農業始めました

 自宅と畑を買った俺は農業ギルドから農具と種と苗木を買った。野菜の種はニンジンときゅうりと白菜。苗木はりんごとみかんにした。このゲームではシーズン無視で果実や野菜が育てられる。庭の畑の半分を果樹園にし、残り半分を野菜を植えることにするが畑の一部に薬草も植えることにした。ポーション作りもできるし上手く行けば他の草も育てることを考えている。


 植える計画は立てたが実行するには畑を耕さないといけない。タロウとリンネにも手伝ってもらうことにする。


「いいか、畑を耕してからこの種を植えるんだ。タロウとリンネも手伝ってくれよな」


「はいなのです」


「ガウガウ」


「よし!始めるぞ」


 それから俺は鍬を持って土を耕し始める。俺の仕事を見ていた従魔2体は前足や後ろ足で器用に俺と同じ様に畑の土を掘り返して柔らかくしていく。慣れてくるとスピードが早くなった。


 これならモグラをテイムせずともいけそうだぞ。


 畑を耕し終えると何も言わなくても2体の従魔は庭を流れている川の水で体や足をきれいにする。うん、綺麗好きでよかった。俺は井戸の水で手洗いだ。冷たくで気持ちがいいんだよな。


 しっかりと耕し終えると次は苗木を植え、種を撒く仕事だ。


 全て終わったのは夕刻近い時間だった。ゲームで作業時間が短くなってるとは言えそれでも畑が広かったのでほぼ1日仕事になってしまった。


 従魔は畑に入ってはいけないのを分かってる様で畑には向かわず、庭で遊んでいた。庭も広いから2体が遊ぶのは全然問題ないな。


 翌日は各ギルドを回って合成の簡易キットを買ってきた。これで自宅の工房でいろんなものを合成できる様になった。材料がまだまだ足りないからすぐに何かができる訳じゃないけどそれでも準備が進んでいくのを実感できるのは楽しい。その代わりにお金の減りが半端ないけど。



 ギルドでキットを買い揃えて自宅でのんびりしていると通話が来た。見るとルリだ。


「おひさ。ねぇ、タクって家買っちゃったの?」


「そうなんだよ。買えたんだよね」


「やっぱりそうなんだ。ついさっきリサと2人でクラン主催のツアーに参加して開拓者の街についたのよ。家を見に行ってもいい?」


「もちろん、待ってるよ」


 場所を教えて通話を終え、しばらくすると門のところに見慣れた2人がやってきた。よく見ると他にも人の姿が見えている。土地を探しているのかなと思いつつ許可を出すとルリとリサが家の中に入ってきた。


「なにこれ!凄い家じゃない」


「えっ、タロウがいる。リンネちゃんもいるじゃない。ここって従魔と一緒にいられるの?」


 家に来るなりテンションが高い2人。自分たちの従魔が呼べるかなと庭で指輪を触って呼び出すと俺の脳内にミントの声がした。


(自分の従魔でない従魔を呼び出そうとしていますが許可しますか?)


 なるほど。持ち主の許可制なんだ。もちろん許可する。すると庭にクロとギンが現れた。


「クロとギンが来てくれたのです。リンネとタロウのお友達なのです」


 リンネもタロウも大喜びだ。早速庭でクロとギンの4体で遊び始めた。ルリとリサの2人も同じ様に喜んでいる。今の脳内での許可制の話をするとだから呼び出してから時間がかかったのねと言う2人。


「それにしても凄い家じゃない、広いしさ、畑も広いし」


 イベントNM戦でもらったお金とあの時の特別割引券の話をしてだから買えたんだよと言う。


「9割引の券だったんだね」


「よかったじゃん。おかげこんな立派な家を持てたしさ」


 やっぱりルリとリサも縁側に座るんだよな。ここなら風が抜けて気持ちいいし庭で遊んでる従魔は見られるし。俺もこの場所がお気に入りだ。


 2人によると公式の掲示板でこの家が話題になっているらしい。そして庭で遊んでいるタロウを見たと言うことからタクが買ったんじゃないか、いやそんな金はないだろうということで盛り上がっているのだという。俺は相変わらず掲示板系を一切見ていないのでこの家が話題になっているなんてこれっぽっちも知らなかった。隠している訳じゃないけどことさら自慢する事でもないと思っている。


「あの坑道の中を通るルートもタクが見つけたの?」


「あれは見つけたというか本屋で買った本に書いてあったんだよ。こっちの山にも坑道があるってね」


 それとレストランの親父の言葉、それらから山道以外のルートがあるんじゃないかって情報クランに言ったらじゃあ一緒に攻略してみようという事になったという事実そのままを2人に説明した。


