第77話
「そんな事が起きていたのか……」
式典中の魔術襲撃を聞き、ウォレンは驚いていた。
ルディーデ君も複雑な表情をしていた。
「そこまで聞くと、少し気になるところが……」
ルディーデ君がポツリと言うと――
「お待ちなさい。先ずはセルムさんの意見をお聞きしたい」
ガウェン様はルディーデ君を制止し、僕に話を戻してきた。
発言を止めてまでなぜ僕に?
「……ガウェン様は何を期待しているんですか?残念ながら、僕はそこまで聡明ではありませんし、推理好きな訳でもありませんよ?」
「そうですか。私としては”王族に近しい場所”にいる、貴方からの意見を聞きたかったのですがね。まぁ、他意が無いとは言えませんが……」
「それは……。何故?」
「私の推論が間違っていないか後押しが欲しかったのです。同時に、その推論を覆して欲しいという期待もありましたが」
平然と答えるガウェン様。
その言葉をどう捉えたら良い?
自身の推論を検証したいと言いながら、否定される意見を望んでいるとは?
何となく理解はできてしまった。
おそらく僕の推論と、ガウェン様の”それ”は類似点が多い。
ここは敢えて否定的意見でも出してはぐらかしてみるか?
いや、それに意味は無いか……。
あ゛ーーっ、面倒だ。
僕はあくまで王女の従者でしかなく、地位も権力も無い。
軍の中枢に属していた時ならいざ知らず、今は単なる使用人だ。
それに”王族と近しい”というならばウォレンの方が適当だろうに……。
「先に断っておきますが、僕はアルレ様の従者でしかありません。それ以上でも以下でも無い。軽率な発言でアルレ様に不利益を生む可能性は極力避けたいんですよ」
「無論そんなつもりは有りません。口外しない事は約束しましょう。むしろ……教えていただける事でアルレ様への被害を防げる可能性すらあります」
「現状ではアルレ様にも害があると?」
「お答えしかねます。私が知れる事にも限界はありますので……。ですが、有事の際には全力で協力する事を約束します」
「しかし……」
「言葉だけでは不安というのならば、誠意をお見せしましょう。これをアルレ様に」
ガウェン様は衣服の胸の内側部分から何かを取り出し僕に手渡しに来る。
僕は懐疑心を持ちながらも受け取った。
「ガウェン様それは……」
ルディーデ君は青ざめる。
「……おいおい」
ウォレンも焦りの色を見せる。
僕は手渡された、紋章の刻まれてある石の様な物をまじまじと見る。
魔術結晶のようにも見えるが、伝わってくる感覚が微妙に違う。
試しに魔力を流してみたいところだが、周囲の反応を見るとそんな事をして良い物では無いと悟った。
「これは?」
「ダーインの遺産と呼ばれているものです」
実物は初めて見るが、話には聞いたことはある。
エスト領主の証であり、四大国宝の一つだ。
国宝は各領主の絶対的な権力の証である。
これを王女が持つという事はつまり、王女がエスト領主になるという事も同意。
現状だけを見れば、今、僕がエスト領主だともいえる。
「ちょっ、ちょっと。そんな物は流石に……」
僕は狼狽えながら返そうとする。
が、ガウェン様は受け取ろうとしない。
「これが私の覚悟です。ここまでしても尚、信じて頂けませんか?」
澄んだ瞳で僕を見るガウェン様。
何なんだ?この状況は?
「あーっ、もう、分かりました、話しますよっ!話します。だからこれは……」
僕は諦めたように開き直りながら言い放ち、ダーインの遺産を返そうとした。
だが、ガウェン様は受け取らず、首を左右に振った。
先ず話せという事なのか?
「僕の推論など粗が多く、そしてひどく不謹慎なものです……。正直、口外出来るものでは無いと思っています。それを理解したうえで聞いてくださいね……。先ず、今日の一件で感じた不可解な点から――
僕は観念して話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます