第12話 邂逅


「作戦内容を伝達。セルゲイ総裁の命により、これよりハンダー地区を奪還します。先鋒はヴァロナ小隊に任せ、我々ベリーヴォルクは隠密しつつ敵軍を撹乱します。作戦に関する異論は認めません。各員の奮闘に期待します」


マグノリアが私の方を睨みつけた。訓練で彼女の実力はよく分かっている。悔しいが、やり合っても勝てない。だが、私達が裏切ることは知られていない。ならばいずれ一泡吹かせられる。


今はただ、『彼』が魔術師の味方として現れ、私達と接触できることを祈るだけだ。…もし彼と再会したら…全て、私の想いを包み隠さず伝えよう。彼にどれだけ否定されようと、彼の味方であり続けよう。


「各員、降下開始」


大型輸送ヘリの扉が開き、人形達がタクティカルアーマーを起動して降下し始めた。


「M9-000」


マグノリアが私を呼び止める。


「…何?」

「P0-000はあなたにとって何なのですか?そこまであの大量虐殺者を擁護する理由が分からないのです」

「ふん、最新世代のくせにそんなことも理解できないの?愛以外にないでしょ」


これ以上は時間の無駄だ。もし彼に会えるかもしれないのなら、こんな奴に割いている時間はない。


「タクティカルアーマー、起動」


私はヘリから飛び降りた。


「…愛…それは人形に必要なのでしょうか」


————————————————————


地面が揺れる。いくつもの雷が落ちてきたような重低音が響く。


「俺の読みが当たったな」


ウォルターが得意げに鼻で笑った。


「よし、逃げるか」


強化人間なら檻くらいなら素手で破壊できる。あとは地上に出て、あの少女…ソフィアと合流するだけだ。


「待て、どこに行くつもりだ」

「おっと…お出ましってか」


俺とウォルターの前を、見張りの兵が塞いだ。


「忌々しいケルニオン人め…」

「あのいけ好かない金髪野郎じゃねぇのか、アイツに借りを返したかったんだがな」

「…やはり早々に処刑しておくべきだった」


この口ぶり、ウォルターもこいつらに…


「おいおい、やる気満々だな。久しぶりの共闘と行こうじゃねぇか、ジン」

「ご老体が無理するなよ?」

「ハッ、言ってくれるじゃねぇか」


この至近距離なら強化人間である俺達に分がある。懐に飛び込んでタックルをかまし、壁に押し付けた。


「うっ…!ファイヤ———」

「させねぇよ、クソ魔術師」


ウォルターは杖を構えて詠唱しようとするその見張りの口に蹴りをかまし、気絶させた。


「ちとやり過ぎたか?」

「まだ本命が残ってるんだろ?」

「そうだな、まだ殴り足りねぇ。アリーナの分まできっちりあの金髪野郎にお見舞いしてやらねぇと」


————————————————————


「何が起きてるの…!?」


突如現れた魔動人形達により、ハンダー地区は蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。建物は爆破され、逃げ惑う魔術師は蹂躙されていく。ソフィアは呆然と立ち尽くしていた。


「戦うしか……」


杖を取り出して、魔動人形に向かっていく。


「数が多い……レーヴァテイン!」


ソフィアの杖が炎の剣に変化し、彼女の中で燃え盛っていた。一振りする度に業火が人形を襲った。


「どれだけ———くっ…こいつだけ動きが違う…!」

「退いて。私はあまり殺したくないの」

「それはできない相談かな…!」


右手の恐ろしい銃器もだが、左手の兵装は更に恐ろしい。あれが立ち塞がる魔術師を一撃で屠ったのを見てしまったのだ。


「ソフィア!」


背後から声が聞こえた。エーデルワイスだ。中年の男と肩を組んで走ってくる。


「…!来ちゃダメ!」

「…ジン!!」

「え…?」


魔動人形はソフィアを押し除け、エーデルワイスの方に走っていった。あろうことか彼は何の回避も防御もしようとしない。ついに頭がイかれたかと思った。だが、その魔動人形は彼に抱きついた。


「ルナ…!?こんなところで何してる!」

「色々事情があって…すぐに終わらせるから…」

「っ…」


魔動人形がエーデルワイスの手を離れて、こちらに振り向いた。彼はその意図を理解し、すぐに彼女の肩をつかんで静止した。


「話せば長くなるが…ソフィアは味方だ」

「……いいんだね?本当に…もうケルニオンには戻らないんだね?」

「…それが俺の答えだ」


緊張が走る。彼と彼女の関係を知らないソフィアでさえ、彼の選択が彼女との運命を決める選択だと分かった。


「なら…これからずっと、一緒だよ」

「すまな———え?」

「?」

「え?お前も裏切るのかよ…?」

「ジンがいないケルニオンに何の意味があるの?」

「えぇ…何か思ってたのと違う…」


ソフィアも困惑した。いったい何の惚気を見せられているのだろう。あんなに真剣な雰囲気を作っておいて…ソフィアはエーデルワイスが生粋の天然か、とんでもない女誑しかのどちらかあるいは両方だとなんとなく勘づいていた。


「円満なら良かったじゃねぇか。ほら、さっさと切り抜けんぞ、通信回線さえ繋がれば救助してくれるやつに当てがあるんだ」

「失礼、えっと…エーデルワイス、この人達は?」

「ソフィア…随分と迷惑をかけたな。ようやく記憶を取り戻したんだ。そいつは俺の隊員、こっちは裏ルートの協力者だ」

「初めまして…」


ウォルターにはともかく、ルナリアにはかなり警戒していた。当然だ、先程まで戦っていたのだから。


「嬢ちゃん、一つ忠告だ。コイツにあんまり惚れ込むなよ。見ての通りだ」

「………」


ルナリアがもの凄い剣幕でソフィアを睨んでいた。


「べ、別にそんなのじゃないから!…まだ」

「なんで余計なこと言うかな……コホン。ルナ、他のベリーヴォルクは?」

「全員作戦行動中…けどみんなこの作戦はバレないようにサボってる。もし殺戮が起こるなら、きっと君が止めに来るって信じてたから…」

「……なるほど。まぁここに来たのは本当に偶然だったわけだが…まぁいい、ならベリーヴォルクもまだ味方ってことだな?」

「うん。でも一人だけ———待って、敵だよ」


全員が振り向いた。その瞬間、鎖が飛んできた。それは意思を持つ生き物のように、うねり、蛇の如く這ってこちらを捕えようとする。


「魔動人形に…裏切りを企てる魔術師…全て排除する」



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