レベル18

 街の東側は俺のここ最近のレベル上げの場所だ。そこでレベル上げしながら採掘というのをやってみよう。ログインして街の外に出るとタロウを呼び出す。


 体つきがまた大きくなったフェンリルのタロウが姿を表した。


「ガゥ」


 声は立派な狼だが仕草はまだ子供だな。呼び出すと体を足にグイグイと押し付けてくる。撫でろのおねだり仕草だ。俺がしゃがんで頭の上から首を撫でてやると耳を倒して気持ちよさそうにする。これが最近タロウを呼び出した時の儀式になっている。


 一通り撫でてからさぁ行こうか草原を歩き出したところで脳内にアナウンスが来た。


『ワールドアナウンスです。新エリアが開放されました』


 おお、ようやく次のエリアが開放されたのか。先行組も頑張ってるんだな。

 俺は立ち止まってワールドアナウンスを聞いていた。その間タロウは足元でじっとしている。アナウンスが終わるとタロウの頭をポンポンと叩き、


「さぁ、行くぞ。今日はあの山まで行こう」


「ガゥ!」


 草原を抜け、森に入ってホーンラビットやゴブリンを倒しながら森の奥に進んでいく。この森の奥にはLV15前後のゴブリンが徘徊しているがこのレベルが始まりの街周辺で最もレベルが高い敵だ。ただ今の俺の敵ではない。何と言ってもタロウが一緒だからな。


 タロウが威嚇しそちらに注意が向いたところを背後から切りつける。片手刀の一振りでは倒れないので今度はこちらを向くゴブリン。その背後からタロウが前足で襲いかかって倒す。


 森の中でゴブリンを数体倒していると忍者のレベルが18になった。タロウのレベルも17にアップしていた。


「これでまた戦闘が楽になるぞ」


 タロウの頭を撫でてから奥に進んで山裾に着くと周囲をぐるっと見回すと立っている場所から右に少し歩いた上、15メートル程の高さのところに洞窟の様な入り口が見えている。あれが坑道だな。


 その坑道に近づくと山裾から登っていける細いスロープがあった。俺が先に登り背後からタロウがついてきてスロープを上がるとそこは坑道の入り口だった。


「鍛冶ギルドからはここの坑道の中には敵はいないと聞いているが警戒しながら進むぞ」


「ガゥ」


 坑道に入って灯りを持っていないのに気がついた。やらかしてしまった。これじゃあ奥にはいけない。

 

 洞窟の外から差し込んでいる光で見える洞窟の壁をよく見ると、日の光を反射しているのではなく自ら光を発している場所がある。あれが採掘ポイントか。


 その場所にツルハシを下ろすとキンという音がすると同時にミントの声が聞こえてきた。


(亜鉛鉱を1つ手に入れました)


 なるほど、そういう仕様になっているのね。俺は光っている場所に次々とツルハシを下ろしては亜鉛鉱を手に入れていく。一度採掘した場所はしばらく光らない、つまり採掘できなくなっている様だ。


 入り口付近でも結構採掘ポイントはあるが全て一番安い亜鉛鉱ばかりだ。ただこっちは金策ではなくて鍛治スキルを上げるのが目的なので全然構わない。タロウは採掘している俺の背後でしっかりと周囲を警戒してくれている。よくできた従魔だよ。


 この日はツルハシを2つ壊して代わりに亜鉛鉱を10個手に入れた。松明を忘れたので奥に進めないのでとりあえず一旦街に戻ることにする。


「タロウ、坑道から出て森で経験値を稼ぐぞ」


「ガゥ!」


 坑道から森に戻って森の中でゴブリンを倒し、ホーンラビットを倒した俺は夕刻に始まりの街に戻ってきた。


 街に入ると昨日よりもずっとプレイヤーの数が少ない。皆新エリアに行ったんだろう。街に入るとそのまま鍛冶ギルドに顔をだした。ここも昨日よりも合成をしているプレイヤーの数が少ない。残っている彼らは合成職人達だな。


 空いている工房に入ってアイテムボックスから亜鉛鉱を取り出して金槌でカンカンと叩いていると、亜鉛鉱がみるみるインゴットに変わっていく。


(亜鉛のインゴットができました)


 ミントの脳内アナウンスで金槌で叩くのを止める。さすがゲームだ。この調子で10個の亜鉛鉱を全てインゴットにすると鍛治スキルが3になった。出来上がったインゴットはギルドでも買い取ってくれるがこれらは、また将来鍛治スキル上げに使えるだろうと売らずにアイテムボックスに収納する。


