テイマーギルド

 顔を受付に戻すと受付嬢がこちらを見て言う。


「マップ作成クエストがもう1種類あるんです。こちらは大通りだけではなく路地のマップも作成する必要があります。前回のマップ作成よりも時間が掛かるのでクエストの有効期限は5日間。報酬は1,000ベニーとなります」


 5日間近く拘束されて市内の路地を歩きまわって1,000ベニー?普通なら誰もやらんだろ?これ。だが、


「受けます」


「ありがとうございます。助かります。冒険者の方はこのクエストは誰も受けてくれなくて」


 そりゃそうだろうな。


 さっきと同じ様に脳内に音が聞こえてきてクエストを受領したことを伝えてくる。 

 今までの自分だったら他のプレイヤーと同じく2つ目の地図クエストは受けていないだろう。公園の清掃も同じだ、おそらくやらない。公園の清掃や市内のマップ作成よりも報酬の良い薬草集めをして武器と防具を勝って、その後は外で魔獣を倒して金を稼ぎながら次の街を目指していただろうな。


 人より早く攻略して先駆者利益で新しいアイテムや武器を手に入れる。ゲームの楽しみとは人より先に行く事だ。


 そう思っていた時期が自分にもありました。


 ただその結果、先行組は効率厨の集まりとなりボス戦でミスをすれば周囲から叩かれ、ドロップ品については参加者で取り合いになる。効率が全てと言った考え方が浸透し、戦士で○○の剣を持っていない奴は来るな。精霊士でINTが〇以下の奴は地雷。などステータスと装備品で人を判断する流れとなりギスギスする。その結果周りを見ると同じ装備に同じ武器と言った個性のないプレイヤーばかりになる。


 楽しむ為のゲームがだんだんと苦痛、作業になってきた。何のためにゲームをやっているのか分からなくなり、それが嫌で前のゲームを止めたという経緯がある。


 今回はゲームを楽しもうと決めたんだ。慌てて外に出る必要もないだろう。 

 なので金額の多寡にかかわらず受けると決めたのだ。ゲームの中で色々なことをやってみたい。



 今度のマップは路地までということで範囲が広い。あちこちを歩きながら目に入ってきたギルドに片っ端から登録しておいた。木工、錬金、鍛冶、調理、農業、皮革。これで持ち込んだ素材や製品を買い取ってもらえる。


 あちこちの路地を歩いていると路地の奥にテイマーギルドという看板を見つける。場所は中心部から離れたところにある人気の少ない場所の路地の奥だった。ギルドというか儲からない雑貨店と言った感じだ。それよりもなによりもだ、テイマーギルドってチュートリアルの時には出てなかったギルド名だぞ。


 扉を開けて中に入るとちょっとしたホールの奥に受付カウンターがあった。入ってみると外見よりもずっと広い。


「いらっしゃいませ!」


 近づくと1人で座っていた猫耳の受付嬢がものすごい勢いで立ち上がって言った。


「ここはテイマーギルド。で合ってる?」


「そうです、そうです!」


 こっちが引いてしまいそうなほど前のめりだな。


「テイマーギルドについて教えて貰えるかな」


 分かりましたと言った受付嬢が説明をしてくれる。テイマーとはこの世界にいる魔獣や妖精をティムして自分の仲間、従魔として一緒に活動することが出来る様になる職業らしい。


「ここのギルドに登録すると、テイムが出来る指輪を差し上げます。それを身に付けていないとテイムはできません」


 なるほど。


 フィールドにいる全てのモンスがテイムできる訳ではないということ。テイムは100%成功する訳ではないこと、もしテイムしている従魔を手放したくなったらテイマーギルドに来て手続きをすれば良いことなどを教えて貰う。


「ところでさ、他のギルドは大通りや路地の入り口付近と言った目立つ場所にあるのにどうしてテイマーギルドだけこんな街はずれの路地の奥にあるんだい?」


 説明を聞き終えた俺がそう言うと受付のNPCの女性が猫耳を垂らせ、うつむき加減で答えてくれる。


「実は私達のギルドが作られたのはつい最近で、良い場所は既に売り切れていてここしか空いていなかったのです」


 そうなのかと納得すると同時にこのPWLの意地の悪さ、いや、面白さに気が付いた。


 全てのデータをマスクにしたり非公開にしているがそれはジョブは個人データ以外にこういった街や魔獣の情報も含まれるのだろう。ひたすらに真っすぐに進んでも攻略できない事はないだろうが、それ以外にもいくつも方法はあるよ、この世界を十分に楽しんでねという運営の意図が見え隠れしている。面白いなと思っていると受付嬢の声がした


「それで、テイマーギルドに登録されますか?」


「ああ、もちろん。お願いします」


「やったー!!」


 大喜びしている受付嬢。先ほどと違って猫耳もピンと上を向いている。感情の表現もめちゃくちゃリアルだ。


 受付嬢が用意したリーダーの上に冒険者カード、端末をかざした。ピンポーンと音がして登録が済んだことが分かる。


直後にミントの声がした。


(タクがテイマーギルドに登録をした最初のプレイヤーとなりました)


 えっ?マジ?今まで誰も気が付いてないの?ゲームが始まってから2ヶ月以上過ぎているんだよ?


