イベント告知

 新エリアの最初の街、プレイヤー達が第3の街と呼んでいるこの場所はとにかく広い。商業区をくまなく歩いた俺は今は時間があると居住区を歩いている。街の全体像を掴みたいと思っているだけで特に目的があるわけではない。


 居住区にいるのはほとんどがNPCだ。大人もいれば子供もいる。人族もいればドワーフや猫人もいる。本当にNPCなのかと思うほどに動きや会話がリアルだ。居住区に中に広い公園があるので入ってみるとそこでは家族連れがいたり、芝生の上に座って横になっている人達がいた。


 自分以外のプレイヤーの姿は見えない。皆外で活動をしているか工房にこもっているのかもしれない。折角ゲームにインしてぼーっとしている暇は無いってことかな。俺だって今まではそうだった。だからこうやって意味なく街を歩いてみたり空を見上げたりするのがすごく新鮮だ。そして意外とこれが楽しいと気がついている自分がいる。


 この公園にはまた来ようと決めて公園を出ると商業区のテイマーギルドに足を向けた。受付の猫耳嬢に挨拶をして奥の扉を開けるとそこにいたタロウとリンネがすっ飛んできた。リンネは早速俺の頭の上に乗ってご満悦だ。


「今日は外には出ないんだよ。明日からまた外で頑張ってもらうぞ」


 しゃがみ込んでタロウを撫でていると受付嬢がやってきた。この街の受付嬢は2人いてミンさんとアリスさんという2人とも猫人族のNPCだ。


「タロウもリンネもタクさんによく懐いていますね」


「2体とも良い人の従魔になっているのでテイマーギルドとしても安心です」


 2人が交互に言う。


「こっちも戦闘の時はこの2体に助けてもらっているんだよ。リンネは魔法使いなんだな」


「そうですね。成長すればいろんな種類の魔法が、それも強い魔法が使える様になりますよ。そしてタロウも成長すれば今よりもずっと強くなるでしょう」


 忍者ソロでこの世界を楽しもうと決めている俺にとって従魔は仲間であり家族だ。お前達が頼りなんだよ。


 俺はたっぷりと2体を撫でてからまた来ますとギルドをあとにした。



 テイマーギルドを出て商業区をぶらぶらと歩いているとワールドアナウンスが聞こえてきた。通りで立ち止まって周囲を見ると他のプレイヤー達もその場で立ち止まっている。


『新エリア開放に伴って現実時間の1週間後から新エリア開放イベントを開催します。詳細はウィンドウの中にある案内をご覧ください。なお、公式ホームページからもイベントの内容を確認できます。多数のご参加をお待ちしています』


 アナウンスが終わるとウィンドウにある案内というパネルをタッチするとイベントのお知らせというのが出てきた。内容は今アナウンスした内容がより詳しく書いてあった。


・イベントの期間は現実時間で開始から1週間。

・イベント開催中はフィールドにいる魔獣を倒して得られる経験値が通常よりも増加します。これは従魔にも適用されます。

・魔獣からのアイテムドロップの確率が上がります。

・合成をした場合、それが成功する確率があがります。

・従魔については期間中それぞれが持っている能力がアップします。

 (経験値やドロップ、合成の成功率等従魔が持っているの全てのスキルが上昇します)



 経験値が増える。経験値増のスライムを従魔にしていると更に増えるということだ。

 また合成については合成の成功率が上がる。合成スライムを従魔にしていると更に確率が上がるということだ。ドロップ品も落ちやすくなる。


 相変わらず数値的な部分は隠しているがそれでもプレイヤーにとっては嬉しいイベントだ。


 そして最後にはこんな事が書かれていた。


・イベント期間中、新エリアのフィールドの数か所にNM(ノートリアスモンスター)が隠れています。トリガーを見つけ、使用することでNMを呼び出して戦闘をすることができます。 NM戦に勝利すれば特別なアイテムを獲得することができるかも知れません。トリガーがあれば期間中は何度でもNMに挑戦することができます。


 トリガーを見つけてて呼び出して戦闘するのか。何体いるのかは分からないし人数制限や時間制限があるのかどうかも分からない。これもレアアイテムを求めるプレイヤーにとっては楽しみなイベントだろう。