 今までは自分の収納には武器や防具、薬品、など戦闘に関係するものしか入れて無かったがこうして合成をしてみると意外と楽しいことに気がついた自分がいる。持っている素材で何が作れるのか、何を作ろうかと考える事が面白い。のんびりゲームをするのがここまで楽しいとは正直びっくりだよ。


 鍛治ギルドでの合成を終えて部屋から出るとちょうど同じタイミングで隣の工房からプレイヤーが出てきた。ローブを着ているから精霊士か僧侶かな。左腕にあるリストバンドはブラックスミススライムだろう。お互いに顔を見合わせて挨拶を交わす。


「こんにちは」


「こんにちは。君も合成職人かい?」


「いや、職人じゃない。たまたまフィールドでゲットした素材を使ってスキルを上げている普通のまったりプレイヤーだよ」


「そうなんだ。いやね、新エリアが開放されてほとんどのプレイヤーが2つ目の村に行っていて、今この始まりの街にいるのはほとんどが合成職人なんだよ」


 なるほどと彼の言葉に頷く。新しいエリアが開放されたら行ってみようとなるのが普通だ。


「僕はアンドレイ。一応LV25の精霊士で鍛治職人を目指している者だよ」


「俺はタク。LV18の忍者。ソロでまったりプレイしているんだ。あちこちのギルドでいろんなスキルをあげようと思ってる」


 忍者と聞いてアンドレイの目が少し開いた。何と言ってもレアジョブだからな。それにしても鍛冶職人と言いながら精霊士のレベルが高いな。そう思ってそのまま聞いてみると、


「仲間内でクランを作っていてね。週に数度クラン主催で経験値稼ぎのパーティプレイがあるんだよ。精霊士のレベルはそこで上げて、それ以外の時はここに籠っているんだ。鍛治スキルを上げているおかげでクランメンバーから頼まれる仕事もあるし、素材を分けてもらえることもある。それを合成してまたスキルが上がる。一石二鳥だね」


 情報クラン以外にプレイヤー同士で集まってクランを作っているという話は聞いたことがある。攻略組なんかは間違いなくそうだろう。


「タクはソロプレイってことはクランには属していないってことだよね」


「ああ。PWLではソロでまったりやるつもりだからクランには入っていないし入る予定もないね」


「そういうプレイも楽しそうだね。PWLは攻略以外にも楽しめる要素が沢山あるからね」


「そういうこと。のんびり楽しむよ」


 アンドレイの鍛治スキルは25らしい。そして2つ目の町には工房がないので普段からこの工房に籠っているのだと言った。俺は鍛治を始めたばかりで分からない事ばかりだというと自分で良ければいつでも聞いてくれと言ってくれたのでフレンド登録をした。


「僕はたいてい工房にいるからいつでも声をかけてくれていいから」


「助かる。その時はよろしく」


 俺はソロプレイをすると言っても他のプレイヤーとの交流を拒絶している訳ではない。情報クランもそうだし最初にフレンド登録をしたルリとリサにしてもしかりだ。人との出会い、これもゲームの面白さだよね。


 今までとは全く違うプレイスタイルをしてるけど実は俺、こっちの方が合っているのかもしれない。ストレスフリーなのは最高だよ。


 鍛治ギルドを出てログアウトしようかと思ったけどその前にテイマーギルドに顔を出してみることにした。


「いらっしゃいませ、タクさん」


 猫耳受付嬢が立ち上がって挨拶をしてくれた。


「こんにちは。テイマーギルドから見てフェンリルのタロウはどんな感じ?」


「すっかり懐いているのが分かりますよ。フェンリルって結構気難しい所がある神獣なんですけど、タロウはタクさんのことが大好きみたいですね。そのせいか普通よりも成長が早いですよ」


「えっと2番目の町にはテイマーギルドはあるの?」


 俺の言葉に首を左右に振る受付嬢。彼女が言うにはテイマーギルドがないのでリリースするとこの場所に戻ってくるらしい。


「外で呼べばそれが最初のエリアであればどこでも呼び出せますよ」


「じゃあ、2つ目のエリア、新しいエリアになるとどうなるの?」


「新しい2つ目のエリアにあるテイマーギルドに預けると2つ目のエリアでの呼び出しができる様になります」


「エリアを跨いで呼び出すことは出来ないってこと?」


「それもできますよ。新しいエリアにあるテイマーギルドにリターンさせて、最初のエリアで呼び出すことはできます」


 それは楽だ。


「分かった。あとさ、従魔って何体まで持てるの?」


「従魔にできる数に制限はありませんが、同時に呼び出せるのは4体までです」


 4体と俺。全部で5人、つまりパーティ人数分ってことか。いずれは俺と従魔のパーティで攻略ができたらいいな。


 ありがとう、また来るよとお礼を言ってギルドを出た俺はこの日の活動を終えてログアウトした。

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