1人1スキルが当たり前の世界でスキル5つ持ちになったので、冒険者として全力で生きていきます

四百四十五郎

ヨウロ立志編

解雇、出会い、そして最多へ

「ヨウロ・ギンズ、オマエは今日からクビだっ!」


 首都ナゴンにある石炭を加工する工場に就職してから11か月目、俺は度重なるミスが原因でハルパー工場長から解雇を言い渡されてしまった。




「ど、どうか、もう一度だけ……このままだと俺の両親が飢え死にしてしまうんです!」


 俺には働かなければいけない理由があった。


 数年前、故郷のイヌヤ村で魔物の異常発生が起きてしまい、両親が持っていた農地の大半が汚染されて使えなくなってしまった。


 その結果、農作物の売買や自給自足だけでは暮らせなくなってしまい、俺は首都ナゴンに出稼ぎに行くことになったのだ。


 しかし、俺はどうやらドジだったらしく、ちょくちょくミスをしてしまい、結果こうして解雇を言い渡されたのだろう。


「この世は弱肉強食っ!恨むならオマエを貧弱に産んだ両親を恨めっ!」


「うっうぐぅ……」


 悔しいが、言い返せなかった。


 人間は「スキル」という特殊な技能を1つ持った状態で生まれる。


 「スキル」は人によってけっこう利便性や性能に差がある。


 俺のスキルは、真水を身体から湧き出させることができる【藍湧水インディゴ・ウォーター】であった。


 俺は首都に上京した当初、小さい頃からの夢でもあり高収入が見込める職業『冒険者』になろうとしていた。


 しかし、筋肉が付きにくい体質と戦闘向きではないスキルのせいで冒険者ギルドから冒険者申請を断られ、結果として工場に勤務することになったのだ。


 どうやら、俺には可能性が全くなかったようだ。


 俺はすべてを諦め、工場から出ていった。




「父さん、母さん……親不孝な息子でごめんなさい……」


 気が付けば俺は、泣きすぎて涙が出なくなった眼で首都最大の川にかかる橋の上ではるか下の水面を見ていた。


 ここから身投げしてもがけば、溺れて死んで16年の人生に幕を下ろせるだろう。


 死ぬ覚悟を決め、落下防止用の柵の上に足をかけようとしたその時。


『ガツンッ!』


 何かが、後頭部にぶつかった。


 振り向くと、そこには地面に落ちたランタンと白髪の少女がいた。


「待ってください!早まらないでください!」


 少女が俺に向かい、涙目で必死に呼びかける。


「もう終わったんだよ……工場クビにされて、このままじゃオレも両親も飢え死にしてしまう……もう終わりなんだっ!」


「まだ全然終わっていません!ちょっとボクについてきてください!」


 少女は俺に反論しつつ、俺の袖を掴んで別の場所へと連れて行こうとする。


 俺は疲れ切っていたので抵抗する気にすらなれず、そのまま少女に連れて行かれた。




「ナーシェン……その男はいったい何なのかな?なんで拾ったのかな?というかキミの名前って何かな?故郷はどこかな?ちなみにワタシの名前はプルサだね」


 あれから俺は少女もといナーシェンさんによって大きな屋敷へと連れて行かれた。


 そして、そこにいた黒っぽい茶髪で痩身な女性ことプルサさんから一気に質問攻めを食らうことになった。


 俺はそれらの質問に1つづつ答えながら、自らの危機的状況を全力で説明した。


「なるほどね。じゃ、ワタシが1年かけてキミを冒険者になれる状態まで育てよう。もちろん、その間はこの家に住んでいいし、キミの実家にも経済的支援を行うね」


「才能が無い俺が冒険者にはなれるわけ……」


 スキルは後天的に変えたり増やしたりすることはできない。

 

 それがスキルの常識だとされている。


 つまり、身体が弱くて非戦闘用のスキルしかない俺は絶対に……


「いや、キミも冒険者に……なれる」


 プルサさんが細身の身体に合わぬ確かな気迫をもって断言する。

 

「でも身体が!」

「戦闘用のスキルを追加で覚えれば問題ない。ワタシもそうしている」


「スキルは後天的に増やせるわけ」

「いや、増やせるよ。事実、ワタシは生まれ持ったものと後から得たもので二つのスキルを持っている」


 俺の反論に対し、プルサさんがさらに反論を行う。


「黒髪の少年、スキルは心の力なんだ。増やせると思えば増やせるし、増やせないと思えば増やせない……できるかどうかは、キミの心次第だよ」


 俺は頭を冷やし、冷静になる。


 もしも今、ここで断ったとしても得はまったくない。


 両親も俺も困窮し、餓死する未来しかない。


「……わかりました。お願いします!俺を冒険者になれる人材に育て上げてください!」


 両親のためにも、俺は彼女の誘いに乗ることにした。 



 

 それから、1年が経過した。


 俺は17歳になった。


 あれから、スキルを1つ追加習得すること目標に、プルサ師匠による育成が始まった。


 俺はひたすらに努力した。


 こんな俺に期待してくれている師匠の想いに応えるため。


 自分の未来を切り開くため。


 そして、俺をこの世に産んでくれた両親に恩返しができる立派な人間になるため。


「ヨウロ、おめでとう。キミは立派な冒険者になれるだけの逸材になった。これでワタシの修行は終わりだ」


 ある日、プルサ師匠によってついに修行の終了宣言が行われた。


「あ、ありがとうございます!」


「ああ、キミはワタシの期待に応えてくれた。しかしながら……」




「キミ、ちょっと期待に応えすぎていない……?正直、ちょっと想定外だよ。こんなの絶対国内最強じゃん……」


 師匠は当初、『スキルを1つ習得すること』を目標に掲げていた。


 しかし、1年の修業を経て、俺は生まれ持ったものも含めて5つのスキルを持つことになった。


 師匠曰く、今のオワリス王国では一番多いスキル保有数らしい。


「ありがとうございます!」


 俺は全力で師匠にお辞儀をし、ここまで自分を鍛えてくれた恩を形にした。


「がんばれ……ワタシの弟子。頑張れ、ヨウロ。さあ、ここからキミの冒険者ライフを、はじめようか」


「ボクもついていきます!」


 俺は師匠の指示に従い、ナーシェンと共に冒険者を登録し管理する施設へと向かいはじめた。


 俺の人生が、本格的に始まろうとしていた。

 

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