 イベント開始は現実時間で1週間後の真夜中の0時になっていた。



 イベントが発表されてから第3の街は毎日賑やかだ。多くのプレイヤー達が街の中を歩きまわっている。武器や防具を新調したりしているのかもと想像するがそれにしても人が多い。


「NM戦のトリガーはイベント前にでも手に入る可能性があるんじゃないかと大勢がクエストをしたり外で魔獣を倒しているのよ」

 

 そう言ってくれたのは情報クランのクラリナだ。第3の街の中をぶらついていたら彼女から声を掛けられてそのまま情報クランのオフィスに来ていた。


「情報クランから流している情報じゃないんだよね?」


「うちは確実な情報しか流さない。未確認情報の取り扱いには十分注意しているの」


「じゃあなんでこんなに多くのプレイヤーが街の中をウロウロしているんだい?」


「ネットの掲示板で盛り上がっているらしいのよ。それに可能性としてはトリガーだけ先に仕込んでおくってことも十分ありそうでしょ?だからクエストを受けたりする人が多いの。もちろんフィールドにも大勢いるわよ」


 なるほど。イベント前にトリガーが手に入ればイベント開始直後からNM戦に挑戦することができる。また、トリガーを売ることだってできるだろう。売れればだけど。


「タクはどうするの?」


「どうするって俺はイベントでは自分自身と従魔の経験値稼ぎだよ。合成はちょこっとするかも知れないけど基本はレベル上げをしようと思ってる」


 そういうとクラリアが言った。


「何か見つけたら教えてくれる?」


「見つけたらな。期待しないで待っててよ」


 クラリアにも言ったが、イベントの中で自分が興味があるのは経験値増だけだな。なのでこの期間はフィールドで経験値を稼ごう、タロウとリンネの経験値も稼がないと。NMの相手は情報ギルドや攻略組にお任せだ。



 イベントは1週間後だからと言ってそれまで外で活動をしないことはない。俺にとって日々の地道な経験値稼ぎは必要だ。


 街の外でタロウとリンネを呼び出して西の森でLV36や37の魔獣を相手に経験値を稼ぐ。ルリやリサが言っていた様にこの森には虫系の魔獣がいた。大きなカブトムシや芋虫が今の経験値稼ぎの相手だ。自分も昆虫系をティムする気はないのでひたすら倒す。


(フォレストビートル。レベル37です)


 カブトムシと言っても体長が1メートル近くある頭の上にある角を武器にして攻撃してくる魔獣だ。俺とタロウで攻撃を避けながら刀や足でダメージを与え、疲れてくるとリンネが回復魔法を唱えてくれる。これはリンネがLV20になった時に覚えた魔法だ。強化魔法と回復魔法があるので俺とタロウは遠慮なく攻撃に専念することが出来る様になった。


 街の外で根を詰めてレベル上げをしていると忍者のレベルが38となりタロウもそうなった。そしてリンネのレベルが30になって新しいスキルとして精霊魔法を覚えた。低レベルはNEXTの必要経験値が低いのでレベルの上がりが早いのだろう。あるいは従魔のレベルアップはプレイヤーとは別の動きかもしれない。俺にしてみればリンネとタロウが順調にレベルアップしてくれればどっちでも良い話だ。


 今の所リンネはレベルが10上がるごとに魔法を覚えていっている。30で精霊魔法が撃てる様になった。これで強化魔法、回復魔法、そして精霊魔法が使える従魔となった。尾が増えて2本になった。それぞれの魔法の威力はまだお世辞にも強いとは言えないがそれでも成長しているのが分かるのは嬉しい。


「タロウもリンネも強くなってるぞ」


 森から出た草原で休憩しつつつ2体のペットを撫でまわしながら話掛けるとタロウはガウガウと答え、リンネは前足で俺の太ももをトントンと叩く。タロウの全身は茶色が無くなり白色になっているがところどころ青みが出て来ていた。体長も大きくなり今や大型犬ほどのサイズになっている。ただ相変わらずの甘えん坊だ。これはリンネも同じだ。真っ白な2本の尾っぽをフリフリして感情を表していた。

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