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それを「退治」した君は、その所持する財宝を全て手に入れた。
首領を失ったも魔物どもは散り散りとなり、大半は樹海から出て行き、残った物どもも森の片隅で息を潜めている――強大な首領を打ち倒した、より強大な英雄に挑もうなどと考える命知らずの馬鹿はそういない。
僅かにいない事もなかったが、全てが君達に一蹴されるまで一月もかからなかった。
こうして君は並の貴族では到底及ばない富と、様々な魔術の奥義が記された魔導書、それらにより造られた貴重な品々を手に入れた。
そんな君は――
魔術の入門書を広げた机を前に「ふう‥‥」と溜息をつく。
魔女の秘蔵書を興味本位で眺めていた時に目に着いた一つの魔術。君は是が非でもそれを習得せねばならないと心に誓ったが、魔法に関して素人同然の君にはあまりにも難解だった。魔女自身はその魔術をとうの昔、森の支配者になる頃には既に身に着けていたのだが――
魔女は支配者になる前から自然と生命に関わる魔法に熟達して「森の賢者」と呼ばれていた魔術師であり、下地自体がそもそも達人級だったのである。
結局、君は近くの街から取り寄せた入門書から始める事になったわけだが‥‥魔女の呪文書に手を出せるのはいつなのか。下手をすれば十年では足り無さそうだ。しかしそれでは遅いかもしれない。あらゆる危険と困難を乗り越えて来た君が、今度ばかりは不安と恐怖を感じてしまう。
「あら、あまり根を詰めると毒ですよ?」
優しい女性の声が君にかけられた。振り向けばそこにいるのは、まだ赤子の娘・ヘメラを背負った若い母親。
樹海の魔女を廃業した女魔術師・ノクスだった。
手にはお茶の入ったお盆‥‥君のために淹れてくれたのだろう。
百年の執念の果てに取り戻した己の望み‥‥かつて確かに持っていた生活。それを取り戻した彼女には、幸福と余裕が見ているだけでも感じられた。
(挿絵)
https://kakuyomu.jp/users/matutomoken/news/16818093077630894896
だがそんな彼女を前にすると、君は己の才能の足りなさに「ぐぬぬ‥‥」と苦悶してしまう。
そこへ扉の外から顔を出すスターアロー。
「まだやってんのかよ。魔術師ってのは魔法の技を学ぶために人生かけてるような連中だぜ? その高位の技術‥‥というか秘奥義みたいなモンを身に着けようというなら、もう冒険者なんか廃業して、ノクスさんに弟子入りしちまえよ」
のうのうと言うコイツを見ていると頭を殴りたくなる。
そもそも君達が住んでいる、かつて樹海の魔女の本拠地だった塔‥‥ここは
ノクスが気を利かせて、塔の上層に厩と離着陸場を兼ねた部屋を設けて、よりによって君の私室が同じ階にあるのだ。
だからこうしてよくいらん事を言いに来る。困ったものだ。
しかし提案自体はそう悪くないかもしれない。
君が何がなんでも習得したい魔術――不老の奥義を身につけるためならば。
ノクスのように百歳を超えても二十代の肉体と美貌のままでいられるならば。
「自身が習得するとなると、魔法への素養の問題もありますから、気休めみたいな事は言えませんが‥‥理論的には魔術師が習得できる全ての呪文は何らかの道具に籠める事が可能です」
そう言ってノクスはお茶を君のテーブルに置き、一冊の本を取り出した。
「不老の装身具‥‥身に着けている間は老いが止まる魔法の品は、私程度では造る事ができません。しかし全く存在しないわけでもありません。世間的には伝説扱いですが、この本にはそれを完成させたという古代魔法帝国の記録が、所在地の有力な候補とともに記載されていまして‥‥」
君は大急ぎでその本をひったく‥‥受け取り、大急ぎでページを捲る。
やはり君は根っからの冒険者、伝説と浪漫を追い求める求道者なのだ。
「結局は体当たりで解決かよ。ま、その方が俺としても望むところ。次の冒険に出る日も近そうだぜ」
実に嬉しそうなスターアロー。
ノクスの背で赤子のヘメラが笑っていた。ノクスも微笑んでいる。
「旅の役に立ちそうな物はどれでも持って行ってください。私は娘の世話がありますから同行はできませんが、支援は全力でさせていただきます」
そう申し出るノクスに、君は親指を立てて笑って見せる。
そしてまた、書物に記された文へ‥‥次の冒険行の情報に目を走らせるのだった。
【fin】
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