第239話 大魔道士カズテスの島
古文書を思い出す。
あの絵本のような古文書は、大魔道士カズテスがこの島について描かせたものだった。
島人たちが、船が近づいてくるのに気付いて集まってくる。
なんというか、遠見にはカカシみたいに見える人種だ。
名前もそのまんま、スケアクロウと言うらしい。
「彼らはもしかすると、大魔道士カズテスが作ったゴーレムの子孫なのかも知れないね」
リップルが大変ファンタスティックなことを言った。
そうか、その可能性があるのか!
船主は二度目の訪れということで、スケアクロウたちに手を振っている。
スケアクロウも手を振り返してきた。
布袋みたいに見える顔がにっこにこだ。
「こんにちわー!!」
コゲタも手を振った。
「こんにちはー」
スケアクロウも挨拶を返してくれるんだな。
ここにダイフク氏が出てきて、解説をしてくれた。
「彼らは多分、始まりが人工的な種族なのですが、今は自ら増えますしこうやって米をたくさん作っているのですな」
「なるほどー……。島の原住民が垂れ耳コボルド以外がこれほど個性的だとは……」
桟橋に船が到着し、板が渡された。
船からは、アーランから来た荷物が運び出される。
スケアクロウがワーッと歓迎した。
布袋に顔が書いてあるようにしか見えないが、その顔が表情豊かに変わるんだな。
「やあ初めまして。アーランからやってきたナザルです」
「どうもどうも! カズテス島のモリブです」
近くにいたスケアクロウの人と握手した。
手の感触は、まんま手袋みたいだな。
で、中にぎっしりわらが詰まっている。
骨格は棒だ。
本来なら動くはずがないカカシが、命を持って歩き回っている。
生物なのか?
魔法生物という方が正しいのだろうが……。
モリブ氏の足元に、小さいスケアクロウがチョコチョコやってきた。
「お子さんですか?」
「そうなんです。今年一年が過ぎたら、大きな体に作り変えられます」
「作り変える?」
「はい。我々スケアクロウは、個体が数年に一度、命の素を産み落とします。これをわらと合わせて新たなスケアクロウにするのです。我々は五十年ほどで朽ちてしまいますが、こうやって命を繋いでいきます」
「なーるほど! じゃあ、お米を育てているのは新たなスケアクロウを生み育てているのと同じなんだ!」
「そういうことです。我々は水と陽の光があれば食事はいりませんから、米はコボルドの方々にあげていますが」
「おおー! 実は僕は、そのお米が目当てでこの島に来まして」
「おおー!! あなた、食事をする人で、しかもお米を食べたことがある人なんですね。島に来た人間にごちそうしたのですが、あまり気に入ってもらえなくて」
そうか、彼らがお米を薄い味のおかゆにして船主たちに食べさせたんだな。
そして本当の美味しさを分かってもらえなかったと!
あるある……。
「あ、船主! ダイフク氏! 僕はこちらのモリブ氏についていって田んぼ見学をするので……よろしい?」
「ああ構わないよ! 一ヶ月は島に滞在するから、のんびりしていくといい」
ありがたい。
ここから自由行動だ。
僕が動き出すと、コゲタもトテトテついてくる。
リップルものんびりあとをついてきた。
「なんというかのんびりした雰囲気の島だねえ。過ごしやすい気候だ。ポカポカしているし」
「はい。カズテスの島は年中こんな感じの気温ですよ。温暖なんです」
モリブ氏が説明してくれた。
港を抜けると、そこから先には大きな道が広がっている。
そこを、たくさんのスケアクロウが行き交っていた。
彼らは時折立ち止まってはぺちゃくちゃお喋りをしている。
あるいは、道端に寝転がって日向ぼっこ。
「あの日向ぼっこは我々の食事なんです。もちろん、たっぷりの水も必要で、それは海の水では代用できないのですが」
道を横切り、待望の田んぼに突入だ!
金色に実る田んぼはまさに刈り入れ時。
たくさんのスケアクロウが、鎌を持って稲を刈っていた。
その稲が、彼らスケアクロウの子供たちの体になる。
これは稲刈りでもあり、彼らの子作りでもあるのだなあ。
あれっ!?
向こうの田んぼは普通に水田だ!
こっちは稲穂が実り、こちらはまだ青々とした稲が……。
ここで僕は、モリブ氏の説明を思い出した。
「一年中温暖だから、時間差で田んぼをやっていけるのか! なるほどなあ……。で、何故か水田の中を練り歩いているスケアクロウがたくさん……」
「我々は太陽の光と水が食べ物ですから、あれは食事の風景なんです」
「なーるほどー!! つまり稲作って、スケアクロウの食事であり子作りであり、生活そのものなんだ!!」
「はい、その通りです」
モリブ氏がニッコリした。
「コゲタもぱしゃぱしゃする!」
あっ!
コゲタが水田に向かっていってしまった!
ばしゃばしゃするコゲタの周りに、物珍しそうにスケアクロウが集まってくる。
ちっちゃいスケアクロウもやってきて、コゲタのマネをして水の中でばしゃばしゃ動き始めた。
楽しい光景だなあ……。
「ところでナザル」
「なんだいリップル」
「彼らもしかして……家を作る習慣がなかったりしないかい?」
「あっ、そう言えば……!!」
水と太陽があれば暮らせる、植物製ゴーレムであるスケアクロウ。
気候が安定しているこの島なら、家なんか必要ない可能性が高いのだ!
僕らの話を聞いていたモリブ氏が、袋みたいになってる顔でにっこり微笑んだ。
「大丈夫です。やってきたお客人用に、お米を収めている蔵の一部を貸し出していますから」
良かった、どうやら屋根のあるところで寝られそうだ!
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