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こうして、君はこの街の住人になった。
フォアマから貰う家は、君の希望で傾きかけた宿屋になった。馬小屋が併設されているのが最も大きな利点だ。
客はフォアマと「商売」に来る連中を案内してもらう事で確保でき、経営に問題は無い。
フォアマとの付き合いもまずまず良好である。
彼に呼ばれる度、君は用心棒の「先生」として顔を出した。
この街に荒事は尽きない。はっきり言って治安が悪い。君がこれまで見て来た人里ではかなり下の方だ。複数の組織がいつも縄張り争いで睨み合っているし、末端のチンピラまでは統制しきれずにいつもどこかでケンカ騒ぎがある。
自治会長とはいえマフィアの組の長でもあるフォアマに、
君の名を聞くと逃げる者の方が多いぐらいには、すぐに名が通った。
そんな君が経営する宿屋の裏手に、今日も「客」が訪れる。
「ほらほら、順番通り並べ。ケンカすんな」
スターアローに叱られ、悪ガキどもは大人しくなった。君が火をくべる鍋からシチューをすくい、宿屋の飯炊きおかみが「客」に配ってゆく。
街に住む底辺階級の子供達へ。
親がいない子も多く、いてもロクな仕事をしていない子も多い。こんな街の下層の子供達に、奇麗な言葉で包まれた未来などありはしない。
そんな子供達が、腹が膨れた時には屈託のない笑顔を見せてくれるのだ。
子供達に飯を配り終えて一息ついていると、フォアマが顔を出した。
おそらく商談‥‥君にまた用心棒を頼みに来たのだろう。だがそれを切りだす前に、彼は必死に飯へがっつく子供達を眺める。
「これでも俺が頭になって抑えつけているんで、だいぶマシにはなったんだがな。昔はそりゃあ酷いもんだった。まぁあんたみたいな英雄から見れば、田舎ヤクザの御託だろうが‥‥」
そう言うフォアマの目は遠い所を見ていた。
しかしその目の焦点が君達へと向く。
「俺はまだまだ倒れるわけにゃいかねぇ。だからまた一仕事頼みにきた。といっても、あんたのおかげで俺の周りもだいぶ安全になっているし、これからはそう頻繁に声はかけねぇだろう。そうなると、あんたみたいな英雄殿はまた冒険の旅に出なさるかね?」
フォアマの目つきは、探るような、窺うような物だった。
だが意に介さず軽い調子のスターアロー。
「まぁ出ると思うぜ。一稼ぎして、またここへ戻ってくるさ」
「ここへ、か。もっと華やかな場所ならちゃんと讃えてもらえるだろうにな」
この世の裏の片隅の薄汚れた裏道で、フォアマが小さく溜息をつく。
だが‥‥スターアローは笑った。
「おいおい、俺達より讃えられてる英雄はいねぇよ」
「ほう?」
小首を傾げるフォアマ。
君は手を振り返した。
君達に手をふって、笑顔で家路につく子供達へ。
「なるほど」
笑うフォアマの目に、もう何かを探ろうとする神経質な視線は無かった。
【fin】
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