千客万来

 忍者4人が帰ったあとも自宅から出ずに従魔達とのんびりと過ごしていると通話が来た。


「主、お電話なのです」


「うん、ありがと」


 端末を見ると相手はクラリアだった。


「今自宅?外出の予定がないのならトミーと2人で伺ってもいいかしら」


「予定は何もないのでOKだよ」


 しばらくすると情報クランのトップ2人が自宅にやってきた。今日は千客万来の日だな。顔見知りの2人なので従魔達は最初の挨拶だけするとあとは思い思いの場所でリラックスしている。リンネは木の枝の上に乗って妖精達と戯れあっているし、タロウは木の根元で横になっていた。


 挨拶をしてから俺がさっきまで第2陣でこの街にやってきた忍者4人がきていたんだよと言う話をするとクラリアが言った。


「アカネって女性の忍者さん、その中にいた?」


「いたよ。彼女がどうしたの?」


「彼女が第2陣の忍者で最初にレベル12になったのよ。今まで忍者の情報はタクだけだったから彼女とは不定期にだけど色々と話をして情報を買っているの」


 なるほど。確かにいろんな人から情報をとった方が確実性が上がるよな。


「もちろん彼女以外の忍者さんからも情報を取っている。ただな、忍者についてはタクの影響が相当強くてな。従魔以外の装備関係はほとんどの忍者がタクと同じ装備を身につけているんだ。今クラリアが言ったアカネというプレイヤーもそうだし他の忍者のプレイヤーに聞いても皆タクと同じ装備だ。お前さん、忍者の中で師匠扱いになってるぞ」


「いや、それは俺の影響じゃなくて、忍具店の人の影響だと思うぞ、ソロだから店で買える一番良い武器と防具を持たないと厳しいって言われているし」


 師匠だなんて勘弁してほしいよ。トミーの言葉にそうじゃないと言うが情報クランの2人はそれを差し引いても俺の影響が強いのだと言う。


「これは忍者に限らない話なんだがトッププレイヤーの装備や動きというのを後続は参考にするんだよ。第2陣が来たタイミングで公式でゲーム内の戦闘や街の様子を配信しているのは知ってるだろ?自分のジョブと同じジョブの戦闘シーンなんかは皆参考にしているらしいぞ」


 トミーによるとこのゲームでは数値関連がほぼ非公開になっていることもあり特に後続組の連中は初期組の動きを参考にするらしい。スタンリーなんかは多くの戦士プレイヤーの見本になっているのだという。そして忍者については実質俺1人なので後発組の忍者のプレイ見本になっているのだろうと見ているらしい。


 嬉しい話なんだけど装備は別にしてプレイスタイルなんてゲームだから好きにしたらいいと思うんだけどな。ただこれは忍者に限らず他のジョブでも同じだけど、配信なんかで見た先人のプレイスタイルだけが正解だと思って他を否定する様なことにはなって欲しくない。


 特に俺の場合はタロウとリンネという従魔達が常に一緒だし。こんなケースは稀だろう。


「誰かの模倣をして戦闘スキルを上げるのは悪い方法じゃないと思うのよ。ただそればかりだといつまで経っても2番手だけどね。だから後続組の人たちも自分たちで好きにプレイして欲しいと個人的に思っているの。私たちが知らなかった、気づかなかった戦闘方法や攻略方法が出るかもしれないでしょ」


 クラリアもトミーもゲームをしているプレイヤーのプレイスタイルについては情報としては公開していないらしい。それは自分たちで考えて欲しいという事だ。その通りだよな。俺だってこれが最良の方法だなんてわからないし。


 とは言ってもゲームをどう楽しむかは個人個人で違うだろうし外野がとやかく言うものでもない。



 忍者の話がひと段落したところでクラリアがここに来たのはね、と言って話だした。1つは第一の試練をクリアしてからの第二の試練について他のプレイヤーがタクと同じ様にNPCからその情報を手にいれることができたのだという。試練の街にあるアイテムショップの店主があの洞窟の場所を教えてくれたらしい。


「よかった。そうやって場所を知る方法が他にもあったというのを聞いて安心したよ」


「私たちもそう思ってるのよ。運営は正解に至るルートをちゃんと複数用意していたということになるからね」


 情報クランによるとアイテムショップからの第二の試練の場所の特定はそれを見つけたプレイヤー経由で他のプレイヤーに広まっていっているらしい。情報クランとしては闇雲に洞窟を探し回るだけが洞窟を見つける方法じゃないと言っていたこともあり、これについては追加で情報を開示しなくとも自然と広まるだろうと見ている。


