流星群を君と
海乃マリー
第1話 皆既月食
亜美は、真っ暗な夜空にぼぉっと浮かぶ薄黄色の満月を見上げた。今日は皆既月食が観測できるということで、息子と一緒にはりきってベランダに出ていた。気温は暑くもなく寒くもなく、一年で一番過ごしやすい時期で、外気が心地が良かった。
そろそろ月食が始まる時間に差し掛かった。確かにまあるい月の輪郭の下方から欠け始めているように見える。
「ママー、見て! すごい写真撮れたよ」
十歳の息子がiPadで撮った満月の写真を得意気な笑顔で見せてくれた。
「おっ! 上手に撮れたねー」
七歳の娘はリビングで絵本を読んでいる。今日が皆既月食という話をしたら、お気に入りの絵本である『月と太陽の一日』を引っ張り出して熱心に読んでいた。
月と太陽はお互いを思い合っている、昼と夜で見える時間は違うけれど、目に見えないだけでそこには存在している、という話だったと思う。日食や月食のことも書いてあった。
息子はあまり本を好まなかったけれど、娘は暇さえあれば読書するような子どもに育っている。兄妹でも全然違うな、と思う。それに二人は顔も全然似ていなかった。兄はどちらかと言えば私に似ていて、妹は主人に似ていると周りからとよく言われていた。
その日の就寝時のこと。子ども達はとっくに寝静まっており、主人も明日も早いからと先に寝室で休んでいた。
「はぁー。やっとみんな寝てくれたぁー」
亜美はホッと一息ついた。缶チューハイを開けて一人宴会を始めるとしよう。リビングの鳩時計を見るとちょうど二十三時をまわったところだ。
家族が寝静まったこの時間は、亜美にとって心の平静を保つために欠かせない安らぎの時間だった。
日中はフルタイムで働いているし、土日は家族の誰かしらが家に居るという状況で、なかなか一人の時間を確保できないのだ。
ソファーに寝転びながら、息子と撮った月の写真を見返してみる。今のスマホカメラは高性能だ。我ながらなかなか上手く撮れていると感心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます