第20話 心の花

苗木を見るニコラは信じられなかった。

まさか『セグシアー』を撒いただけで苗木が回復するとは思わなかった。

今年の作物は不作で終わるかもしれない。

祭りはおろか領民達の食べ物もギリギリの状態に陥る可能性が高い。

最悪飢えるものが出て来るかもしれない。

そうなれば資金繰りに翻弄するしかないはず。


ニコラは最悪の状態を予想していた。

だけど目の前に広がる光景は奇跡そのものだ。

これだと不作から脱出出来る。


(セシリアは奇跡を呼び起こす力を持っているかもしれない…)


彼女は自分を卑下した発言をするが、そんなのは間違いだ。

彼女は屋敷でも懸命に働き、こうして領民達の為に必死で動いた。


(こんな女初めてだ…)


ニコラはセシリアの方に視線を向けると、それに気づいたセシリアはにこっと笑った。


****


ニコラ様から視線を向けられた私は彼に心を込めてお礼を言った。


「ニコラ様。ありがとうございます。作物がここまで回復できたのはニコラ様とセドリックのご両親のお陰です」


「何を言ってるんだ。全てお前の知恵と行動が成した結果だ。俺はお前の言葉に従っただけに過ぎない。礼を言われることはないはずだ」


「それでも貴方は怪我した私を助けて下さり、ここまで手伝って下さいました。貴方がいなかったら私はここまで出来なかったと思います……」


「………」


ニコラ様は私から視線を逸らした。

彼の顔が僅かに赤くなったことに私はわざと気づかないようにした。

きっと照れた姿を私に見せたくないのかもしれない。


セドリックが私のスカートの裾をくいくいと引っ張り、話しかけて来た。


「お姉ちゃん、ありがとう!これで今年の祭りも開催できるよ。僕お祭り楽しみにしていたから凄く嬉しい!!」


「奥様は素晴らしいお方です。あれだけ絶望的だった畑をここまで元通りにして頂けたなんて。今でも夢を見ているようで…。先程は試すような言葉を言ってしまい、申し訳ありません……」


「私こそ信じてくださってありがとうございます。作物が育つまで私にもお手伝いさせて下さい!」


私の申し出にセドリックの父親は遠慮気味に言う。


「しかし、ここまで奥様にして頂いただけでも有難いのに、これ以上ご迷惑お掛けするわけには…それにお怪我をされていますし…」


「ご心配なく。私の作物の肥料のやり方や特別な育て方になります」

「特別な…。それでしたら宜しくお願いします」


セドリックの父親はふっと笑って答えた。

「僕も手伝うよ!」と意気込んで張り切るセドリックを見て私は嬉しさを感じた。


「こちらこそ、ありがとうございます」

私は彼らに笑顔でそう返した。

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