 ウィンストンさんが言っていた原生林の中を歩くプレイヤーの数が多くなったというのもこのNPC経由での情報が広まってきているからだろう。


「そしてもう一つは印章NM戦で出た火薬。あれで爆弾のレシピが分かったのよ」


「おお、分かったのか。おめでとう」


「いや、レシピは分かったんだがその素材が揃わないんだよ」


 情報クラン所属の合成職人があちこちの街の錬金ギルドを尋ねたところ、開拓者の街の錬金ギルドの職人の1人がレシピを知っていた。ただそのレシピの中には未だ見たことがないアイテムがあるのだと言う。


「火薬以外にいくつかアイテムが必要なんだけど、その中の一つが硝酸。それが今までの街にはないのよ」


「それと爆弾を合成する為に必要なスキル自体も高いらしく今のうちの合成職人はまだそこまでスキルが届いていない」


 となるとやっぱり新しい街を探すしかないんだろうな。


「新しい街の探索はどうなってるの?」


「森の中を進んでいるところ。この前の印章NM戦で転移の腕輪を貰ったでしょ?今日は現地から飛んで帰ってきたのよ」


 転移の腕輪の便利さを実感しているという2人。確かにこれがあると活動範囲が一気に増えるよな。攻略クランも転移の腕輪狙いで200枚の印章NM戦に再挑戦する前提で攻略を進めながら同時に印章を集めているらしい。クラリアらはすでに虎ゾーンを超えて熊の魔獣や獣人がいるエリアまで到達している。俺が河原で戦闘したエリアと同じなんだろう。明日は攻略クランと一緒に活動をする予定だと教えてくれた。


「そろそろ次の街が見つかっても良いタイミングじゃないかって予想しているのよ」


 上級ジョブに転換するプレイヤーが現れている。このタイミングがそうなるのかな。


「タクは船で川を移動しているんだろ?川じゃ魔獣に遭遇しないと言うし、タクの方が森の奥に早く進めているんじゃないかな」


 トミーの言いたい事も分かる。ただこっちは釣り目的なんだけどね。


「そうかもしれないが船で森の奥に行ったって街が川の近くにあるという保証はどこにもないぞ」


「タクの船って何人乗り?」


 クラリアが横から聞いてきた。


「5人乗りだよ」


 5人だと私たちは乗れないわねとか言っているクラリア。


「じゃあ自分たちの船を作ればいいじゃない」


 俺が言うとその手があったかと手を叩く2人。俺の思いつきにそれがいいと声を揃えて言われたよ。


「タクの言うとおり街が川の近くにあるとは決まっていない。でも安全に奥まで移動できる輸送手段は持っておいていいわね」


 そう言われるとこっちも言い出した手前、後はご勝手にとは言えないよな。頭の中で色々と考えてみる。木工ギルドのサイモンさんには話をつけられるな。こっちのスキルもそこそこ高い。いけるか。


「船を作るのなら木工ギルドには俺が話をするよ。それとこっちは暇だし、俺も手伝うよ」


 自分の船を作ったことで木工スキルも大きく伸びている。サイモンさんの手伝いは問題ないだろう。


 リンネとタロウがそばにやってきた。


「主が作る船は完璧なのです。主にお任せすると安心なのです」


「リンネがそう言うのならタクにお任せしちゃおうか」


「お任せしちゃっていいのです」


 タロウも俺に任せろと言わんばかりに尻尾を振っている。どうせなら攻略クランの船も作ってもらおうかとその場でトミーがスタンリーと話をする。


「是非お願いしたいということだ。俺たちと同じ5、6名乗りの船で良いと言っている」


 通話を終えると俺たちは自宅を出ると試練の街に飛んで市内にある木工ギルドに顔を出した。受付でサイモンさんを呼んでもらうと奥の作業場からやってきた。クラリアとトミーも一緒だ


「よお、タク。船の調子はどうだい?」


 挨拶を交わすとサイモンさんが聞いてきた。


「おかげさまでばっちりですよ」


 そりゃよかったなという彼に新たに5人から6人乗りの船を2隻作りたいんだという話をするとわかったと頷くサイモンさん。


「それに乗って川を下って行こうと思っているんです」


 クラリアが言うとなるほどと頷くサイモンさん。


「今のタクの船は中央に魚を入れて置く場所があるから5人乗りだがあの水槽が要らないのならあのサイズで6人までは余裕で乗れる。せっかくだしタクが作ってみたらどうだ?お前なら作れるだろう。前と同じ船を作る材料はここにあるし。もちろん俺もアドバイスしてやるぞ」


「お願いします」


 そう言うことで俺が2隻の船を作ることになった。

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