第10話 島での生活
大盛り上がりとなった宴会から一夜が明けた。
この島の生活スタイルは早朝からの漁業で始まる。
俺は酒が抜けきれずに寝坊をしてしまったが、すでに海にはたくさんの船が出ており、威勢のいい声があちらこちらから飛んでくる。
獲った魚は自分たちで食べることもあるし、加工して保存食にもするし、定期的にやってくる商船との取引にも使う。島民にとってはまさに命をつなぐために欠かせない物なのだ。
一方、俺はこの島で工房を開くことにした。
海の男っていうのにも憧れるが、せいぜい自分たちの食料を調達するための海釣り程度にとどめておく。
最初はこの小さな島で工房をやっても需要がないんじゃないかっていう懸念もあったが……実はまったくの逆という状況だった。
ラゴン島の人たちの主な仕事は漁業と農業。
それらにかかわる道具の不調や破損は死活問題につながる。これまで島民たちで協力しながらなんとかやってきたが、いつ何が起こるか分からないので俺のような職人がいてくれたら助かるとオデルゴさんは語っていた。
そういった事情もあって、俺はこのラゴン島に歓迎された。
竜人族であるティノもみんなに歓迎されており、特に子どもたちとはすぐさま打ち解けたようで今日も朝から一緒に遊んでいる。
驚いたのだが、この小さな島には学校が存在していた。元々は他国の王都にある王立学園で教鞭をとっていたという若い女性教師が一年ほど前に移住してきて、それから子どもたちに地の読み書きや簡単な計算問題などを教えているという。
夕方ごろにティノを迎えに行く予定となっているので、それまではこの小屋の改装に全力を注げる。
昨日は寝床を確保する程度にとどめていたので、今日からは本格的に家づくりへと移っていこうと思う――が、その前にまずは食料の調達だ。
「とりあえず……まずはこれだ」
俺は小屋の隅に転がっている折れた竿を手にする。
こいつで海の魚を釣り上げようって魂胆だ。
「自分で釣った魚を調理して食べるっていうのを一度でいいからやってみたかったんだよねぇ」
前世では学生時代に海釣りやバスフィッシングにハマったけど、社会人になってからは日々の激務で疲れ果て、休日に竿を持って海に行くなんて行動力は湧いてこなかった――が、ここは違う。むしろそっちが生活の基盤になるのだ。
とりあえず、折れた竿を【修繕】の付与効果で元通りにし、あと必要になるのは針とリールとルアーってところかな。
「数を確保するならサビキの方がいいかなぁ……でも餌がないし、長期保存も難しそうだからまずはルアーで勝負だ」
とはいえ、餌釣りの方が釣果もいいだろうからこの辺は今後検討しないとな。俺の付与効果スキルであってもさすがに生き物である魚釣り用の餌は用意できない。
あと、この世界ではリールがないようで、島の人たちは銛を使用しており、針は動物の骨で作っているらしい。一応、小屋の中に針もあったので今回はこれに【強化】の付与効果をつけて使おう。
リールについては自作しようと考えている。
幸い、この島では木材に困らないし、原理さえ分かっていれば緋色の
この手の知識は前世の記憶に刻み込まれている。休日は仕事の疲労を回復するためにどこへも行かず、部屋にこもってこの手のDIYや釣り、畑づくり関連の動画を何時間も視聴していたからな。
「さて、早速始めるとするか」
こうしてみると、ここでの生活は前世で憧れていた趣味三昧の生活そのままであった。
となれば、テンションが上がってしまうのも無理はない。
俺は興奮気味に小屋を物色し、使えそうな素材を手に入れていくのだった。
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