第212話 ドリームチーム結成! 殿下本気だな

 トントン拍子に話が進んだ。

 殿下はカレーが食べたい。

 そのためならあらゆる手段で僕をサポートするということなのだ!


 ということで、最強のメンバーが集められた。

 僕に、グローリーホビーズ全員と、アーガイルさん。

 この六人である。


 リップルを除けば、アーラン最強戦力では?


 油使いナザルこと僕。

 地上の相手全てにメタを張って完封できる。


 沈没使いのシズマ。

 地上にあるものなら街一つの規模までを地中に沈めることができる。


 光使いのアーシェ。

 光を矢や弾丸の形にして撃ち出すことができる。


 神の力のツイン。

 至高神バルガイヤーの加護を得て、全身を神の武器とすることができる。


 逆戻し使いのルリア。

 慈愛神の加護を得て、自分を含む対象の時間を任意で一ヶ月まで逆行させることができる。


 イサルデの申し子アーガイル。

 一切特殊な力は無いが、盗賊としての全ての能力が人間の限界を超えている。


 この六人です!

 おや? 一人だけ初めて名前が出てきた人が……。


「ナザルさん、よろしくお願いしますねえ。ルリアですぅ。遥か南の大陸の英雄の名前なんですぅ」


「あっ、どうもどうも」


 のんびりした感じの、黒い長髪の美女だ。

 色々出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいる。


「こいつ、ツインとくっつきそうでくっつかなくて、俺とアーシェがいつもやきもきしてるんだ」


「シズマ、分かりやすい解説をありがとう」


「……ところでなんで、この輝かしいメンツの中に俺が?」


 アーガイルさんが解せぬ……という顔をしている。


「アーラン最強の盗賊なので」


「それはそうなんだが……。輝かしいメンバーの中に盗賊ギルド幹部の俺が交じるのは場違いでは?」


「活躍すればリップルが褒めてくれるかも知れない……」


「むっ、むむうっ」


 揺れてる揺れてる。


「さて、デュオス殿下からのご指名だ。僕らは君への全面的協力を約束しよう。さあ、率いてくれナザル殿」


 第二王子デュオスの嫡子にして、王宮の地位争いを避けるため出家させられた男、ツイン。

 紛うことなきロイヤルで、こうして立ってるだけでも明らかに気品がある。

 爽やかだなあ。


「よし、じゃあ行きましょうか! えー、皆さん、今回の目的は、前人未到の第五階層に出向き、封印されたハーブ、マサラガラムを手に入れることです。姿はこんな感じ。色はくすんだ緑」


 僕は知識神から明確なイメージを伝えられているので、これを説明する。

 なるほどなるほど、と一同頷く。


 ここでアーガイルさんが、


「一体どれくらいの期間潜るつもりだ? 一層ごとに広大さが増していくと言われている。既に第四層は、アーランを一つ半飲み込めるほどの大きさだと推定されているだろう」


「アーランの倍くらいありそうですよね。ですが安心してくださいアーガイルさん。僕は知識神のお告げで普通に在処を知っているので」


「知識神の? お告げぇ?」


 なんて胡散臭がる顔をするのだ!

 いや、僕はちょっと前までそういうキャラじゃなかったから分かるけどさ。


 ちなみにこれを聞いて、シズマも首を傾げ、アーシェはきょとんとしていた。

 だが!

 ツインは目を輝かせ、「ナザル殿! ついにあなたにも神の声が聞こえましたか!! 友よ!!」とか握手を求めてくるし、ルリアは「あら~、だったら私達、おんなじ仲間なんですねえ~」とか納得している。


 二人とも神の声が聞こえて特別な力をもらったの?

 僕、スパイスのある場所しか教えてもらってないんだけど!?


 あ、でも知識神、知識があるだけで別にそれ以外の特別な力があるわけじゃなさそうだもんな……。

 知識だけであの高みに上り詰めたとも言えよう。


 ともかく!

 知識神の威光を示し、彼への信仰を行う人を増やす目的もある。

 この迷宮攻略は成功させておきたいな。


 六人で第一層をくぐり、エレベーターに乗った。

 もう、第五層まで一気に降りられるようになっている。


 ちなみにこの第五層、前の層を攻略したパーティが色気を出してちょっと潜ってみたら、最初に出会ったモンスターに全滅寸前まで追い込まれたらしい。

 ヤバい、本当にヤバいという話でギルドはもちきりだ。


 そんなこと知るか!!

 マサラガラム手に入れるんだよ!


 ってことで第五層にエレベーター到着です!

 外に出た僕らは、次の瞬間に無数に襲いかかってくる羽虫の群れに遭遇した!


 大きさは親指の爪くらいので、羽が金属質に輝いている。

 それが猛烈な勢いで、耳障りな音を立てて突っ込んで……。


「はい、逆戻し」


 ルリアが組み合わせた両手を左右逆方向に回したら、羽虫の群れがぐーっと後ろまで引っ込んでいった。

 そこに、アーシェが光の矢を無数に作って、片っ端から打ち込んでいく。

 炸裂炸裂炸裂。


 おっ、羽虫全滅だな。


「身も蓋もねえな……」


 アーガイルさんが呆れている。

 だが、彼は既に羽虫の一匹を指先で捉えていて、これを観察しているのだ。

 いつの間に。


「羽が刃物になってるな。これで触れたやつを切り裂いて血を啜るんだろ。だが、お陰で方向が読みやすい」


 生き残った羽虫が猛烈な勢いで飛んでくるところに、アーガイルさんがダガーを差し出した。

 空間に置いたようなもんだ。


 自らダガーに突っ込んだ羽虫が、自分の勢いで真っ二つになった。

 浮揚力を失い、堕ちていく羽虫。


「大した相手じゃない。数が多くても、そこのすごい連中がなんとかしてくれるしな。行くぞ」


 アーラン最強のシーフが率先してエレベーター外に出ていった。

 頼もしいなあ!


「僕の出番じゃなかったか」


「出番が来ないのが一番だぜ」


 グローリーホビーズの男たち二人が、なんか軽いノリでお喋りしているのだった。



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