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 蘇った魔法王・雷帝ザジンは思ったより友好的だった。事態を理解すると、この時代の魔法技術を向上させるため、乞われるままに己の持つ知識を教えた。

 ラファエロはその一番弟子となり、可能な限り魔法技術を向上させた。いくつもの古代秘術が蘇り、新たな呪文が開発され、様々な魔法道具が造られた。

 魔術都市カイコウは大陸中に名の知れる魔術都市となった。


‥‥が、古代魔法王国時代が再来したかというと、別にそんな事は無かった。

 最高位の呪文が1ランク上がり、大都市で売られていたマジックアイテムが地方都市でも売られるようになり、魔術都市カイコウは宙に浮いたものの‥‥

 破壊の魔法で天変地異が起こったり、日常品まで全て魔法の道具になったり、全ての街が浮遊するような事にはならなかった。


 古代魔法王国時代を再現しようとしても、どうしても足りなさ過ぎる物があった。

 それは施設と設備である。

 魔法王国の最盛期には大規模な施設が各地にあり、エネルギー・通信・人員を大陸中に行き渡らせるインフラがほぼ完全に成立していたのだ。

 本気で魔法完全万能の時代を再来させるためには、それら施設が必要であった。古代の天才魔術師達が幾世代・何百年もかけて完成させた施設網が。



 ただ‥‥ラファエロは本気だった。



――とある異空間――



 星が煌めく無限に広い空間に、無限に伸びる廊下がある。天井の無い廊下の左右には、壁も無いのに並ぶ無数の扉が。


「で、どれが風の星の旧神神殿に続く扉なんだ?」

 スターアローがげんなりして呟く。

 旅装束のラファエロが嬉しそうに本のページを捲っていた。異なる次元から拾ってきた、彼と魔法王しか読めない本を。

「生物の目では数えられない順番で並んでいますのでね、探知の魔術を使うしかありません。なに、すぐに見つかります。時空の狭間に巣食う魔物が出たら退治してくださいね」

 そんな彼のもつ杖の先には宝石と金属板であちこちを塞いだ頭蓋骨が一つ。


 そしてその頭蓋骨――命華草ライフグラスの力でも半端な復活しかできなかった魔王王・雷帝ザジンが言うのだ。

『魔物よりも旧神のなれの果てに気をつけよ。そろそろ「名を呼んではいかぬ長」の奏でる、永遠の笛の音が届くあたりだ。下手をすれば狂気宇宙の深淵に引きずり込まれてしまうでな』


 必要な秘宝を集める旅、と聞いて協力したのが間違いだった。まさか異界をいくつも渡り続ける旅が延々と続くとは。

 君の体感時間だと、もう数世紀は元の世界の土を踏んでいないのだが‥‥雷帝ザジンは元の時間軸に帰れば絶対時間は1秒で済むと言うし、ラファエロは何万種もある必要なアイテムを集めきるまで帰る気はなさそうだ。


「次の世界はどんな奴らが出てくるのやら。食べ物が固形の世界ならバンザイだぜ」

 愚痴っぽくいうスターアローの背で、君は無限に続く扉を眺めていた。

 元々放浪の冒険者ではあったが、まさか人の生の限界を超えた世界まで来るとはな‥‥と、呆れ半分、そして楽しさ半分で思いながら。


【fin】

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