どうせ救いがないのなら【一旦完結】
高井真悠
第1話 クソつまらない人生だった
俺の人生は最悪だった。
幼い頃から、俺は愛されない子供だった。
両親はどちらも忙しく、俺の面倒を見ていたのは主に
祖父は昔気質の
おもちゃが欲しいと言えば『馬鹿になる』
野球がやりたいと言えば『お前には無理』
受験前に塾に行きたいと言えば『金の無駄』
両親はクソ共に充分な金を渡しておけば俺が立派に育つと思っていたのだろうが、そんな事は一切無かった。
世間体を気にするクソ共は、俺に対して最低限の事はやっていたから世間からも見落とされていたのだろう。
学校の教師は外面の良いクソ共の言う事しか信じず、俺は『性格に少々難あり』と評された。
それでも、幼い頃はそれなりにクラスメイトとも仲良くやっていた。
だがある日、俺と同じ文房具を持っていた奴が『うわ、アイツと同じやつ持ってるわ。最悪。死ねよ』と他のクラスメイトと俺の目の前で笑った事で、俺は誰かを信じることをやめた。コチラが歩み寄っても、結局は無駄なのだと悟った。
それからは、誰とも話さずに本だけを読んでいた。
クソ野郎にとって『本』というのはソレだけで高尚な趣味らしく、人に自慢できるようなものだったようだ。なので、読書だけが唯一俺に許された娯楽となった。まぁ、それが役に立ったことは一度も無かったが。
そんな感じでクラスでも浮いた存在の俺は、当然いじめの対象になる。
教科書は破られカバンは捨てられ体操服は汚され時には暴力も受けた。
それでも毎日学校へ通い続けたのは、クソ共のいる家が嫌だったのと、クソ共が休むことを許さなかったから。
汚れた体操服や破られた教科書を見たババァは、特に何も言わず新しいものを用意し続けた。クソ野郎に言えば『弱いお前が悪い』としか言わないし、ババァに対して『お前がしっかり躾けないから』と暴力を振るうからだ。
そんな事を知らない…知ろうともしない両親は俺の出来の悪さに溜息を付き、大学卒業と同時に纏まった金を俺に投げつけて『家族』というものから弾き出した。
両親や祖父母から離れた俺は、知人のいない地方の会社に就職した。
入った会社で黙々と仕事をした。その頃には人付き合いがすっかり苦手になっていたし、最低限の事しか話さない。そんな俺は、やはり会社の中でも浮いた存在となり、嫌な上司に目をつけられて仕事を押し付けられる毎日を送ることとなった。
なんで俺はこんなにも不幸なんだ。
親のせいで幸せな子供になれなかった。
祖父母のせいで頭が良くならなかった。
周りの環境のせいでずっと不幸だった。
誰も俺の事を分かろうとしないし、誰も俺を気にしてくれない。手を差し伸べてもくれない。
通りかかれば影でクスクスと笑う声が聞こえてくる。
仕事をすればミスがあったと叱責される。
食事に誘われても陰口をするような信用出来ない奴らと飯なんて食えないと思い断ると、『折角誘ってやったのに』と恩着せがましく言われる。
息が苦しい。
毎日、無駄に命を垂れ流している気がして、どうしようもない焦燥感に駆られた。
しかし、俺には何も出来ない。
何をやっても無駄で、やってもどうせ出来ない。成果が見えないものをやり続けるのは苦痛だし、無駄にしか思えなかった。
そんな中で唯一楽しめたのは、社会に出て暫く経ってから、人生で初めて触れた一本のゲームだった。
嫌々出席した会社の忘年会で、最後にやったくじ引きで、ゲーム機本体とゲームソフトのセットを当ててしまったのだ。
その時はゲームに興味はなく、さっさと売ろうと思っていたのだが…
『あら、良いもの当たりましたね!それ、今流行ってるんですよ〜。私も最近買ったんです!』
違う部署の女がそう話しかけてきたのだ。
メガネで地味な女は、ゲームが好きらしく俺の当てたゲーム機とソフトは良いものだと話して『それじゃ、楽しんでくださいね』と離れていった。
あんなブスに言われたからではないが、俺は売るのをやめてそのゲームをプレイしてみる事にした。何せゲーム自体も初めてなのだ、分からないなりに調べながら電源を入れた。
衝撃だった。
俺の行動一つが確実に俺の力になっていくのだ。
最初は苦労したモンスターでも、力をつけるごとに楽に倒せるようになっていく。
人と会話するのが苦手な俺でも、心の無いデータ達はちゃんと会話をしてくれる。
俺を持て囃し、俺に好意的で、俺の事だけを見てくる。
ピンチになれば助けてくれるし、コチラが何かを差し出せばちゃんと返してくれる。
そんな世界にのめり込んでいき、いつしか会社を辞め、安いアパートに引き篭もった。幸いにも、趣味もなく食事にも興味がなく会社とアパートの往復のみで金は十分貯まっていた。家から追い出される時に渡された手切れ金もあったし、俺の知らぬ間にクソ共は亡くなっており、なぜかその遺産が俺に振り込まれていたのも大きかった。
ゲームにハマった俺は、異世界を舞台にした小説や漫画も読むようになった。絵にセリフを言わせて動かす…子供の頃に禁止されて以来触れてこなかった反動なのか、色々と買い漁った。
異世界転生。
いつしか、俺はその絵空事に強い憧れを抱くようになった。
夢と現実の境界線が曖昧になり、常に空想するようになった。
異世界の俺は誰にも好かれる最強の男で、剣と魔法を巧みに操り姫を助け魔王を倒しハーレムを築き上げて贅沢に暮らす。
そうだ、異世界だ。
何故気が付かなかった?俺は異世界転生するべき魂じゃないか?
