試練の街

 テイマーギルドから連絡をしてくれて、わざわざ不動産屋さんがテイマーギルドまで来てくれた。ドワーフのおじさんだ。


「開拓者の街の同業者から聞いております。立派な和風の家に大きな畑をお持ちだそうですね」


 情報が共有されているんだ。個人情報の取り扱いはどうなっているんだろうと思ったがこれはゲームだ。気にしないでおこう。便利な方が良いに決まってる。


「ここ試練の街では売り物の別宅は1種類しかありません。値段は一律1,800万ベニーです。違うのは別宅の場所だけですね、タクさんは初めてのお客様ですのでお好きな場所が選べますよ」


 1,800万ならなんとかなるぞ。場所は商業区に一番近い場所にした。街中への移動が便利だからね。別宅代とは別に転送盤が2つで200万ベニーかかるので合計で2,000万だ。端末を見ると払えないことはない。


 不動産屋さんと一緒にギルドを出て歩くとすぐに居住区に入った。入ってすぐの通りから奥に伸びている路地の中で最も大通りに近い場所にある家が俺の新しい別宅だ。同じ様な平屋の家が路地の左右にあり路地の奥に向かって並んでいる。家の中に入ると部屋が2つあって、その奥に小さな縁側、そして庭があった。庭は三方を木々で囲まれていてプライバシーは守られている。もちろん自宅と同じく庭の声が外に漏れることもないらしい。


 嬉しいのは別宅の建物の横に裏庭に続く通路があることだ。これでタロウとリンネは家の前の道から家の中を通らずとも横を通って庭に行くことができる。特にタロウはこれを見て嬉しそうだった。タロウでも十分に通れる広さがある。


 タロウとリンネは早速その家の横の通路から庭に出て2体で戯れあっていた。


 お金を振り込むと不動産屋さんが何かをトレードしてきた。端末を見ると転送盤セットになっている。個数が2となっているのでこれを好きな場所に設置すれば良いのだろう。聞くと転送盤の場所は自分で変更が可能らしい。


「ありがとうございました」


 不動産屋さんとの契約が終わった。俺はタロウとリンネを縁側に呼んだ。そばにきた2体を撫でながら言う。


「いいか、今から転送盤を設置する。これを設置するとだな。この家と畑のある俺たちの家との間をいつでも好きな時に移動できる様になるんだぞ」


「ガウガウ」


「主、素晴らしいのです。早速設置するのです」


 任せとけ、とまずは別宅の縁側に転送盤を設置した。そこでタロウとリンネには待っててくれと言ってから転移の腕輪で自宅に戻ると自宅の縁側の端に同じ様に転送盤を設置する。設置が完了するとその転送盤を使って別宅に戻ってきた俺。


「向こうの家にも転送盤を設置した。俺が行ったらお前達も続いて来てくれるかい?」


「わかったのです。リンネも飛ぶのです」


 転送盤は今まで何度も使っているのでタロウもリンネも問題なかった。俺が先に開拓者の街の自宅にいるとすぐにタロウ、リンネと転送してやってきた。せっかく自宅に戻ってきたので畑の収穫と水やりといういつもの農作業をした俺たちは再び試練の街の別宅に戻っていった。


 幸いに別宅購入はワールドアナウンスにならなかった。本当にホッとしたよ。


 別宅と本宅のワープが開通した俺達は再び試練の街を歩いてマップを作成してく。この街は開拓者の街と同じくらいに広い。そして居住区の奥に台地の上からでも見えていた大きな塔が立っているがその建物に入ることはできなかった。正確には近づくこともできなかった。塔の周りには柵があり中に入る門が固く閉じられていたのだ。


 試練の街のシンボル的な塔、何かの試練に関連した塔であるのは間違いない。俺がまだ知らないクエストがあるんだろう。マップを作成しながら街の人に聞いてもあれは試練の塔ですよと言うだけで、他の情報を教えてくれない。俺にはまだ資格がないみたいだ。


 焦らずに探してみよう。とりあえず新しいエリアに来た。ここには忍術の店があるかもしれないのでそれも探さないといけない。もちろん周辺の探索とレベル上げもだ。やることが多いというのはいい事だよね。攻略だけの日々に比べたらずっと楽しいよ。



