前世ルーレットの罠〜前世療法〜
海乃マリー
前世療法
「では、今回のテーマはKくんが学校に行きたくない原因がわかる過去生に行ってみる、でよろしいでしょうか?」
小部屋の端に白のリクライニングチェアがあり、テーブルや椅子、カーテンなど薄い緑やピンクなどパステル調の優しい色合いが並ぶ。
このクライアントの男の子Kくんは現在不登校になっている高校生だった。以前はお母さんがセッションを受けられており、お母さんの話を聞いて興味を持ち、今日受けにきてくれたのだ。
人間の意識は、顕在意識五%、潜在意識九十五%の比率と言われている。顕在意識とは普段私達が頭で理解したり考えたりする部分。そして、潜在意識とは意識できない部分でイメージや感情や記憶が全部入っている。
意識は現実を創る。意識の中でも九十五%を占める潜在意識が現実を創る鍵を握っている。
催眠療法では、催眠状態に誘導し、この潜在意識にアクセスして、潜在意識の海から必要な記憶やメタファーを引っ張ってくるのだ。
そもそも、前世があるかどうかなんてほとんどのケースで確認できるものではない。実際にあるかどうかという所は横に置いておく。
催眠療法で浮かんできたイメージから、現状の悩みに対し何らかの気付きを起こし解消したり、緩和させるという目的で行うものである。
クライアントにリクライニングチェアに掛けてもらい、目を閉じてもらいながらリラクゼーション誘導を始める。そして、催眠状態に導き、段々と目的の過去生に進んでいく。
セラピスト(以下セ)「足元を感じて下さい。どんな履物を履いていますか?」
クライアント(以下ク)「裸足です」
セ「どんな服装をしていますか?」
セ「周りに何が見えますか?」
クライアントは次々と質問に答えていった。イメージがしっかり感じられるタイプみたいだ。
古い時代。ヨーロッパ大陸。十五歳男性。父、母、おばあちゃん、妹と自分の五人家族。貧しい家で自分は奉公に出された。ほとんど奴隷だった。炭鉱を来る日も来る日も掘る生活。一度家を離れたが最後、二度と家族の元に帰ることができず、酷い肉体労働、疲労困憊、栄養不足で二十歳で命を落とした。
そんな場面が次々と出てきた。クライアントは奴隷のように働かされる苦しみや家族に売られたという悲しみ。同時に家族を恋しく思う気持ちなど、ありありと思い出し、様々な感情が溢れ出て、涙が次から次へと流れ落ちた。
無意識下にあったこうした感情が浮上することで感情の解放が進む。そして涙とともに洗い流されることも浄化に繋がる。
セ「あなたはその人生で何を体験し学びましたか?」
ク「肉体労働の厳しさと自分でどうすることも出来ない現実を体験しました。家族の為に自分が犠牲になって頑張っていました。家族が、特に妹が幸せに生きてもらいたいと思っていました」
セ「今度生まれ変わったらどのような体験をしたいですか?」
ク「家族と幸せに暮らしたいです。もう、何かの犠牲になりたくないし、自分の選んだ人生を生きたいです」
セ「前世の登場人物で、今生関わりあいのある人はいましたか?」
ク「前世の妹は、今の母親です」
セ「この前世と今回のテーマである不登校との関係する部分はありますか?」
前世の奴隷の体験で自分の意志とは関係なく無理やり何かをさせられる、ということと、学校でやりたくない勉強をさせられることについて、無意識のうちに重ねている、と気付かれた。
そして、前世の妹への強い思いが、今家で過ごしたいという気持ちとも重なると話されていた。
では、これから三つ数えると催眠から醒めますよ。
「一、二、三……はい。お疲れさまでした」
親ガチャで最悪な人生。
ルーレットのように何を引き当てるかわからない。
神様に弄ばれている。
罠にかけられた。
自分の生まれて来た環境や設定に不満を持っている人は大勢いるかもしれない。
自分はなんて運が悪いのだろうと嘆いている人もいるかもしれない。
でも、セッションで沢山の人の過去生を見ていて思うことは、どんな体験も深いところでは、自分で選んでいるのではないかということ。
起こることは偶然などなく、全て必然だということ。
Kくんのその後について追記しておく。
Kくんはこのセッションの後も、不登校は解消しなかった。むしろ高校を中退してしまった。
そして、現在、絵を描くことが好きだった彼は、グラフィックデザインの専門学校に入り直して学んでいるそうだ。
前世ルーレットの罠〜前世療法〜 海乃マリー @invisible-world
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