたら、森の中にあるかもしれないと思ったからだ。
しかし、その願いもむなしく野営できそうな場所は見つからなかった。
とりあえず、木の枝を拾って街道へ出よう。街道脇で一晩明かしたほうが安全だろうと思ったのだ。
しかし、夜の森は思った以上に暗くて方向がわからなくなる。
来た道を戻っていた筈だが、一向に森から出られる気配がない。むしろ、森が深くなっているのでは…?
言いようのない恐怖が足元から上ってくる。
どうしよう、どうしたらいい?
カバンの中には空になりそうな水の革袋と下着が数枚。それから着替え一式と保存食として持ってきた干し肉しか入っていないのだ。農村じゃナイフなんて手に入れられないし、そもそも金が手に入らない。自分で稼ぐ手段もなかった俺は銀貨数枚しか持てなかった。
一度恐怖にとらわれると、冷静に思考出来るようになるまでに時間がかかる。
その事にすら気付けない俺は、とにかく森の中を進んだ。
そして、出会ってしまった。
「ガルルルルル…」
「ひっ!」
何かの唸り声だ。そして、相手はどうやら俺の事を狙っているのだと思った。
俺は弾かれるようにそこから逃げ出した!
足がもつれてうまく走れない。森の木が草が全てが俺の行く手を邪魔してくる。
後ろからは死の気配。
死に物狂いだった。
とにかく逃げる事だけに集中し、何処をどう走ったかは全く覚えていなかった。
気が付けば俺は森から出ていて、後ろからは何も追ってはきていなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
安心すると、一気に体の力が抜けていく。
最早一歩も動けなかった俺は、草の上で寝転んで息を整えた。…普通だったら、森の中で獣に襲われたら逃げ切れない筈だ。それなのに、俺は逃げ切ったし森から出られた。これは、もしかしたら俺のチート能力なのかもしれない。
検証したいが、もうクタクタで動けない。のども渇いたし腹も減っているが、指先一つ動かすのも億劫だ。なに、一眠りすれば回復する。何せ、俺は今十歳という若さなのだ。多少の事は大丈夫。
瞼が重くなってくる。俺は素直に思考を手放し、襲いくる睡魔に身を任せたのだった。
…。
「…おいっ、おいこら!起きろ!!」
バシャーーーーッッ
「うわっ?!」
突然の野太い声に冷たい水を掛けられて慌てて身体を起こす。
「…ぁ?」
ボンヤリとした頭で周りを見渡すと、数人の男女がコチラを覗き込んでいた。
「全く、あんな場所で眠るやつがあるか!」
状況が飲み込めずポカンとしていると、そのうちの1人から説教を食らってしまった。どうやら彼らはここを通りがかり、大の字で倒れていた俺を見つけて慌てて介抱しに来たようだった。
「…すいません」
寝ていただけなら…と、彼らはそのまま森へと入っていく。何かの依頼を受けた冒険者らしかった。
金は取られたが一緒にいた魔法使いに水を分けてもらう事が出来た。ついでに魔法を使う所を見せてもらったが、何かの呪文を唱えて魔法を発動させているくらいしか分からなかったし、何を唱えているかもわからなかった。もしかしたら呪文が必須の世界なのかもしれないな。
とりあえず、イメージで魔法を使う練習をしつつ王都へ向かって歩く。
ちなみに、森の中で使った超脚力は全く発動しなかった。もしかしたら危機が迫った時にだけ発動するスキルなのかもしれない。そんな頻繁に命の危機があっては堪らないが、その時が来たら試してみようと思った。
この日も、数回の休憩を挟んで街道を歩き、ようやく街が見えてきた。
街はぐるりと石壁で囲われている。そして、門の所で通行人を監視しているのは異世界あるあるの一つだ。
例に漏れず、俺の目の先にある街もそのような場所の一つで、唯一違うのは門を通る時に何のチェックもされない事だった。
門番は…立っている。が、それだけだ。
もしかしたら交番の警官のように、立っていることで抑止力としているんだろうか?よくわからないが、街の中へ入れるなら何でも良い。俺は雑踏の中を進み、街へと足を踏み入れたのだった。
街の中は外国みたいだった。いや、日本から見た外国と言うべきか。ともかく、木造建築の多い日本とは違いレンガや石を利用した建物が多いのが印象的だった。
ちなみに、俺の実家は土壁だ。
街の地面も石レンガが敷き詰められていて、農村とは全く違う洗練された空気を感じた。街を歩く人々も何処か特別に見えて、薄汚れた衣服を着ている事が急に恥ずかしくなってしまった。
とりあえず、この街はまだ通過点だ。ひと休みしたら王都へ向かおう。そう思っていたのだが、ここでとある事に気がついた。
「冒険者が多いな…」
街を歩く人々の中に、冒険者の姿があったのだ。王都から依頼を受けて来ているのだろうか?…いや、そういえば物語ではギルドは色んな街にも存在していたはずだ。
…なんてことだ!
