第24話 悪役貴族、犯罪組織のアジトに潜入する
『
夜闇に沈んだ
大きめのコンサートホール並の広さを持つ上に、頑丈な石造りの壁は高くそびえ立っている。高さから見て、四階くらいはありそうだ。
俺達は黒いフード付きのケープを着て、その威容を見上げていた。
黒いケープは、闇市で『血霧の旅団』の連中から奪ったものだ。路上の飲み屋で大声で旅団のことを話してる連中がいたので、サディアとロレインに
学生服も目立つため、貧民街の住人の協力を得て、ケープの下の衣服も目立たないものに着替え済みだ。
女性陣の容姿は明らかに目立つため、ケープのフードを目深にかぶって髪色やエルフ耳を隠してもらっていた。
カティナ先生はすでに別行動を取っているため姿はないが、どこかでこの賭博場を監視しているはずだ。
俺は全員の顔を見回してから、意を決して告げる。
「それじゃ、潜入するぞ」
全員、無言でうなずきを返してくる。さすがに敵地に潜入する直前とあって、全員不安や緊張を隠せないでいる様子だった。
かく言う俺も、正直不安は大きい。敵だらけの空間に忍び込むなんて、こんな状況じゃなかったら絶対にゴメンだ。
……まぁ、今更悔やんでも遅いけどな。
俺はケープのフードをかぶり、賭博場の正面入口に向かって歩き出す。
正面入口には、二人の男が門番のように立ちふさがっている。彼らは近づいてくる俺達をじろじろと観察した後、特に何も言わずに道を開けた。
俺達は礼を言うように小さく頭を下げてから、賭博場の中に入る。
賭博場の中は喧騒に満ちていた。
フロアには所狭しとテーブルが並んでおり、それぞれのテーブルに客とディーラーがついてカードゲームやルーレットに興じている。
隅の方にはバーカウンターがあり、そこでは酒も振る舞っているようだ。酒で判断力の落ちた客に金を賭けさせようというのは、どこの世界でも共通らしい。
ざっと見渡した感じ、一階はすべてギャンブルのためのスペースになっているようだ。
フロアの奥に進んでいくと、二階に上がる階段と地下に繋がる階段があった。
俺達は不審に思われないよう端で固まって、小声で議論する。
「ゼオン様。上と下、どちらの階段を行くべきでしょう?」
「二手に別れて、両方同時に調べるんじゃダメなのか?」
「あなたは本当におバカですわね、ジーク。二手に分かれたら、ゼオン・ユークラッドがいないほうがケイトさん達を見つけた時、カティナ先生に連絡が取れないでしょう?」
「……俺は地下に下りるべきだと思う」
夫婦漫才を繰り広げるジークとロレインを横目に、俺はエリスに視線を向けながら提案した。
下に下りる提案をしたのは、原作で実際に地下の部屋にケイトとジェナが監禁されていたからだ。この方針にほぼ間違いはないと思っているが、念のためエリスの『予知』で保険をかけておきたかった。
エリスは集中するようにしばし
「私もゼオンさんの意見に賛成です」
俺とエリスの意見が一致したことで、他のメンバーも暗黙的に同意してくれたようだった。
明かりの
廊下の左右には、無骨な
忍び足で廊下を進むと、明かりの漏れる部屋に行き当たる。そこだけ錠が厳重ではないため、原作知識のある俺でなくても、そこが守衛の詰所であることはわかった。
俺達は目線だけで奇襲の合意を取り合うと、忍び足でドアの前に立つ。
俺が目線でサディアに合図を送ると、彼女はドアと地面のわずかな隙間から風系中級魔法の
室内で何かが倒れる音がするのを確認してから、俺達はそっとドアを開いた。
作戦通り、中の守衛はテーブルや壁にもたれかかって眠りこけていた。
奴隷を連行するためと思しき縄が壁にかけてあったので、俺とジークで守衛達の手足を縛り付け、猿ぐつわをかませていく。
何人目かを縛り付けている時、俺は不意に違和感を覚えた。
――こいつだけ守衛じゃない?
他の連中と違ってケープを着ておらず、年齢も六十歳ほどでとても犯罪組織の下っ端とは思えない。
禿げ上がった頭と
ローブのポケットに入っていた魔道具――『
この男は、捕らえた子どもに『隷呪の首輪』をつけるために呼ばれた奴隷術師だ。
俺は反射的に、サディアのほうに視線をやった。
奴隷術師の力を借りれば、サディアの奴隷契約を解呪できる。
できれば今すぐそうしたいところだったが、今回の潜入作戦は時間との勝負だ。残念だが、今は寄り道をしている時間はなかった。
俺とジークで守衛全員を縛り終える頃には、ロレイン達が鍵束を探し当ててくれていた。
「さ、急いで部屋を調べますわよ。誰かが下りてきたら、わたくし達の潜入に気づかれますもの」
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