主のヘルプは完璧なのです
転送盤を使って試練の街と開拓者の街を気軽に行き来できるのでインすると開拓者の街の自宅で農業をしてから試練の街に移動して活動をする。試練の街をベースにして活動をしているプレイヤーよりは街と付近の攻略が遅れているが全く気にしていない。
街の周辺で73前後の魔獣を倒して経験値を得ているとようやくレベルが71に上がった。スタンリーらは既に73になっているそうだ。70を超えるとネクストの必要経験値が更に増えていると思えるのだがその中でも着実にレベルを上げて探索範囲を広げているという話をトミーから聞いた俺。そう言っていたトミーも72まで上げてもうすぐ73になるだろうと言っている。
街の外から戻って試練の街の中を歩いていると端末に着信が来た。着信の音が鳴るとすぐに、
「主、お電話なのです」
と頭の上から声がする。
「おう。ありがとう」
リンネは最近通話があるとこうして俺に教えるのが楽しいらしい。言わなくても分かっているが、俺に報告することでリンネの機嫌がよくなるのであれば好きにさせてやろうと思っている。
通りの端に移動して立ち止まると隣を歩いているタロウもその場で後ろ足を下ろして待てのポーズを取る。出来たフェンリルだよ。犬じゃないよ、フェンリルだよ。通話の相手はルリだった。俺はタロウの頭を撫でながら端末を耳に当てた。
「お久しぶり。タクが今いるのって新エリアの試練の街だよね?」
「そうだよ」
「情報クランから聞いたというか情報を買ったんだけど、そっちでも家を持てるんでしょ?」
「別宅扱いになるけど、家は持てる。転送盤を買うとここと山裾の街の自宅とこことが無料で移動できるよ」
「それそれ。その情報を買ったんでリサと2人で試練の街に移動する前に金策をしていたの」
彼女達は試練の街に来た時に直ぐに別宅が買える様に2番目のエリアで金策をしてお金を貯めていたらしい。情報クランから試練の街の周辺の魔獣のレベルが開示されていて、そのレベルだと第2エリアで経験と金策をした方が早いだろうという話になったのだという。
確かに試練の街に来て金策となると限られる。動きやすい街で金策した方が結局貯まるだろう。
「それでようやく貯金が2人合わせて2,000万ベニーを越えたの」
「そりゃよかったじゃない」
と言うか凄いな。2人は普段からしっかり金策をしていたのだろう。
「ありがとう。そしてここからがお願い。私とルリがそっちのエリアに行くヘルプをお願いできないかしら」
彼女達はクランに入っていない。一度野良で挑戦したらしいが全滅したのだという。ボスのレベルが下がって途中のゴーレムのレベルも下がったと聞いている。そんな中で全滅?
詳しく聞くと彼女たちは野良募集に参加したが、リーダーが、ボスのレベルが下がったから25名要らないだろうと10名程で挑戦しようと出発したが、事前準備は何もしていないわ、戦闘中に指示は出ないわでボロボロだったらしい。
「最低のリーダーだったわよ。野良だと時々いるのよね。適当にやっちゃう人が」
「そりゃ災難だったな。それでヘルプの件だけど俺は大丈夫だよ。他にも声掛けようか?」
「その辺りが私達は分からないのよ。LV70でLV80のボスを倒すのにどれくらいの戦力がいるか」
俺がクラリアあたりに聞いてみるよと言うと、ヘルプの報酬も出すからと言う2人。俺はフレの手伝いなので報酬なんていらないが俺以外のヘルプを頼む場合にはいるかもしれない。確認して連絡すると言って通話を終えた。
「主、ヘルプとは何なのです?」
歩き始めると頭の上からリンネが聞いてきた。
「そうだな。簡単に言えばお手伝いだよ。ギンとクロのマスターが洞窟のジャイアントゴーレムに挑戦するので手伝って欲しいって頼まれたんだよ」
「やるのです。ヘルプするのです、ギンとクロにもこの新しい街に来て貰うのです」
「ガウガウ」
リンネもタロウも戦闘好きだからな。もちろんギンとクロも大好きだよな。
俺はその足で試練の街にある情報クランに顔を出した。クラリアには事前に連絡を入れてある。
「話は分かったわ」
応接室で対応してくれたのはいつもの2人だ。俺はクラリアだけでも良かったのにと言ったのだが、
「タクは時々爆弾を持ってくるからさ、トミーにもいて貰った方がいいのよ」
「そうは言っても今回はヘルプの要請に関する情報だからな。こっちが聞き側だよ」
俺はそう言ったがまぁいいじゃないかというトミー。俺はいいけど目の前の2人は多忙だろう?