王都じゃないと冒険者になれないと思い込んでいたが、この街にもきっとギルドはある筈だ。そこで登録できれば、俺も冒険者になれる!
ともかく、まずはギルドを探そう。
そう思って辺りを見回すが、それらしいものは見つけられない。それ以前に、看板の文字が読めなかったのだ。
おかしい。こういうのは転生チートで読み書き出来るはずなのに。
しかし、読めないものは仕方ない。あとは看板の絵柄を見て判断する…が、正直なところ何一つ分からない。
仕方がないので、そのへんを歩く冒険者の後ろをついて歩くことにした。そのうちギルドに入るはず…そう信じて。
「おいボウズ。何でさっきから後をつけてくるんだ?」
「あっ…あのっ…そのっ…」
「誰かに頼まれたか?」
「いやっ…ちがっ…あのっ…」
「ハッキリ喋りやがれ!!!」
「ひっ?!」
俺が後ろを付けていた冒険者達は、ずっと後ろに着いてくる俺を不審に思ったらしく、人けのない路地裏に誘い込まれた挙句こうして尋問されている。
俺は恐怖と人見知りとでまともに話せず、目も合わせられずにカタカタと震えるばかりだ。
最悪だ…!冒険者ギルドの場所が知りたかっただけなのに、何でこんな風に脅されなきゃいけないんだ?!仕方がないじゃないか!見知らぬ奴らに話し掛けるような事、俺には出来ないんだよ!!
心の中でそう叫ぶが、当然冒険者達に届くはずも無く。何も答えない俺に益々苛ついているようだった。
結局、俺は何発か殴られた事で泣きながら冒険者になりたくて街に来たが看板が読めなくてギルドの場所が分からず後をつけていた事を白状することとなった。
「ンだよ。早く言えや」
冒険者達はそう言うと、俺に興味を無くしたのかその場から去っていった。
「…っく。クソッ…なんでこんな目に…」
痛む身体を引きずりながら大通りを目指して歩く。街の地理なんてサッパリわからないから、選ぶ道は適当だ。
何度目かの角を曲がり、細い路地を抜け、ようやく大通りへと出ることができた。
今度こそ冒険者ギルドを探そうとするが、やはり何も読めないしわからない。仕方なくウロウロとしていると、子どもの姿が目に入った。
よし、子供なら話しかけやすいぞ。
そう思って、声を掛ける。
幸いなことに、ギルドの場所を知っているというので案内してもらった。
ギルドの場所は俺が入ってきた門のすぐ近くにあり、どうやら見落としていたようだった。礼を言って別れようとしたんだが、子供に腕をつかまれる。まだ何か用があるのかと思ったら、なんと礼を寄越せと言ってきたのだ。
「そっ…んな話…言ってなかった…だろ」
「はぁ〜?お前ふざけてんのか。ここまで案内してやったのに金も払わないつもりなのかよ。俺はそういう仕事をしてんだ、金はきっちり払ってもらうぜ」
「でっ…でも…仕事だなんて一言も…っ」
「あーん?この腕の腕章がわかんねーのか?これは案内人の腕章で、1回100ギールで案内をするっつー仕事なの!…つか、そんな事も知らねーってどんな田舎から出てきたんだよ」
「そんな仕事…しらない…っ」
「知らないなら、今から知れ。そんで金払え」
「お金なんて…もってない…」
「っはーーーーーーーー」
ここまで会話するのにかなりの精神力を使ってしまい、最後の方は息も絶え絶えになってしまっていた。そして、払えと言われても俺は金なんて持っていない。…いや、本当は服の中の巾着に入れてあるが、これに手を付けるわけにはいかない。
持っていた荷物を開けてみせ、俺に金が無いのを知ると、案内をした子供は長いため息ついて『知らねーからって許すつもりはないが、金も持ってない田舎モンを虐めても仕方ねぇな。今回は見逃してやるけど、お前も旅をするならもっと学んでからこいよ』と、説教みたいなことを言われてしまった。学べと言われてもそんな環境になかったんだから仕方がないだろ。知らないのは俺のせいじゃない。
まぁ、とにかくギルドには到着できた。
俺の英雄譚がここから始まるんだと思うと、自然と胸が高鳴ってくる。
俺は殴られた事も忘れ、ギルドの扉を開いたのだった。
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