第40話 耳飾りに込められた想い
日が沈み辺りが暗くなった頃、城にはきらびやかに着飾った貴族たちが続々と集まり、久しぶりに華やかな雰囲気に包まれていた。
私はルーセルにエスコートされて、舞踏会の会場である大広間にいる。
彼は、
会場に入った瞬間から、女性たちの熱い視線を集めている。
なんとも隣にいるのが私だなんて、釣り合わなさすぎて落ち着かない。ルーセルのそれとは違う意味で、注目されちゃってる気がする⋯⋯
今夜の私はランドルフ家の遠い親戚で、やんごとなき家柄の姫君ってことになっている。また、近衛騎士団の団長で警備にあたっているレイに代わって、親友のルーセルが代わってエスコートをしているっていう設定だ。
我ながら、無理がある設定だと思う。
とくに、やんごとなき家柄の姫君ってところ。
本当は“業務”でお仕事なんだけどな……
でも、やっぱりこれはご褒美なのでは?と思う。だって、私の手にはルーセルが選んで取り分けてもらった可愛いプティケーキやサンドイッチ、みずみずしいフルーツなどが色とりどりに盛り付けられたお皿があった。
ん〜〜〜っ!アレク様、ありがとうございます!
「どお?美味しい?」
私の隣でにこやかに立つルーセルが訊いてくる。
「うん!可愛くて、とっても美味しいよ!」
パクっと食べたイチゴが甘くて、みずみずしい。
「んーっ!あま~い!しあわせ~」
思わず頬に手をやり、笑顔になる。美味しいものを食べてるときって、人って自然と幸せな顔になるよね。
「アハハ、ほんとに幸せそうな顔するよね」
「だって、本当に美味しくて幸せなんだもん」
私は隣に並んで立つ、頭一つ上にあるルーセルの綺麗な顔を仰ぎ見て言った。
「ミツキのそんな顔が見れて、ボクは役得だね」
なんて言って、彼はウインクをする。
「またぁ、もう。そんなことばかり言って。ルーセルは口がうまいんだから」
だから、兄のタリアンさんに“あの口から生まれてきたような男”って言われるんだよ?
とは、心の中で言っておく。
「あっちのほうには肉や魚もあるからね」
てルーセルの視線を辿たどると、豪華な料理が置かれていて、シェフのような格好をした人達が取り分けてくれている。
わあ~!ホテルのビュッフェみたい!
ふと、さっきから私ばかり食べていることに気がついた。
「あ、ごめんなさい。さっきから私ばかりいただいてるね。ルーセルは食べないの?」
「んー、そうだね。じゃあ、ボクも何かいただこうかな」
と、近くを通りがかった給仕係の男性から、シャンパンのグラスを2つ受け取る。
1つを私に渡すと、代わりに私の手にしていたデザートののったお皿を彼が持ってくれる。
わあ、とてもスマートだ。
自分がまるでお姫様になったみたいで、私は呆けたまま彼の顔を見つめる。
「じゃあ、あらためて。キミとボクたちの出会いに乾杯しよう」
そう言って、ルーセルは極上の笑みで私のシャンパングラスに自分のグラスをカチンと合わせた。
彼がグラスを口にする仕草が、なんとも優雅で色気があって、かっこいい……
「ああ、そうそう。昼間にレイがさ、仕事中抜け出して、自分の屋敷の方へ馬で駆けていったって聞いたけど、何か知らない?」
「っ!?えっ?」
イケメンなルーセルに呆けて見とれていたところに、いきなりの質問に思わず素でぎょっとしてしまった。
あ……。
だから、髪が少し乱れていたんだ。馬で戻って来たから。
レイったら、忙しいのにわざわざピアスを渡しに来てくれたの?
だとしたら⋯⋯、正直嬉しいな。
「しかも、日頃女性の浮いた話一つない近衛騎士団長が、街のアクセサリーショップに入っていったとかいないとか?女性たちの間で噂になってるみたいなんだけど、何をそんなに慌てて屋敷に戻ったのかなぁ」
一語一句確かめるように言ったルーセルのアメジスト色の綺麗な瞳がキラキラと、興味津々にこちらを見ている。
「さ、……さあぁ?」
首を傾げてとぼけたつもりだけど、語尾が不自然にあがってしまった。
彼は諦めてくれたのか、クスッと笑って「だよね」と言った。⋯⋯よ、よかった。
「そのピアス。ミツキによく似合ってるよ」
「っ!!」
全然諦めてなかった!!
ていうか、バレてる!?
私は、ルーセルの勘の鋭さと彼の情報網のすごさに息をのんだ。
「月……美月の月だね」
……え?
それに、といったん言葉を切ったルーセルが、とても優しく微笑む。
「レイの瞳と同じ色だ」
…………あ。
耳元で揺れるピアスに、私はそっと触れた。
今頃、やっとピアスに込められた意味を知る。
ルーセルが言うように、本当にそんな意味があるの?それとも偶然?
私、いま、きっと顔真っ赤だよね……
「フフ……レイのやつ、なかなかやるね。よっぽど空色のドレスが悔しかったんだろうねぇ。可愛いなぁ~、もう」
ルーセルは楽しそうに笑っていて、ますます恥ずかしくてどうしていいのかわからなくなる。
本当に?
もし、そうなんだとしたら⋯⋯
すごく嬉しいな。
困って彼から視線を反らして、あちらの方を見ると、ある女子グループが探るようにこちらを見ていた。彼女たちとバチバチっと目が合ってしまう。
わわ!違うんです!ルーセルとは何でもないですっ
私は慌てて彼に言う
「ルーセル、私はあっちでご馳走食べて来るね!一人で大丈夫だから、あなたはあちらへどうぞっ」
「え?」
きょとんと目を丸くする彼を、回れ右にしてあちらの姫君たちへと向ける。
「ええ!?ちょっと、ミツキ?」
私からのアイコンタクトを合図に、嬉しそうに笑顔を見せる彼女達もこちらへとやってくる。
私は、ルーセルからデザートのお皿を奪い取ると、彼を彼女たちに差し出した。
まるで生贄のように。
彼女たちがこちらへ到達する前に、私はササッとその場を離れると、あっという間に彼は華やかな女性達に囲まれてしまった。
……ごめんね、ルーセル。
心の中でルーセルに謝ると、私はご馳走を楽しむために、会場の端に設けられた豪華な料理が並ぶテーブルへと向かった。
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