「毎日の様に新エリアにプレイヤーがやってきている。その殆どは25名の最大人数で数の暴力でジャイアントゴーレムを倒している」
トミーによるとボスのレベルが10下がった影響は大きく、また核の場所が右足太腿で固定されているので戦術は出来上がっているのだという。LV70が25名いれば時間を掛けずに倒せるらしい。
「ただ、そこまでボスが弱体化されても負けているパーティというか集団もいるんだ。ルリとリサは余りプレイヤースキル(PS)が高くないリーダーが主催したパーティに参加したのだな」
高レベルの知り合いに護衛してもらってレベルを上げてきたプレイヤーの多くはギリギリの戦闘をしたという経験がない。黙っていても周囲の高レベルが敵を倒してくれて経験値だけが入って来る。そうしてレベルを上げてきた結果自分達だけで戦闘をする際に作戦を考えることが出来ず、戦闘中も臨機応変な対応が出来なくて苦戦、最悪は全滅するいった事態になる。レベルだけ高いが中身が伴っていないということだ。これは俺にもわかる。別のゲームでパワーレベリング(PL)をしてレベルだけが高いプレイヤーを何人も見てきたからな。
「それでだ、結論から言うと今のエリアボスならヘルプはタクと2体の従魔だけで問題無く勝てるだろう」
「それくらい弱体化されているのかい?」
「弱体化されているプラス、タクのPSならいける」
俺のPSが高いのか低いのかは分からない。なんせ殆どソロだし。PSについては普通じゃないかなとは思っているんだけど。
「ルリとリサは最近は見てないけど以前一緒にイベントNMを相手に戦った時に結構上手いわねと思って見ていたの。それぞれ従魔もいるし3人と4体の従魔で行けるんじゃない?」
情報クランの2人の話だ。まず間違いはないだろう。3人と4体の従魔でやってみるよ。
俺がそう言うとトミーがニヤリとして言った。
「タクなら恐らく今のボスの攻撃は全部見極めて交わせるはずだよ」
買い被りすぎだとは思うが情報クランがそこまで言い切るのだからとりあえずやってみるか。クランを出た俺はルリに電話をした。彼女達はそれでいけるのなら是非自分たち3人とその従魔達でやろうと言う。
「知らない人だと気を使うしさ。タクと従魔達なら気心も知れてるし」
確かにそれは言える。俺もボス戦の前に初めてのプレイヤーに会ったりしたら色々と気を遣うだろうしな。
情報クランで話が終わって雑談をしていた時に初めて聞いたが、俺たちのボス戦との戦闘は戦闘の途中部分だけを抜き取って編集した上で公式で配信しているらしい。
「爆弾を投げて倒したシーンはない。それよりもタクの忍盾がえらく評判になってるぞ」
「まじかよ。俺の盾のシーンが使われてるのか。蝉張って避けまくってただけなんだけどな」
「これから忍者をやる人にとっては非常に参考になるでしょうね。ということで注目されているわよ」
注目とか勘弁してほしいよ。
翌日山裾の街の門を出たところで待ち合わせをした俺達。俺が門を出ると既に2人は従魔を呼び出して俺を待っていた。こういう所が彼女達の素晴らしいところだ。お願いする側が待たせる訳にはいかないと自分達が先に来て待っている。
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
タロウとリンネを呼び出すと挨拶をした後で直ぐにクロとギンとじゃれ合ううちの従魔達。暫くじゃれ合ったあとで俺達は山道の入り口を目指して草原を歩き出した。
(ミント、俺のレベルは70に戻されているのかな)
(その通りです。このエリアでの最高レベルであるレベル70時のステータスになっています)