幼い頃から不幸だった。どうしようもないクソ人間どものせいでつまらない人生を送るより、異世界で人生をやり直すべきだ。
しかし、死ぬのは怖い。
楽に死ねないかと妄想を続けながら、俺はゲームの中の世界に浸り続けた。
* * * * * * *
引き篭もり始めて何年経っただろうか。
俺は今、オンラインゲーム内で最強ランクにまで上り詰めている。
『すごいです!』
『さすが、最強は違うなぁ』
『うわっ、あれ超激レアな装備だよな?すげぇ』
そんな称賛を目にするたびに、俺の自尊心は膨れ上がり優越感という最高の味に酔いしれた。
誰もが俺の強さに刮目し、誰もが俺を羨み、誰もが俺に憧れる。
そんな世界では、俺に対する陰口なんて気にもならない。
何せ、俺は最高に最強な装備で身を包み、誰もが苦戦する敵を難なく沈め、姿を現せば皆が自然と集まり持て囃される。
本当に…本当に、気持ちが良かった。
しかし、それも永遠には続かない。
(サービス終了…)
それは、今年一番の暑さを記録した夏の日だった。
エアコンの効きが悪く、部屋は蒸し暑い。
俺は吹き出る汗を拭いながら、モニターを凝視していた。
もちろん、それは初めての経験ではなかった。しかし、そのゲームで俺は過去最高に輝いていたのは間違いなかったのだ。
そんな楽園が終わってしまう。
俺は絶望に打ちひしがれた。
他にもゲームは沢山ある。このゲームがやれなくなっても他でまた同じようにすれば良いだけだ。
『ゲームが新しくなる度に、新しい自分を一から始められるのが面白いんですよ』
『ゲームが終われば全部なくなるのに』…そう呟いた俺の声を拾って、そう返したのは…アレは誰だっただろうか?
もう顔も思い出せないが、その言葉だけは記憶の中にしっかりと残っている。
しかし、俺は今まさに掴んでいる栄光を手放すのが物凄く惜しい。ソレと同時に、この世界を終わらせようとしている奴らに対して無性に怒りが沸いてきた。
俺は、ゲーム内の掲示板に思いの丈を全て吐き出した。
エンターキーをバチンと打ち、投稿が完了する。
閲覧数が伸び、俺の投稿に対してコメントがつく。
『いや、流石にそれは言い過ぎw』
『ゲームでしかイキれないオッサン乙ww』
『ストーリーは完結したし、来年には新作出ますよね?そっちじゃダメなんですか?』
『リアルでは誰にも相手にされてないんだろw必死過ぎてウケるww』
『マジ大草原不可避www』
『まぁ、所詮はゲームだし。運営が終わるってんなら俺らはソレに従うだけっしょ。イヤなら辞めればいいんじゃよ』
『本気なん?流石に引くわ』
誰も彼もが俺に否定的な意見を突きつけてくる。
ふざけんな!!!!!
お前達みたいに恵まれてる奴に俺の気持ちが分かってたまるか!!!!
両親にも祖父母にも、周りの奴らにも恵まれずに疎まれてきた俺の気持ちなんてお前らにわかってたまるか!!!!
『不幸自慢乙ww』
『誰だって、大なり小なり人との衝突はあるっしょ』
『結局、自分が変わらないとダメなんだよなぁ』
『辛い事があったんですね、私もそうなんです。ずっと他人を呪って生きています…』
『メンヘラホイホイwwwキタコレwww』
『やべー、ホンモノじゃんwwスクショしとこwww』
「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
怒りで頭が沸騰する。
大声て叫ばずにはいられなかった。
机をガンガン叩いて怒りを発散させる。
どうせ俺は不幸なんだ!!!
のうのうとぬるま湯のような人生を送っている奴らに俺の事はわからないんだ!!!
俺がどれだけ不幸か、アイツラには理解できないんだ!!!
俺は不幸で可哀想なんだ!!!
なんで誰も俺に優しくしてくれないんだ!!!
全部ぜんぶ、
俺は全身で全てを呪った。
そうすれば、俺を嘲笑った奴らは呪われて不幸になるだろう。
ざまーみろ。
俺が呪ってやったんだ。
俺がお前らを不幸にしてやる。
恐らく、今の俺を他人が見たら鬼神のように見えるだろう。怒りで髪を逆立てて身体からは湯気のようにオーラが立ち上り、筋骨隆々とした俺の姿に、俺を馬鹿にした奴らは震え上がるだろう。
俺は鬼神のごとく部屋で暴れた。
ゴミを人間どもに見立てて掴んでは投げ、千切っては踏みつけた。
「ヴァアアアアアア……ぁ………」
そうして暫くして、ふとゴミに埋もれた姿見を見つけた。会社員時代には毎朝ここの前に立って身だしなみを整えていたが、引きこもってからは一度も見ていなかったし持っている事も忘れていた。
そんな姿見の中に映っていたのは…
鬼神の如き肉体を持った大男ではなく、髪はボサボサでフケだらけ。着っぱなしのスウェットに醜く太った身体。肌の状態も悪くブツブツとしていて団子鼻に歪んだ口と腫れぼったい一重のタレ目の小汚い男がゴミの中にいた。
「ぁ…ぁぁ……」
そうだ、これが現実の俺だ。
イケメンではないが、フツメンくらいだった俺は、すっかり醜いバケモノになっていた。
こんなの認めない。
認められない。
俺は…俺は…
「俺は…最強の……ぐっ……うっ……」
胸に激痛が走り、その場に倒れ込む。
痛いいたいイタい痛いイタイいたい痛いイタイいたいイタい
視界がぐるぐると周り、痛みに意識が遠のく。
俺は、ここで死ぬのか?
嗚呼…クソつまらない人生だったな…
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