288
その日も友好国からの手紙を王へ届けるため、城を訪れたのだが――
もはや見慣れた城の厩へ到着。その前で
「お久しぶり! どう? 兄さん、元気にしてた?」
君は頷き、親戚筋に預けられた王子の事を簡単に伝えた。
政務に真面目に関わり、預けられた先に気に入られ、縁談話も持ち上がっている事を。
「環境が変わったのが良かったのかしら。なんか心を入れ替えて真面目になったわね。婿養子を探している所に行かせたのは、こうなる事を父が期待していたからかしら」
満足げに頷くミナーヴァ姫。そしてにんまりと悪戯っぽく笑う。
「縁談と言えば‥‥我らが
スターアローまで「ハハハ」と笑った。
手柄を立てての入団でもあり、いきなり副団長からの開始である。騎士団長は既に高齢なので、実際に部隊を率いるのは君に任される事が多かった。
当初は成り上がりの余所者に不信感をもっていた騎士達も、共に行動して君の腕を見ているうちに認めざるをえなくなり‥‥山賊、ゴブリンの群れ、オークの武装団、闇エルフの襲撃隊など、そんな領内のならず者どもを征伐しているうちに、
今回のように王子のいる友好国への使者を勤めるのも、
そこまではまぁいいのだが‥‥姫が君をつんつんつつく。
「私が知ってるだけでも、副団長の一人と大臣の息子と鍛冶ギルドの組合長の孫と‥‥神聖都市サクレッドの聖堂騎士団と魔術都市カイコウの魔術学院からもあったのよね。恋文や求婚話が」
「俺が知っているのを加えたら倍ぐらいになるな。女英雄って事でなんか美化して見てる奴が多すぎねぇか?」
ちょっと失礼なスターアローを君は拳の背で軽くこづく。
だが正直、予想外にも程がある状態ではある。騎士団の副団長など、同じ階級に元流れ者の女がつく事を納得せずに試合を申し込んできた奴なのだが‥‥君に敗れた事で何かおかしくなったのかもしれない。
君が溜息をついていると、姫がスターアローを撫でながら訊いてきた。
「今から父に報告でしょ? その間、この子に乗っていいかしら!」
「おいおい‥‥俺は今、旅から帰ったばかりなんだぜ」
そうは言うが、スターアローに嫌がる様子は無い。
姫は機会さえあればいつもこの
君がそれにOKを出すと、姫は嬉しそうにスターアローへ跳び乗る。ドレスを着ているというのに身軽な物だ‥‥流石、武装して樹海に挑んでいた女戦士だけある。
姫が君を見てクスクス笑った。
「あなたが男だったら、私で決まりだったのにね。残念」
君は面食らって額を抑える。
ウインク一つ残し、姫はスターアローを空へと羽ばたかせた。
全く、勤め人というのも大変だ。旅の風来坊だった時には無縁だった問題も多い。
しかし‥‥それがどこか新鮮で楽しいのも、また本当の事なのだ。
【fin】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます