北の街
イベントが終わるとPWLの世界にも日常が戻ってきた。外でレベル上げをする者やフィールドを探索する人達がいる。フィールド探索、これは攻略クランと情報クランだがこの新エリアがかなり広く、また地形も複雑になっているのでなかなか攻略が進まないらしい。魔獣のレベルも当然上がっているし。
そんな話を情報クランのクラリアから聞いた。自分自身はイベントが終わってから合成をやろうと山裾の街に籠って余り外に出ていない。おかげで鍛冶や錬金のスキルが上がって20を越えた。職人から見れば低いレベルだけど職人になるつもりはない俺にとっては合成は趣味というか気分転換になる。工房に籠って暫く合成をし、息抜きで公園やテイマーギルドに顔を出す。そしてまた合成をする。マイペースな日々を送っている。
イベントのNM戦を2戦したことで期せずしてレベルが3つ上がったというのものんびりと合成をする理由になってるんだよね。
この日も休憩がてら工房から出て市内を歩いているとクラリアに声を掛けられた。こっちも特に用事が無かったので誘われるままに彼らのオフィスにお邪魔して入り口近くにある応接セットに座る。
「トミーはフィールドの攻略中?」
「トミーは別口なの。フィールド探索はうちと攻略クランとで手分けして探索しているんだけど想像以上に広いのよね。逆に言うと広いからまだ見つかっていない街があると見ているの」
「なるほど」
「それでね、タクに情報を教えてあげようと思って。もちろんこれはお金は要らないわよ」
クラリアからは普段から良い情報を買っているので気にしないでいいと言われた。最初の頃はその都度情報料をもらっていたが最近ではまとめて渡してくれる。これは俺と情報クランとの間の取り決めでそうなった。クラリアによると情報が沢山、高く売れた時にその利益の中から支払う方が公平でしょうということだ。そしてそれが毎回結構な金額になっている。情報を買う人は多いんだな。
「実はね、この街の奥にある坑道の奥にダンジョンがあるのが分かったの。トミーはそっちを調べているところ」
ダンジョンの話は知らなかった。このPWLで初めてのダンジョンじゃないかなと言うとその通りだとクラリアが言った。
「そのダンジョンにいる魔獣がテイムできるの。モグラなの」
「ほう、初めてのモフモフじゃない?」
「そうみたい。能力は検証中だけどモフモフってことで結構ダンジョンが賑わってるのよ」
きっと従魔好きの女性プレイヤーがダンジョンに乗り込むんだろうな。その気持ちは分かる。タクはどうすると聞かれたけど、とりあえずモグラの能力を聞いてから考えるよと言っておいた。当面はタロウとリンネで十分だろうし、自分はテイマーとして活動するんじゃなくて俺は忍者ソロを手伝ってくれるという立ち位置で従魔を見てるからね。あくまでメインジョブは忍者だ。テイムありきじゃないんだよな。
とは言うもののダンジョンには興味がある。そこでティムできるということは従魔を連れてダンジョンの攻略が出来るという事だろう。俺のレベルであれば普通に途中まではいけるらしい。まだクリアされていないのでダンジョンの奥にいる魔獣のレベルが分からないが今の俺のレベルである55であればそれなりに進んで行けると言われる。これは一度挑戦するしかないよ。
タロウとリンネを連れてダンジョン攻略も楽しそうだ。
その後はフィールド探索の話になった。俺が第3の街のドワーフからこの街の情報を聞いたという事もあり情報クランはフィールドの探索をしつつも同時に街にいるNPCにも積極的に話かけて情報を取ろうとしているらしい。
「タクがヒントを見つけてくれる気がしているんだよね」
「持ち上げすぎだよ。情報クランよりもずっと活動範囲が狭いんだよ?」
攻略組のスタンリーやマリアもそうだったが情報クランのクラリアとトミーも俺を買いかぶりすぎなんだよな。
情報クランを出た俺はテイマーギルドに顔を出した。ギルドの扉を開けると猫耳の受付嬢が俺を見て立ち上がって挨拶をする。カレンさんとジェシーさん、2人の猫耳NPCともすっかり馴染みになった。
「こんにちは」
挨拶をすると俺が何も言うわずとも奥の扉を開けてくれる。するとこれまたいつもの様に2体の従魔が俺を見てすっ飛んできた。
「タロウはまだまだ大きくなるのかな?」
2体の従魔を撫でながら自分と一緒に奥の部屋に来たカレンさんに聞いた。彼女は俺の前で横になってリラックスしているタロウを見て言った。
