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 それから十年もしないうちに、雷王樹海らいおうじゅかいは新たなあるじの領域となった。

 卓越した力と技に不死の魔力を加えて生まれた、恐るべき夜の魔人は、樹海にいたあらゆる魔物を制し、抗う者全てを餌食としたのだ。


 樹海の周囲にあった都市は、逆らう所は潰されて魔物が徘徊する地となり、服従を選んだ都市は「餌」が繁殖する地として生存を許された。



——樹海中央の岩山、その麓にある城——



 城の最上階にある部屋に豪華な椅子がある。それに深々と腰掛け、領主は夜空に昇った月を眺めていた。

 膝にしなだれかかり、うとうとと微睡まどろんでいるのは、彼を夜の貴族にした母にして自らも不死の少女。

 椅子の後ろの暗闇には、膝をついてこうべを垂れる何人もの部下達。皆が領主の手によって不死とされた者達。かつては領主を討ちにきた勇者達であり、城を通り抜けて領主と直に対面した事で能力を見込まれた者達である。


 満月の静かな夜だった。

 こんな日は、領主はいつも過去の一刻に思いを馳せる。

 人をやめた日に別れて去った、空駆ける白馬の友人の事を。


 領主は血の杯を部下にもってこさせた。

 それを静かにあおる。


 雷王樹海らいおうじゅかいという地がかつてあった。

 真夜しんやの樹海と、今ではいう。


【fin】

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