(それは分かりません。分かっているのはタクが最初の登録者ということだけです)


 そうなのか。


「ではこれを」


 受付嬢が指輪を渡してくれる。


「ありがとう」


 貰った指輪を左手にはめて登録完了だ。

 と同時に猫耳の受付嬢が俺を見て言った。


「タクさんが初めてテイマーギルドに登録したお礼にテイマーギルドから1体の従魔が無償で提供されます」


「は?」


 初めて登録したお礼? カウンターを見るとNPCの受付嬢がカウンターに紙を広げている。


「ティマーギルドの初登録者としてこの中から好きな仲間を1体差し上げます」


 紙を見ると特典(?)なのか10体の従魔とその特性が書いてあった。それらの名前を見るとなんだこれ?と思わず声が出てしまった。



 アルケミースライム    錬金作業にプラス効果 

 ブラックスミススライム  鍛冶作業にプラス効果 

 ウッドスライム 木工作業にプラス効果 

 レザースライム 皮革作業にプラス効果 

 クッキングスライム    調理作業にプラス効果 

 ソーイングスライム 裁縫作業にプラス効果 

 クラフトスライム 細工作業にプラス効果 

 エングラビングスライム 彫金作業にプラス効果 

 メタルスライム ドロップ品にプラス効果(幸運)  

 ゴールドスライム 魔獣討伐時の獲得経験値にボーナス 


 

 名前を見る限りこれら10体のスライムはユニーク個体。つまりNM(ノートリアスモンスター)扱いで先ず簡単に目にすることが出来ないに違いない。ダンジョンの奥や人がいない山の奥に生息しているのかもしれない。


 そのユニーク個体10体の内、上の8つはそれぞれの作業から出来る製品の品質が良くなったり、出来た製品の効果や能力がアップするのだろう。そういうのが好きなプレイヤーには良いのだろうな。



 下の2つはフィールドで使える従魔の様だ。



「このプラス効果やボーナスってのは具体的に数値を教えて貰う事はできます?」

 

 こちらの質問には首を左右に振る受付嬢。自分で確かめてくれということらしい。


 分かったと再びリストに目を落とした。狙うとしたらメタルスライムかゴールドスライムかな。どちらもソロで動く自分には必須に思える。町中の工房で作業するのは嫌いじゃないが、それ以上に外に出る方多いだろうなと思ってリストを見る。上の8体よりも下の2体の方に興味がある。


 どれにしようかと10体の名前が載っているリストを見ていたが、顔を上げてダメ元で聞いてみる。


「えっと、テイマーギルドの初登録のお礼の従魔はこの10体だけですか?」


「いえ、このリスト以外に他にまだ2体おります」


 おっ、聞いてみて良かった。受付嬢が別の紙を持ってカウンターに置いた。というかこっちから質問しなかったら出さなかったのかよ。


「これらの2体です。スライム系は直ぐに効果がでますが、この2体は育て上げる必要があります」


 そのリストを見ておったまげた。



 ガルーダ(霊鳥) 子供 幼少時は弱いが成長すれば大きな戦力となる 

 フェンリル(霊狼) 子共 幼少時は弱いが成長すれば大きな戦力となる



 とんでもない従魔、いやこれ神獣じゃないか。


 急にすごいのが出てきた。


 むむむ。これは欲しい。どちらも欲しい。

 選ぶのなスライムではなくこの2体から1体だろう。俺が知っているガルーダやフェンリルなら大きくなったらかなりの戦力になる。ソロでやろうとしている自分には必須だ。


「えっと、このガルーダとフェンリルですけど、子供ってなってますよね。成長するまでどれくらいの時間が掛かるんです?」


「この2体に関してはマスターであるプレイヤーとの好感度や戦闘経験で成長する時間が変わってきます」


 また微妙な回答だな。


(ミント、この2体について情報持ってる?)


(申し訳ありません。この2体についての情報は持ち合わせておりません)


 ですよね。ひょっとしてと思ったけど甘くはないか。

 俺は受付嬢に顔を向けると聞いた。


「じゃあもう一つ質問。このガルーダとフェンリルだけどフィールドでテイムできるの?」


「出来るか出来ないかと聞かれれば出来ますと答えますが、じゃあ出来る確率はと聞かれればかなり低いとしか言えませんね」


 なるほど。この2体をティムするのは難易度が相当高いということか。

 じっと紙を睨みつけていた俺は決めた。


「決めました。こちらでお願いします」


 紙の上にある名前の1つの上に指を置いた。


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