船を作ろう
俺は木工ギルドに顔を出してサイモンさんを紹介してもらってからは毎日木工ギルドに通っては言われるままに木を切ったりカンナで削ったりしている。おかげで木工スキルが急速に上がって30になった。木工職人から直接教えて貰っているからだろうかスキルの伸びが半端ないんだよ。
スキルが25を超えた辺りから木を切っても削ってもサイモンさんに上手いぞと褒められることが多くなってきた。タロウとリンネは俺が作業している間は邪魔にならない場所からじっとその作業を見ている。自宅で留守番でもいいんだぞと言っても首を縦に振らずに一緒に来ると言ってきかない2体。お前達が飽きてないのならいいんだけど見てるだけだろう?
木工船のパーツとなる板を全て準備すると今度はそれらを合わせて船に仕上げていく。これもゲームの仕様で木槌で叩けば隙間なく木と木が繋がっていくし、船首や船側の曲線も板を曲げた状態で固定してしばらく放置するとその形になる。
木工ギルドに篭って1週間。ついに俺たちの船が完成した。サイモンさんが乗ってもいいぞと言うので俺とタロウとリンネが作業場に出来た船に乗る。
「船なのです。主が作った船なのです」
「ガウガウ」
おお、2体とも喜んでくれているな。俺も今回はしっかり手伝ったからな。
「タクが手伝ってくれたおかげで早くできたぞ。しっかりとした良い船だ。安定性も良いだろう。よし、次は浮かべてみよう」
試練の街の外れ、街からそう遠くない場所に台地のある山から流れてきた川が流れている。聞くとレストランのウォルシュさんも毎日の様にここから船を漕いで街の外に出ていっているらしい。この辺りは魔獣もいなくて安全なんだそうだ。
試練の街の正門というか普段人々が出入りする入り口は街の西側、台地側にあるがそれとは別に東にも門がある。その東門から出て草原を100メートル弱歩くと西にある山々を水源とする川が流れていた。
一旦収納にしまった新しい船をその場で出して川に浮かべた。サイモンさんが細かくチェックしていく。
「タクと従魔達よ、乗ってくれ」
「はいなのです」
俺が先に乗ると続いてリンネとタロウが船に乗ってきた。乗った時は若干左右に揺れたが船の幅があるので揺れはすぐに治る。
「浮いているのです。すごいのです。主はなんでも出来るのです」
「ガウ!ガウ!」
リンネもタロウもさっき以上に興奮してるぞ。サイモンさんも船に乗ってくると、櫓を持って漕ぎ方を教えてくれる。最初は難しいと思ったがしばらくすると漕ぐのにも慣れてきた。船が川面を滑る様に動いていく。リンネは船首に座り、その後ろにタロウが後ろ足だけ下ろした格好で座って2体でじっと船が進む前方を見ていた。
「うん。完璧だな。水漏れもないし船自体が滑る様に動いている。こりゃいい船だ」
乗り込んだ場所に戻ってきて船から降りるとサイモンさんが言った。俺も大満足だ。木工ギルドに報酬を支払って船が俺のものとなった。
「でかい魚を釣ったら俺にも食わせてくれよ」
そう言って豪快に笑うサイモンさん。
「もちろんです。色々とありがとうございました」
「ガウ!」
「お世話になったのです」
皆でお礼を言って船を端末に収納した俺たちは木工ギルドを後にして市内のショップに言って釣竿や餌、釣った魚を入れるケースなどを購入する。釣竿もケチらずに高級で糸が切れにくいのを買った。
これで釣りの準備が整ったぞ。
「そうか、自前の船ができたか。これで思う存分釣りができるな」
レストランのシェフ兼オーナーのウォルシュさんの言葉にそうなんですよと返事をする。船ができた報告に行っている俺たち。
「俺はプレイヤーじゃない。ただの料理人だ。だから街から近いところで釣りをしているがタクなら森の奥にも行けるだろう。魚を釣ってきたらいつでも俺の店で捌いて出してやるぞ。もちろん俺も頂くけどな」
そう言ってからガハハと笑うウォルシュさん。こういう豪快な人は好きだな。
「分かりました。その時はよろしくお願いします」
木工ギルドを紹介してくれたお礼と船が完成した報告を終えた俺はその足で別宅に戻っていった。
「最近見なかったけどどうしてたの?」
俺が別宅に戻る、タロウとリンネが庭で遊ぶ。するとすぐに隣からマリアがやってきてタロウをわしゃわしゃと撫で回す。うん、平常運転だ。
俺がここ1週間木工ギルドに篭って船を作っていたと言うとびっくりした表情になるマリア。
「船を作ってたの?」
