第213話 アーラン最強パーティ、止まらず
集った最強のメンバーを止められる者などいない。
出現したクァールを、僕が滑らせ、シズマが沈め、アーシェとツインで仕留める。
「クァールなんて言ったら、トップクラスのヤバいモンスターだぞ。それをまるで子供扱いだ」
アーガイルさんが呆れている。
「地上に足をついていた以上、僕の前では無力なので」
「ナザル、お前さらに恐ろしい使い手になったな……」
油の威力が上がっても、別に美食の種類が増えるわけではない。
さして重要ではないのだ!
仕掛けられた致命的な毒ガスの罠は、瞬時にこれを見抜いたアーガイルさんによって無力化された。
この人の目と耳はどうなってるんだ?という精度で、壁を何箇所か叩いて薄くなっているところを発見し、七つ道具で壁を最小限だけ削ってその奥に針金を差し込み、罠を手探りだけで、ほんの一呼吸ほどの時間で解除した。
「彼の技術も恐るべきものだな。アーガイルに潜入できない場所はないだろう」
ツインが褒めるのも無理はないな。
巧妙に隠されている罠を、ほんのわずかな風化の違いや、魔法や機械の罠が発動したときに生まれる周囲との変化で発見。
通路の形や転がっている死骸から罠の形式を推測して特定。
最短最適なやり方で解除する。
なるほど、ゴールド級のシーフだ……。
僕らは文字通り、アーラン最強のパーティなので、第五階層だろうが平気で進撃する。
本来ならそれぞれ事情があり、遺跡を攻略しないチームなのだ。
それが今!
カレーを作るためのスパイスを手に入れるため、結集した!
「なんだこのモンスターは!? あらゆる角から瞬間移動しつつ同時に襲いかかってくる!」
「出てきたところを何匹か沈めたが、ちょっと厄介だな」
「出てくる場所多すぎー!!」
ツインとシズマとアーシェが、新たなモンスターの相手をしている。
外見はこう、名状しがたい感じの不定形体に乱ぐい歯と触手が映えたやつ。
それが犬みたいな叫び声をあげて襲いかかってくるのだ。
「角から……? 鋭角から襲ってくるということは……」
僕は油を周囲に巡らせた。
鋭角が全て油で覆われる。
ぬるりとした曲面になった。
『アオン……』
悲しげな声が油の下から聞こえた。
出てこれないみたいだ。
しばらくしたら諦めたようで、襲撃が終わった。
「第五階層、恐ろしい場所だな。俺一人では攻略できなかっただろう。無論、お前らだけでも罠にやられていた。そこの女が逆戻しの力を持っていても、そいつがやられたらおしまいだからな」
「ええ、そうですねえ~。今回は複合力の勝利です~。あっ、ナザルさんが~脇目も振らず行き止まりの壁に向かっていきます~」
僕は知識神から聞いていた、約束の場所にたどり着いていた。
この壁だ。
壁に見えるが、ここを三三七拍子でノックした後、漢字の大の字になる感じでジャンプすると……。
「何してるんだあいつ!?」
「うちの親友は時折奇妙なことをするが、大体理由があるんだ。温かい目で見てやってくれ」
ピンコーン!
アラーム音が鳴った。
行き止まりだったはずの壁が、唐突に消滅する。
「よし、隠し扉が開いた。三回、三回、七回ノックして、1,5秒以内に大ジャンプ。知識神の言葉通りだ」
仲間たちはみんな、なるほど、分からん!という顔をしていたのだった。
隠し扉の奥は真っ暗闇だった。
だが、僕が一歩足を踏み入れると、パッと明かりが点く。
「罠は無いだろう。この意味不明な解除方法、まともな手段じゃ絶対に分からん。お前が知識神からお告げを受けたというのは本当にようだな……。そして、これを潜ってきた者に罠を仕掛ける理由がない」
アーガイルさんはそう言いながらも、周囲に気を配りながらついてくる。
グローリーホビーズも続いた。
隠し部屋の一番奥。
そこには透明で巨大なキューブが存在しており、その中に小瓶が一つ置かれていた。
あれがマサラガラム……!!
小瓶の中に満たされているのは、種だろう。
古代魔法王国の時代から存在している、幻のスパイス……。
そうであれば、この遺跡での栽培にも相性がいいはずだ。
僕はキューブに触れた。
『問おう。マサラガラムは至高のスパイスである。汝はこれをどう使おうと言うのか』
「カレーにして最高に美味しくいただく」
『理想的な回答だ。汝にマサラガラムを託す……。食べきってはいかんぞ。栽培して増やせよ……。我は魔導士ハキームの残留思念。永きにわたる我が役割もこれで終わる……』
「超一瞬で終わったじゃん。なんか裏に物語とかありそうだったのに、あっけなく!」
アーシェがポカーンとしているな。
このシステムの開発者と僕は、同じ精神を持っていたということであろう!
残留思念とやらも満足して消えたので、これで大団円だ。
あとは僕がマサラガラムを栽培するだけ。
キューブは空中に溶けるように消え、あとにはマサラガラムの収まった小瓶と、それを載せた台座が残された。
小瓶を手に取ると、その中で種がサラサラ音を立てて揺れた。
そして台座がカパッと開くと、小袋に詰められた加工済みマサラガラムが出てくる。
「あっ!! 準備がいいなあ!!」
小瓶は栽培用、こっちが食べる用なのだろう。
魔導士ハキーム。
顔も知らないあなただが、カレーを美味しく食べるという遺志は僕が受け継ごう……!
「やべえ、カレーまじで楽しみ」
シズマの呟きに、僕は全面的に同意である。
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