最強騎士が導く最弱少女の成り上がり譚

@ikaarashi

第1話 絶佳の刃

 ――俺に斬れない敵は、ない。


 それが、俺の口癖だった。


 山の裾野で、俺は刃を振るう。

 全壊した温泉郷から迫り来る数百にも及ぶ人型の”異形”を、次々と貫いていく。

 異形――それは、かつては人間だった存在で、2メートル超にも及ぶ背丈。額に角を生やし、眼球は突き出て、全身は紫色の鱗で覆われている。剥き出しの牙に、ナイフのように鋭い鉤爪。

 もし力なき普通の人が運悪く遭遇しようものなら、死を覚悟しなければいけないほど凶悪な存在だ。

 それらを相手に、俺は一人で戦っていた。

 まさに一騎当千だ。

 王都を守る騎士たちが全滅してしまったと聞いて、急遽予定を変更して駆けつけたのだ。

 

 《無敗の剣聖》――いつからだろう、そんな異名で呼ばれるようになったのは。

 ただの一度も負け知らず。戦において、俺の脳裏には”勝利”の二文字しかない。


 最後の一体を貫き、殲滅完了。

 俺は一息つくと、踵を返す。


 野次馬たちの歓声が、どっと沸いた。

 俺を褒めたたえる声が、あちこちから聞こえてくる。


「すごいです! カイおにーさま! 10分とかからず終わらせてしまうなんて!」

 銀色のロングヘアーを風になびかせて、駆け寄ってくる少女――俺の妹のリリサだ。歳は一つ下の17歳。

「ま、俺にかかれば朝飯前だ」

 俺はリリサの頭を撫でてやる。目を細め、気持ち良さそうだ。

 リリサと肩を並べて歩く。

 野次馬が俺に群がり握手を求めてくるが、一人一人握手を交わしている余裕はない。揉みくちゃにされながら、俺は颯爽と先を行く。

 街道には、すでに馬車が待機している。次の戦へと繰り出すのだ。


「さ、行くぞ、リリサ」

「はい!」


 ”幸せ”だった、この頃。


 敵を斬ることしか取り柄のない俺だけど――。

 リリサと一緒なら、どこにでもいけるような気がしたんだ。

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