「そう。レストランで魚料理を食べたらすごく美味しくてさ、シェフ兼オーナーの人に聞いたら自分で釣ったって言われたんだよ。ただ森の中は魔獣がいる、だから船で川で釣ってるんだって。川なら魔獣はいないらしい。ただ池には魔獣がいることがあるって言ってたな。それで船を作るのならと木工ギルドを紹介して貰ったんだよ」
「池と言えばあのサハギンNMみたいな魔獣の事でしょうね」
「そうだね。NM以外でも魔獣がいるのだと思う。とにかく川は安全地帯みたいんなんだよ。だから明日か明後日には釣りをするつもり」
そんな話をしていると隣からスタンリーがやってきて、その後ろからクラリアとトミーもやってきた。丁度攻略クランで打ち合わせをしていて終わってから雑談をしていたらしい。マリアが消えたので隣にタクの従魔がいるなと思ってやって来たんだよと言う。
「釣り目的で木工船を作ったのか。相変わらずゲームを楽しんでるな」
彼らの前でもう一度同じ話をした後でスタンリーが言った。攻略クランは全員が上級ジョブに転換してから今は森の奥に進んで敵を倒しながら探索を続けているらしい。全員が上級レベル2になってもうすぐ3に上がるんじゃないかって言っている。探索を続けながらかなりの経験値を稼いでいるんだろう。
クラリアとトミーも上級レベル2に上がったらしい。俺は上忍になった時点でレベル上げは中断している。
「ところで、俺たち以外で第一の試練を終えたプレイヤーはいるの?」
それには首を横に振る2人。
「試練を受ける前に好感度や貢献度をあげようとクエストに励んでいるプレイヤーが多い。つまりまだ第一の試練を受けていないレベル85もかなりいるということになる」
トミーによると第一の試練を受けたパーティは大体2,600から2,800体の間の討伐数を言われているらしい。それを聞いた他のプレイヤーの中にはもっとノルマを減らしたいと考えてクエストをしている人達もいるのだという。
好感度を上げたら試練のノルマが減る。好感度をあげる時間とノルマをこなす時間のバランス、塩梅は自己責任だ。プレイヤー側から見たら一度受けたら数を変更できないのでそこは慎重になるんだろうな。
「掲示板では一番少ないのが私たち情報クランと攻略クランの1,200体だと思っているみたい。なので1,200体は無理でも2,000体位にはならないかなって考えているプレイヤーが多いわね」
「間違っても俺のノルマ数は言わないでくれよな。知れたら袋叩きに合いそうだよ」
そう言うと4人が笑った。
「そうは言っても上級ジョブへの転換というご褒美がある。早晩皆受けるんじゃないかな。早く上級ジョブを取りたいと思うのがプレイヤー心理だしな」
スタンリーが言った。
第2陣の多くが今は山裾の街にいるがぼちぼちレベル50台半ばのプレイヤーが出だしているらしい。それを踏まえて2週間後から攻略クランと情報クランが合同で山裾の街から開拓者の街への護衛サービスを開始するのだと言う。
「告知を出した時点でもの凄い数の申し込みが来ているの。2週間後なら50台の後半になる人もいるだろうし。2週間の間に少しでもレベルをあげるというモチベーションにもなっているみたいね」
初期組の時も結構な数のプレイヤーが護衛サービスを利用したと聞いている。後続組にしてみれば少しでも早く追いつきたいというところなんだろうか。
「開拓者の街に来たところでレベル50台なら厳しい。ギルドの転送盤だけ登録して山裾の街でレベル上げを続けるという事になりそうなんだがな」
トミーの言ってることもわかるがそれでもほぼ無事故で移動できるのなら申し込むだろうと思う。護衛サービスが終われば自分たちだけでの攻略となる。となると攻略の難易度が上がるのは間違いないだろし。
「ただ今回の試練のノルマを見てもわかる様に、レベル上げだけに軸足を置いてゲームをしているとこの街で痛い目にあうのよね。私たちのクランが第一の試練については詳細を公開しているのでそれを見て貰ってしっかり理解してもらいたいところ」
「そうは言ってもいつ終わるかわからない護衛サービスならとりあえず受けておこうという流れになるだろう?クエストと言うか好感度をあげる作業は開拓者の街の登録が済んでからやろうって人もいるだろうし」
ゲームの楽しみ方は自由だ。情報クランも押し付ける気は全くないだろうし、自己責任で後で苦労するか、先に苦労しておくかの違いだな。俺がそう言うとその通りだとクラリアもスタンリーも頷いてくれた。
「こっちは言うことは言ってある。あとはプレイヤーにお任せよ。護衛サービスは金策にもなるしね」
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