「結構大きくなりましたね。身体はもう少し大きくなりそうですよ」
自分の事を話されているのが分かるのだろう。足元でゴロゴロしながら声を出している。リンネは今日は定位置、俺の頭の上だ。
「そう言えばこの街の奥にある山の中にダンジョンがあってそこでモグラをテイム出来るって話を聞いてきたよ」
「はい。あのダンジョンにいるモグラはできますね。種族特性で土を掘ったり池を作ったりするのが得意なんですよ。農業をやる時には良い従魔となりますね」
農業?このゲームではプレイヤー自身が農業が出来るのか?農業ギルドはあったけどそれって外で見つけた果物を買い取ってくれるギルドだと思っていたよ。頭の上に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「この街では無理ですけどね。北の街は開拓者の街と呼ばれていてそこだとまだまだ土地が余っているのでプレイヤーさんも畑を持って農業ができるんです」
北と言ったよ。今、NPCが北の街と言ったよ。
「北って山が連なっているんじゃなかったっけ?」
「そうです。でもあの山々を越えるとその先は広い盆地になっているんです。その盆地の中に開拓者の街があるんですよ」
なるほど思いながら聞いていると俺の頭の上から声がした。
「主、北にあるその街に向かうのです。タロウとリンネが主のお供をするのです」
「いやちょっと待て、行くってそう簡単には行けないぞ。俺達のレベルじゃまだ無理だろう」
そう言ってからそうだよね?と受付嬢を見ると何も言わずに頷いていた。
「だそうだ。もうちょっとこの街でしっかりと鍛錬してからだ」
「分かったのです。だったら外で鍛錬するのです」
確かにここ数日は街に籠っていたな。明日あたりから外に出るか。それにしてもリンネはやる気満々だな。
リンネとの会話で明日からの方針が決まった。リンネが俺の頭の上から降りるとタロウと並んで横になった。撫でろのおねだりだ。
2体を撫でながらカリンさんに転移の腕輪について聞くと、従魔も一緒に転移できますよという返事を貰った。これで安心だ。
2体の従魔をしっかりと撫でてテイマーギルドを出た俺はそのまま情報クランに引き返した。入り口で案内を乞うとすぐにクラリアが出てきた。
「どうしたの?」
「いや、次の街の情報が入ったんで」
俺がそう言うと彼女が直ぐに俺の手を掴んで中に引っ張った。
そのまま応接室に入ると大きく息を吐いたクラリア。入り口付近だと誰が聞いているか分からないから部屋に入ったのだそうだ。
テイマーギルドで聞いた話をすると再び驚かれる。ええっ!と大きな声で驚かれた後で、身を乗り出してきた。食いつきが半端ない。
「北の山の向こう、あの山々を越えた所に広い盆地があってそこに開拓者の街って呼ばれている街がある。それであってる?」
「俺が聞いたのはそう言う話。ただ俺のレベルじゃ無理だって言われたけど」
LV60かそれ以上は必要なんだろうなという話になった。攻略組ならその辺りのレベルのプレイヤーはいそうだけどな。或いはもうちょっと上のレベルが必要なのか。
「ダンジョンでモグラをテイムするのが伏線になっているのかしら。北にある新しい街と農業。すぐに動かないとね」
情報は出した。あとは頑張ってもらおう。クラリアによるとこの情報も高く売れるのは間違いないらしい。
「農業とモグラの関連情報はテイマーと農業希望者に売れるの。もちろん北の街の情報も売れる」
「PWLで農業をやりたいプレイヤーがいるんだ」
クラリアによると結構いるらしい。中には運営に問い合わせをしている者もいるという。
「戦闘、合成があって農業が無いのがおかしいってね。自分で畑を耕してみたり、果実を育ててみたいという人は多いのよ。それに作った農作物は調理ギルドや調理スキルがあるプレイヤーにも売れるでしょ?調理スキルが高い人の中で原料の農産品を自分で育ててみたいと思っている人も多いのよ」
元々ゲームの中で好きな事をやってみようというのが売りのゲームだ。いきなり全てを用意するのではなくて攻略して活動範囲が広がることで新しい発見がある様に作っているのだろう。
「ほらっ、やっぱりタクだったでしょ?」
そう言ってドヤ顔になっているクラリアにはいはいと返事をしてクランを後にした。
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