公園にて
公式イベント前までにここまでレベルを上げるぞという目標は立てず、俺は気ままに合成をしてみたり、街の西側でレベル上げをしてみたりして過ごしていると忍者のレベルが40になった。忍者は12以降はレベルが上がるたびにステータスが少しずつ上昇している様だ。AIのミントに確認したから間違い無いぞ。
俺と同時にフェンリルのタロウもLV40になった。するとAIのミントのアナウンスが聞こえた。
(従魔のフェンリルがLV40になって威圧というスキルを覚えました)
威圧?相手をビビらせるスキルか?
「タロウ!」
声をかけると近くを走り回っていたタロウがやってきた。一緒に遊んでいたリンネもやってきて俺の頭の上に飛び乗る。俺はタロウの頭を撫でながら言った。
「タロウはレベルが上がって新しい威圧ってスキルを覚えたみたいだぞ。次の戦闘でやってみてくれ」
「ガウガウ」
分かったと鳴きながら頷くのを見て頼むぞと頭を軽く叩いた。それから森に入って敵の姿を見た時に、
「タロウ、威圧だ」
そういうとタロウが近づいてきたターゲットに向かって低い唸り声を上げた。すると敵が立ち止まってタロウに顔を向けた。その隙に俺が魔獣に接近して倒すことができた。
「すごいぞ、タロウ」
強化魔法をかけていたリンネもすごいすごいとその場でジャンプしている。褒められたタロウは嬉しいのか撫でろと顔を寄せてきた。当然撫で回してやる。
(今のが威圧かい?)
(そうです。一時的に相手を恐れさせるスキルです。相手が低レベルの敵には効果があります。相手が高レベルになるとその効果は出ませんが代わりにヘイトを稼ぐことができます。リキャストは5分です)
なるほど。今のを見ていると威圧の届く距離はそう長くなさそうだ。タロウがしばらく待って、相手が近づいてから威圧を使ったのを見ているとそう思える。今は戦闘の最初から使ったがこれは戦闘中でも使えそうだ。一時的にタロウにタゲを取らせている間に俺とリンネが攻撃できる。
ソロで活動しているので他のプレイヤーのレベルは知らないが自分が40になったということはトップ組は50に到達しているかもしれない。レベルがどれくらいになったら東の村に行けるのかはわからないが情報クランのクラリアは確かLV40でも東の森の入り口あたりまでしか行けないと言っていた。
俺はソロだからそう考えると50かそれ以上のレベルがないと東の攻略は厳しいだろうな。東の山裾の街に行ける様になるのはもう少し先の話だ。イベントでしっかりと経験値を稼ごう。忍術が手に入るというモチベーションがあるからレベル上げにも気合いが入る。新しい装備と武器にもすっかり馴染んでいた。ケチらずに良い装備を身につけておいてよかった。
その後も俺と2体の従魔は西の森の中でカブトムシを相手にレベル上げを続けた。西の森は昆虫の魔獣のゾーンでいろんな種類の昆虫タイプの魔獣がいる。ルリとリサがテイムしたくないという気持ちも分かるが、男性プレイヤーから見てみれば、小学校の時の昆虫採集を思い出して虫系の魔獣をテイムしたいというやつも多いんじゃないか。俺はテイムする気はないけど。
昆虫相手にリンネに精霊魔法を打たせるとレベルが上がるごとに少しずつだが威力が増している様だ。タロウもしかりでLV40になって一段と攻撃力が上がっている。タロウは威圧はもちろん、通常攻撃もかなり強くなっていた。ほとんど苦労することなく昆虫を倒しまくっていく。
これタロウとリンネだけで格上だって退治できるんじゃね?と思ったが、深く考えると自分が惨めになりそうだからそこでやめた。
しばらくしてリンネのレベルが32になった。これでまた魔法の威力が少しアップして戦闘が楽になるぞ。本当に俺の従魔達は優秀だよ。
その後も森で活動をした俺は、夕刻街に戻ってきた。従魔を返した俺はそのまま街の中で合成をちょこっとやってから居住区の中にある公園に足を向けた。
この場所が最近のお気に入りだ。広い公園で芝生の上に座ってゴロンと横になってのんびりする。ログアウト前のクールダウンというかリラックスタイムだ。こんなにのんびりと過ごすなんてゲームとは言え最高だね。夕方の空を見ながらのんびりする。ゲームとはわかっているけどしっかり作り込んであるから見ていても飽きないんだよ。
しっかりとクールダウンしてそろそろ宿に戻ってログアウトしようかと起き上がると、それを待っていたのか1人の老紳士風の男性が近づいてきた。NPCだ。
「こんにちは」
近づいてきた男性が挨拶をしてきたので挨拶を返す。
「ここ数日、ここで何度かあなたの姿を見ていますが、この公園がお気に入りですかな?」
「ええ。宿に戻る前にこの公園でのんびりするのが今の自分のマイブームなんですよ」
そうですか、なるほどと大きく頷いているその人。
「いやね、この公園にプレイヤーの方が来るのは珍しくてね。しかも素通りじゃなくて毎回公園でリラックスしておられる。気になりましてね」
確かに居住区の公園に足を伸ばし、そこで時間を潰すプレイヤーはいないだろう。誰かに見られているとは思ってもいなかったけど。
「いい公園ですよね。広いし緑が多いし。のんびりできます」
公園を褒められて嬉しかったのだろうか。それは良かった良かったと言っている。それにしてもNPCが優秀すぎるんだよな。まるでリアルの会話だよ。
「実は私もこの公園が大好きでね。ほぼ毎日来ているんですよ」
「そうなんですか。いや、本当に良い公園ですよね。広いし横になっても気持ちがいいし、クールダウンに最高ですよ」
そうやって俺はこの老紳士と少し立ち話をする。老紳士は毎日夕刻のこの時間に公園を散歩するのが日課になっているそうだ。少し前から滅多に見ないプレイヤーがこの公園にいるのを見かけて、どう言う目的で来ているのか気になっていたのだと言った。
その後もしばらく話をしたが、そろそろログアウトする時間になったので会話のキリがついたところで、
「じゃあ俺、そろそろ行きますんで」
そう言って立ち去ろうとしたら、
「そうですか。あっ、そうだ。これを貴方に差し上げましょう」
そう言って小さな石の様なものを差し出してきた。ピコンと音がしてそれが端末に収納される。端末を見ると黒い石だ。その画像を見る限り大きさは親指よりも少し大きいくらいかな。綺麗な石だ。見ていると老紳士が言った。
「黒翡翠の欠片です。持っていると良いことがあるかも知れません。それではまたここでお会いしましょう」
そう言って老紳士は俺の前から去って言った。もらった黒翡翠の欠片というのをもう一度よく見てみると譲渡不可、販売不可アイテムの様だ。自分しか使えない。
それにしても翡翠ってのは普通は緑っぽい色のが多いんだけど黒色の翡翠もあるんだな。初めて知ったよ。
(ミント、この黒翡翠の欠片って何か分かる)
(その情報は持ち合わせていません)
AIも知らないか。まぁ持っていると良いことがあるかもって言っているしとりあえずこのまま収納に入れておこう。情報クランに聞いてみたら何か分かるかもしれない。
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