 試練の街についてからも俺はログインとログアウトは開拓者の街の自宅ですることにしている。ログインすると農作業から1日が始まる。畑と果樹園を回って水をやる。もちろんタロウとリンネも一緒だ。収穫した日はそれらを農業ギルドのネリーさんに持ち込んで買い取ってもらう。


 それが終わると転送盤を使って試練の街の別宅に飛ぶ。そこから従魔達と一緒に街に出てウロウロしたり街の外で経験値を稼いで過ごす。試練の街は台地というか原生林のあのエリアだけがどう言う訳か魔獣が生息しておらず、その他の場所にはしっかりと魔獣がいた。街周辺のレベルは73から75だ。


 前のエリアでのレベルの上限が70だったので今は街周辺の魔獣を相手にするだけでも十分に経験値を稼ぐことができた。昼過ぎまで外で活動していた俺たちが試練の街に戻ってきたタイミングでクラリアから連絡が来た。


 情報クランはこの街でもしっかりとオフィスを借りている。攻略クランも同様にオフィスを借りたという。俺が行くといつもの2人が俺を出迎えた。


「別宅は狭いでしょう?一応買ったけどそれは転移用にしてるのよ。人数が多いからあの間取りじゃオフィスにできないし。タクと従魔達なら問題ないだろうけどうちは無理ね」


 これは情報クランも同様だという。ただ転送盤は便利であれを使ってこの試練の街と開拓者の街の往来が無償でできるので情報クランメンバーはログアウトは開拓者の街の自宅兼オフィスでしている。宿代が節約できると好評だそうだ。


 

 ワールドアナウンスがあってからエリアボスのジャイアントゴーレムが弱体化されてレベル90だったのが80まで下がったと教えてくれた。と同時に山道の魔獣のレベルも下がったこともあり毎日の様にプレイヤーが試練の街に到達しているそうだ。そういえばここ数日プレイヤーの数が増えたなと思っていたんだよ。


「タクが従魔を連れて街の中を歩いているのはプレイヤーの中ではすっかり有名になってるわよ」


「そうなるだろうね。タロウはでかいしリンネは大抵俺の頭の上に乗っている」


「ここはリンネの特等席なのです」


 そう、今もリンネは俺の頭の上に乗っていた。ちなみにタロウはクランオフィスの玄関で横になっていた。邪魔になっていないだろうな。


「試練の塔には行けたか?」


 クラリアの隣に座っているトミーが聞いてきたが俺は首を横に振る。


「やっぱりか。まだ俺達のレベルでは行けないのだろう」


「あるいは何か別のクエストがあって、それにあの塔が何かの役割を果たしている。そう見てるの」


 いかにもって作りの塔だしな。2人の言うことが正解なのだろうと俺も同意する。

 いずれにしてもまだ街に来てすぐだ。街を調べたり周囲を探索していると新しい何かが見つかるかもしれない。


 情報クランはとりあえず手分けをして街の探索と外の探索をしているそうだ。今までとは雰囲気が違うのでキーとなるトリガーがそう簡単には見つからない可能性があると言う。それでもそういうのを探すのが楽しいのよとクラリアが言った。情報クランとしての活動らしいでしょ?そう言われると確かにそうだ。



 その後は雑談タイム。新規プレイヤーの中にすでに第3の街に到達しているプレイヤーがいるらしい。ガチ攻略勢かと調べてみると第一陣のフレ繋がりで護衛してもらいながら次のエリアに来たと言うのが真相だそうだ。


「早く来てもレベルが低いままだとそこで苦労するんだけどな」


「タクの言う通りだ。ただプレイスタイルは自由だ。どんな形であれこのゲームを楽しんでいるのならそれでいいのだろう」


「そうだな。俺が人の事を気にしても仕方がないか」


 情報クランとして第2陣の中から新たなメンバーを入れたのかい?と聞くととりあえず新規で数名を仲間にしたとクラリアが言った。


「こちらから人を選ぶ程立派なクランでもないし私だってそれほど偉いプレイヤーでもない。気が合うというのとクランの活動趣旨をしっかりと理解して協力してくれる人。そんな人を探しているの。焦るつもりはないのよ」


 トミーもその通りで俺たちが人を選ぶなんてのはあり得ない。一緒にやる仲間を募っているという感覚だよと言っている。


 このPWLで情報クランといえば攻略クランと並んでトップクランだろう。普通なら上から目線になりがちだがクラリアもトミーも極めて常識人で自分というものをよく知っている。彼らが知り合った時から変わっていなくて安心したよ。


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