萎れたボタンの咲かせ方〜誰にでも優しい優等生ギャルの裏の顔〜

堕落しきっただいてんし(笑)クゥーウェル

第1話 優等生の裏の顔

立花牡丹、彼女の事を僕らの学校の生徒に聞くと、誰もがこう答えるだろう。曰く、容姿端麗で文武両道……曰く、誰にでも優しい優等生……曰く、オタク文化を理解してくれるギャル……こほん、最後のはちょっと変か?

でも、やはり誰しもがこう答えるだろう。それくらい彼女は綺麗で美しく、悪く言えば八方美人、良く言えば優等生で、面倒事にはいつの間にかスッと入っては解決していくまさに超人と呼ばれる人である。

しかし……僕、伴庭夢貴ばんばゆきは怪しいと思ってる。いや、思ってるだけじゃない。確信している。


……あいつは、腹黒だ。

だってそうだろ?いかにも面倒なクラスの委員長や喧嘩の仲裁、挙句の果てには担任の先生までもが雑用を頼んでいる……

僕なら絶対、断るだけじゃなくて一発ぶん殴らないと気が済まないね。ホント、死んだ姉さんを思い出して、イライラする。


「…くん、…ん庭くん。……伴庭くん!」

体をゆさゆさと揺さぶられ、寝ぼけた頭にダイレクトに響く大声で僕を起こしたのは立花牡丹だった。


「もう、ホームルーム始まるよ?朝、先生が放課後に連絡事項があるって行ってじゃない。ほら早く起きて?」

そう言いながらコテン、と首を傾ける立花の後頭部で揺れるポニーテールを眺めながら、やっぱりあざとくて怪しいとおもう。


「そうだっけ?なら僕はもう起きたから早く自分の席に戻りなよ?」

「伴庭くんって結構冷たいよね?はいはい、わかりました。邪魔な私はさっさと自分の席に帰ります〜」

「ぃやっ!そんなつもりじゃないけど…」

慌てて否定しようとするが遅かった。周りを見るとサイテーとでも言いたげな視線が突き刺さる。立花を見ると困ったように、ぺろっと舌を出して「ごめん」と口を動かした。

あざといなぁ…


「コホン……静かになったようなので、連絡事項を伝えたいと思います。最近、この辺りでバイクによる人身事故が多発しているみたいです。いつも以上に信号を確認し、車やバイクに注意してください。」

そう言って諸々の連絡を終えたあと、下校を告げるチャイムが鳴った。








…………………………………………………………………

ふぅ、と溜め息を吐く。それ程、出された宿題が面倒だったのだ。数学、結構苦手なんだよな……

リビングに降りつつ、そう想いながら僕は乾いた喉を潤そうと、冷蔵庫を開ける。

「げっ、もう殆どない……」

約1Lサイズの某有名な水色のマスコットの書かれたオレンジジュースに残った。とも言えない中身をチャプチャプさせて、時計を見る。


「9時……ちょい過ぎか…」

地域の条例で高校生以下の外出は基本10時までなのだ。ただ、10時を過ぎても帰宅する途中なのであれば警察には怒られない。精々、軽くあまり遅い時間に帰らないようにと注意される程度だ。そもそも、今回だけだし……


「行くか…」


家を出て直ぐにある十字路を曲がると少し大きめな公園がある。そこの中を通ると早くスーパーにつくのだが……


「あれって立花だよな?何してんだ?」

向かいから、ふらふらとした足取りで前が見えてないのか、時折よろめきながら進む立花。


「疲れてんのかな?だとしたら珍しいよな……?」



「おーい、立花!どうしたんだよ!」

自分でもびっくりするくらい大きな声で読んだからか、ビクッ、と震えた立花はふわっと顔を上げて―――


「は?…お前、なんて顔して」

死んだ姉さんに似ている、と思った。

虚ろに揺れる瞳、生きていないかの様な感情の抜け落ちた顔。そして何より、を見てない……いや、見ているけど、してない目は姉さんと同じだった。


そのまま呆然としていた俺だったが、ブオォンと、バイクの音で気がついた。『最近、この辺りでバイクによる人身事故が多発している』それは今日連絡された事だ。

ハッとなり信号を見る。赤だ。

立花はまだふらふらと歩いている。


「立花!」

走った。後悔した事を思い出したは無我夢中で立花の手を引いて走った。


「あぶねぇぞ!坊主!」

バイクに乗っていた男が去りながら叫ぶ。


勢いで公園まで来てしまった僕は、最近の運動不足で悲鳴を上げる体を落ち着かせるためにベンチに座ることにした。


「ふぅ…ふぅ……、で?何でお前、あんな所を歩いてたんだ。」

強引に座らせて、繋いでいた手を離して聞く。


「もう、疲れたの……」

いつもの元気良さがなくなった立花はかぼそい声でそう言った。

なに言ってんだこいつは……と、思った。


「何言ってんだ?お前……」しまった……と、思ったが、立花が叫んだ。

「もう!誰かから頼られるのは嫌!誰も私に頼らせてくれないし、誰も私を見てないじゃん!」

やっぱりか…と思った。


「そりゃ私は美人だし頭良いし字もきれいだし、運動もできるし空気だって読める。後輩に慕われてるのも、先輩に頼りに思ってもらえてるのも知ってる!でも、でもさ……私には無いじゃん!課題を手伝ってくれる対等な友達とか、私を助けてくれる先生とか…つ、疲れた時に支えてくれるこ…恋人とか!」

おいおい……間違ってはないけど……キャラ変わったか?


「ねぇ…教えてくれる?私はこれからもずっと、死ぬまで……一人で誰かに頼られて、私を殺して生きてくの?」

そう言った立花の顔は死んだ姉さんに……いや、両方に失礼か……


「立花……お前、疲れてるんだよ。姉さんみたいにな」

「何でアンタが知ったふうな口で……!!」

「少し話を聞いてくれ……!姉さんはな、もう死んでるんだよ」

「え……?」

「過労だよ…人に頼られて…オーバーワークでな……俺は、ずっと後悔してる。もっと早く気付けていたら、姉さんは死ななかったんじゃないか?俺が…殺したようなもんだ」「え……」

驚いて、目を白黒させる立花は首を振った。


「違うよ……気づく気付かないじゃないよ。伴庭くんは悪くないよ……ただタイミングが悪かっただけ……偶々、気付けなかっただけだよ…」

「……そうか?そう言って貰えると、救われる…」

少しだけ微笑む立花の顔がとても美しく見えた。


「……だから、俺にお前を助けるタイミングをくれないか?今回、気付けたんだ。だから、俺に……」

「……わかった。アンタが言うならすこしは、信じてみる。……失望させないでよね!」

そう言ってやっと戻った笑顔に俺も安心して笑い返す。


「じゃあ、また明日な」「うん、期待してる」





自室に帰った俺は、頭を抱えていた。



「やっべぇ……ジュース買うの忘れてた……」


―――――――――――――――――――――――――


騙して悪いな……立花。

姉さんが死んだのは……鬱病だ。たしかに過労やワーカーホリックだったけど、違うんだ。

姉さんは、自殺したんだ……

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