第240話 生米と対面すること
この世界でも、俵みたいなのを作って米を詰め込んでいるのだ。
考えてみれば当然か。
稲は山程ある。
これを使ってスケアクロウが作られ、同時に俵も作られる。
大量の俵が積み上がる、ここは米倉。
僕らの宿でもある。
幾つもこういうのがあって、地上で寝泊まりする者はここに宿泊することになるわけだ。
「いやあ……なんともいい雰囲気だなあ」
窓もない倉だが、あちこちに隙間が空いており、そこから月明かりが入ってくるのだ。
二つの月があるから、タイミングが合うと大変明るい。
「ここでもやっぱり私達は同じ宿なのかい」
「空いてる倉自体がそこまで無いみたいだからねえ。外ではスケアクロウが突っ立ったまま寝てる」
「異種族は分からんねえ」
「リップルだってハーフエルフだろう」
「それを言うならナザルだって、私が見るところ普通の人間じゃないだろう?」
そりゃそうだ。
ギフト持ちの時点で普通の人間ではないのだし。
不毛な話をするのはやめて、今日は寝ることにした。
米は収穫したばかりだと言うので、まだ食べるには至らない。
積み上がる稲を眺めながら、パンとスープと焼き魚を食べた。
楽しみすぎる……!!
ワクワクする僕の横で、すでにコゲタはぷうぷうと寝息を立てていた。
よく寝る子はよく育つのだ!
リップルもぐうぐう眠り始めたので、僕も寝ることとする。
うーん、藁で編まれた敷物がいい香り。
暖かいから掛け布団も必要ない。
風が吹き、田んぼを通り過ぎていった。
稲が揺れる音が聞こえてくる。
カズテスの島、ここはいいところだなあ。
僕が夢見てきたものが存在する場所だ。
明日は米を食いたいな。
どうやって食べようか。
米さえあれば、あらゆるものがおかずになる。
まずは白米を……いや、せっかくだから玄米で食べてみるのもいい……。
そんな事を考えるうちに、僕は夢の中に落ちていくのだった。
白米の飯を食う夢を見た。
味は、ちょっとよく分からなかった。
食べなくなって長いもんな。
それに、この体は米の味を知らない。
なんとなく寂しい感じがした。
思い出すためにも、米を食べないとなあ……。
つらつら考えていたら顔をペタペタされる感触で目が覚める。
コゲタが僕の顔を肉球でペタペタしていた。
「おはよう」
「ご主人おはよー! ご主人、なんかむにゃむにゃいってた!」
「そっかー。それで心配してペタペタ触ってたんだな。大丈夫だよ。ちょっと切ない夢を見ただけだ。だが、その夢も今解消される。米がすぐそこにあるんだからな」
振り返ると、米俵があった。
中にはぎっしりと米が詰まっている。
……おや?
俵ということは、すでにある程度米が精米されているということではないか。
朝飯がてら、スケアクロウのモリブ氏に聞いてみた。
「すでに玄米では無くなっているのでは?」
「はい、仰るとおりです。まあ、我々は食事をする必要がないので、米をどうすればいいのかよく分かっていないのですが。とりあえずコボルドたちが食べられる程度に精米し、ああして俵に詰めています」
「なるほど……。まだ食べるわけにはいかない?」
「あと一日待ってください。収穫が終わりますから。その後、俵の数を集計して今季の収穫を終わりとします。米の配分はその後考えることとなります。この島には我々の他、たくさんのコボルドが住んでいますから」
「へえ! たくさんのコボルドが!!」
ここからぐるりと島を巡ると熱帯雨林があり、そこに南国風のコボルドたちが。
中央にある円錐山を登っていくと気温が一気に下がり、そこには長毛種のコボルドが。
マキシフと同じ種族だね。
彼らはみんな、米を食べているんだそうだ。
で、米はスケアクロウたちが生産していると。
一秒でも早く米を見たい!
食べたい!
ということで、その日は僕も精米の手伝いをすることにした。
スケアクロウたちがせっせと俵を編んでいる。
慣れた手つきだなー。
で、僕は筒に入れた米を棒で突いて精米である。
うーん、素朴な作業。
「もみすりなども終わっていますから、仕上げといったところですね。我々は米を育て、収穫することが生活の全てなので、これもスケアクロウ全員で行っていきます」
「なるほどー。本当に気が遠くなるような作業だもんなあ」
機械も何も無いこの島では、コツコツ手作業でやっていくしかあるまい。
それにこの島には金属もない。
稲を刈り取るのは全て石を磨いて作った石器だ。
何もかも、素朴な仕事で出来上がった島だ。
僕もスケアクロウたちの仲間になったつもりで、ひたすら米を突いた。
おお、だんだん白米っぽくなってきた……!
「大変お上手です。その状態でももう食べられるでしょう」
「玄米を半分くらい磨いた感じかな……。食べてみたいが、よろしい?」
「少しでしたら」
「うおおおおお!! やったーっ!!」
許可が出た!
僕が突いたちょっとの分だけだが、サラッとおかゆみたいにして食べてみようではないか。
テンションが上がってまいりました。
ついについに、僕の念願が果たされる時が来たのだ!!
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