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 正体が判明した癒しの樹は引き抜かれ、根も全て街から取り除かれた。

 しかし大規模な駆除作業になってしまったため、街の住人に隠す事はできなかった。

 長年にわたって健康に被害を受けていた事がわかり、住人達は神殿に反発し、一時は暴動さえ懸念される事態になった。実際に気の荒い者達が集団で神殿に乗り込んで来たほどだ。


 だが結局は沈静化した。


 乗り込んだ者達はたった一騎の聖堂騎士に容易く鎮圧された。魔物が無数に巣食う樹海を突破した英雄が乱暴なだけの町人などに後れを取るわけもない。

 また、住人のほぼ半数が神殿へ治療に来る患者を客とした産業で食っており、そうでない住人の約半数は神殿相手の商売で食っている街だというのも大きかった。大神官ナターシャが中央広場で直々に謝罪すると、それ以上の追求はうやむやになっていつの間にか消えた。

 それにどれだけの被害があったのか、今から何百年も遡って調べる事など不可能だ。

 結局、サエティ教団の神殿はこの街に必要という事もあり、糾弾はいつの間にか消えた。


 新たなスタートをきった教団は――



――その日の仕事を請け、君はスターアローを探して神殿の中庭へ来た。


 聖堂騎士となった君の主な任務は、街を訪れる患者達を送迎する乗合馬車の護衛である。再出発して少しでも実績を積み重ねたい教団にとって、これは重要な仕事だ。他の街と行き来する馬車の中には長い道程を往復する物もあり、魔物やならず者と遭遇する事もある。

 空から見張る事ができ、戦えば一騎当千。君とスターアローが最も頼りになる護衛として知られるのも当然の事だった。


 君が中庭に来ると、予想した通りの、いつもの光景があった。

「お、仕事か。じゃあここまでな」

 君の姿を見てスターアローが空から降りてくる。背にはやはりナターシャの姿があった。着地すると元気に跳び下りる。



 ナターシャは教団始まって以来の神童だった。

 生まれつき治療系の魔法の才能がズバ抜けており、潜在している魔力も人並み外れていた。神官として人々の癒しを始めたのは十の誕生日を迎える前であり、一年も経たぬうちにどの神官よりも高度な魔術を修めたという。治療を生業とする教団にとって、まさに神の子であった。


 だが体の方は、むしろ並より虚弱だった。

 幼い頃は強い日差しにあたるだけで倒れた事もあったという。

 それが魔力の強さゆえに最も多くの患者を受け持ち、周りの大人より長く業務に当たり続けていた。そして疲労は己の回復術でこっそり補っていたというのだ。

 教団の者がそれに気づいたのは君が神聖都市サクレッドを訪れる少し前。

 もちろん無茶である。体に毒なのは間違いない。


 今なら「癒しの樹」が彼女へ余計に負荷をかけていたのだとわかる話だ。そして樹が駆除されてからは、彼女は以前より明らかに元気になっていた。



 ナターシャはスターアローの首を抱く。

「早く帰って来てね」

「任せな。ひとっ飛びだぜ」

 調子よく応えるスターアローに頷くと、ナターシャは君にも明るい笑顔を向けた。以前までの張り詰めた様子はほとんど無い。樹の見えない被害が無くなった事も一因だろうし、彼女の負担を減らそうと神官達が一丸となって働いている事も関係あるだろう。

 その中に己がいる事を誇らしく思いながら、君は天馬ペガサスに跨る。


「行くぜ!」

 飛び立つスターアロー。

 中庭で手をふるナターシャへ手を振り返し、君は馬車が待つ街の正門へと向かった。


【fin】

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