「タクは持ってるプレイヤーだからね」


 と、ここでも誰かと同じ事を言われる。ちょっと運が良かっただけなんだけどな。

 4体の従魔は休憩とばかりに縁側に上がってきた。ギンとクロはそれぞれの主人の膝の上に座り、リンネは俺の膝の上に乗る。その横でタロウがゴロンと横になった。


「私たちも家が欲しいなって話をしてるの。従魔と一緒にいられるのなら絶対に欲しいよね」


「街の中は連れて歩くのは無理だけど外から帰ってもここに戻ってくるし。家にいる時はずっと一緒だしね。ここ数日街の外に出てないよ」


 リサとルリは2人で1軒の家を買うつもりだという。お金はまだまだ足りないのでこれから金策するらしい。


「情報クランによるとゲームだから家が売り切れて買えないってことはないらしいの。だからしっかり貯めてから家を選ぶつもりなの」

 

 2人ともしっかりしているよ。

 3人で話をしていると門が開いて攻略クランのマリアが庭に入ってきた。事前に登録しておけばそのメンバーは家主、つまり俺がいちいち許可を出さなくても家に入ってくることができる。もちろんそれができるのは家主が家にいる時だけだけど。


 マリアの姿を見てタロウが起き上がって尻尾を左右に振って歓迎の意を表す。マリアはルリやリサともNM戦で顔見知りだ。


「こんにちは」


「そうか、マリアはタロウのファンだものね」


「そうなの。クランの活動が終わってフレンドリストを見たらタクの居場所が開拓者の街になってたからね、タロウの顔を見にやってきたの」


 マリアが庭にしゃがみ込むと縁側から降りたタロウがマリアに近づいていく。撫で回されて耳が後ろにさがりまくっている。狼というよりは完全に犬だ。


「市内の様子はどうなの?」


 にやけた顔でタロウを撫でているマリアにルリが聞いている。

 

「広いわね。残念ながら忍者のタクには関係ないけど売っている武器や防具はまたランクが上がってる。値段も高いんだけどそれに十分見合う性能のが売ってるのよ。なので今はこの街の周辺で金策を兼ねてレベル上げをしているところ、ある程度装備が揃ったらこの盆地の攻略を始めるつもりなの」


 ルリとリサの2人は街の宿の相場をマリアに聞いていた。その相場を聞く限り山裾の町よりは高目だがその分部屋も良くなっているらしい。従魔と一緒に泊まれる宿もあると聞いて2人とも喜んでいる。


「タクは自宅だからタダだよね?」


「そうだよ。ここでログアウト、ログインできるから宿代はかからないね。クランのオフィスはどうなの?」


「あそこも家扱いになってるからここと同じ。ログイン、ログアウトをオフィスでするからこの街では宿代は要らなくなったわ」


 俺とマリアのやり取りを聞いていたルリとリサは、金策をして2人でできるだけ早いタイミングで家を買おうという結論になった様だ。


「主、タロウが背中に乗れと言っているのです」


 話が終わるのを待っていたのだろう。リンネの言葉でタロウを見ると乗れという風に俺の前の庭で前足と後ろ足を落としている。そう言えば乗る乗ると言って乗っていなかったな。


 庭に降りてタロウに跨るとそのまま四つ足で立ち上がった。


「凄いのです。タロウはやっぱりできる子なのです」


 いつの間にか俺の前に座っているリンネが言う。縁側で座っていた3人もタロウは大きくなったから平気なんだねと言っている。乗ったまま庭を数往復したが思った以上にタロウの背中は乗りやすかった。


「タクがタロウに乗れるのなら移動が早くなるし万が一魔獣に見つかっても逃げられるわね」


「だからと言ってタロウに乗った俺を斥候に使おうなんてのは勘弁してくれよな。こっちはまったりプレイヤーなんだから」


 マリアには断っておかないとな。でないと本当に斥候をやってくれとスタンリーあたりに言われそうだし。俺がタロウから降りて言うとそうか、ダメなのかとマリアは残念な顔をしていた。


「タクってさ、自分ではまったり、のんびりと言いながら結構先頭を走ってるイメージがあるんだけど」


「そうそう。なんだかんだとワールドアナウンスも多いし、攻略組と一緒にいることも多いしね」


 まてまて、ルリとリサはそう言うが自分では全くそんな意識はないからな。俺は忍者でマイペースでこのゲームをするって決めてるんだよ。そう言ったが3人はどうやら信じていない様だ。


「うちのマスターのスタンリーはなんとかタクを攻略クランに引き込めないかって言ってるし、聞いたところだと情報クランも同じことを考えているみたいよ」


「マリア。悪いが俺はどっちもお断りだよ。そりゃ協力はするよ。協力するのは全然いいんだよ。でもクランに入るのは勘弁な。俺は忍者ソロでのんびりと楽しむつもりなんだから」


 まぁそう言うことにしておきましょう。とマリアが言うと他の2人もそうそう、とりあえずそう言うことにしておこうと言われた。軽く流されている気がするが、これは本心だからな。

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