これは予想通りだ。
ルリとリサもレベルを70まで上げて準備万端だという。この街の周辺で魔獣を倒して経験値を稼ぎ、アイテムを店売りしたり市内のクエストをこなして金策してきたのだと移動しながら話してくれた。
途中で出会う魔獣を倒しながら山道の入り口に着いた俺達。女性2人もこの道は経験済みなので狭い山道を登りながらゴーレムを倒して奥に進んでいく。
「タロウが斜面を走れるので道が狭くても関係ないわね」
「前回の10名の時よりもずっとスムーズよ」
「数がいればいいってもんじゃないからな。道が狭いしさ」
途中のゴーレムも弱体化されていたこともあり自分が予想していた時間よりも早めに山小屋に着いた。スミス老は小屋の前の椅子に座っている。
「久しぶりだね、タク」
「こんにちは。今回はヘルプでやってきたんですよ」
「なるほど。あのボスも弱くなっとる。うんうん、この3人なら大丈夫じゃろう。皆の従魔達も優秀だしの」
挨拶を交わしてイチゴとお茶をスミス老に差し上げた俺達は小屋でしっかりと回復することにする。山道を登っている時から他のパーティに会わなかったが、小屋の中にも俺達以外にプレイヤーの姿はない。
小屋の中でルリとリサと3人で簡単に作戦会議をした。
「盾は俺がやるので、ルリはボスの右足の太腿だけを集中して攻撃を頼むよ。そこに核があるから。ただタゲを俺から取らない様に気をつけて。リサはルリの回復をお願い。俺の回復はリンネの仕事だ。狂騒状態になったらヘイト無視で核を集中的に攻撃しよう。タロウとリンネは任せておけばいい」
分かったと頷く2人。
「リンネに任せるのです」
「期待してるわよ」
「期待していいのです」
「ガウガウ」
ルリとリサの従魔はそれぞれのマスターをサポートするということにする。
作戦はシンプルな方が良い。
全員と従魔の体力が完全に回復したところで行ってきますとスミス老に声をかけた俺達は小屋を出てその先の石の門の階段を降りる。降りたところでリンネが強化魔法を掛け、俺は空蝉の術2を唱えた。
タロウは戦闘中は常時集中が発動しているのでそのバフが3人にしっかりと掛かっている。
エリアボスとの戦闘ははっきり言って余裕だった。俺とルリが忍者と戦士ということもあり接近戦で攻撃を仕掛けるのでボスは石を投げてこない。がっちりと俺がタゲを取り、ボスの攻撃を蝉と腕輪で回避し、交わしている間にルリとタロウが右足を集中的に攻撃する。ルリの従魔であるギンのバフの効果もあり戦士のルリが良いダメージを叩きだしていた。リンネの精霊魔法も良い感じだ。ボスのレベルが10下がっただけで回避が随分楽になった。リサも目立たないが良いタイミングで回復魔法を撃ってくれる。
人数の関係で戦闘時間は長めで、最後は当然狂騒状態にはなったが一気にボスの体力を削り、ほぼ無傷でエリアボスの討伐に成功する。倒せてホッとしたよ。
「やったー、これで新エリアに行ける」
「最初からタクにヘルプを頼んだらよかったね」
喜びながらそう話をしている2人。2人はお手伝いをしてもらったから無償って訳にはいかないわよと言い張る。俺はいいよと断っていたのだが、それだと彼女達の気が済まないということでベニーを押し付けてきた。ありがとうと礼を言ってベニーを受け取る。
「主のヘルプは完璧なのです。主を頼るのです」
リンネがドヤ顔で言ってるぞ。隣のタロウもそうだと言わんばかりに頷いている。
お前達が頑張ったからだぞと撫でてやると2体のご機嫌がよろしくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます