第23話 悪役貴族、失踪少女の救出計画を立てる
「本当ですか、先生っ!? 一体どんな作戦なんですかっ!?」
策がある――というカティナ先生の言葉に、エリスは瞬時に食いついた。
カティナ先生は優しげな笑みを浮かべ、ゆったりとした口調で続ける。
「
「そんな……じゃあ、どうやって中に入ったらいいんですか……?」
「しちめんどくさいな。俺が陽動でもするか?」
「冗談じゃないですわ、ジーク。そんなのに付き合わされたら、命がいくつあっても足りませんわよ?」
ジークとロレインが言い争ってるのをよそに、カティナ先生は落ち着いた声で続ける。
「そうですね。相手の戦力がわからない以上、生徒に
「では、全員でどこかの入り口から突撃して、迅速にケイトさん達を救出して脱出する……ということでしょうか?」
「サディアさんのアイデアもいいですが、運悪くケイトさんやジェナさんのいる部屋と離れた入り口から突入してしまった場合、敵が子ども達を連れて逃げる恐れがあります。そうなったら救出はほぼ不可能です。運任せの方法は取りたくありませんね」
「……じゃあ、一体どうするんですか?」
俺の問いかけに、カティナ先生は上品な笑みを浮かべたまま答えた。
「『血霧の旅団』は大規模な犯罪組織ですから、構成員も相当数が多いはず。構成員の多い組織というのは、
「つまり、連中にも制服のようなものがあるってことですの?」
「まず間違いないでしょう。そこで、私の策はこうです。まずは闇市に紛れ込み、『血霧の旅団』の構成員を何人か倒して旅団の制服を奪う。
次に、彼らの制服を着たゼオンさん、ジークさん、ロレインさん、サディアさん、エリスさんの五人で正面から中に侵入し、ケイトさん達の居場所を捜索。
見つけ次第、外にいる私に合図を寄越してください。私が外で騒ぎを起こし、皆さんが脱出する時間を作ってみせましょう」
「それって……先生一人で囮になるってことですか? そんなの、危険ですっ!」
「そうですわ。だったら、一緒に侵入したほうが安全ではありませんの?」
「ふふ……心配してくれてありがとう、エリスさん、ロレインさん。でも、私の年齢で犯罪組織に潜入したら、いくらなんでも目立ってしまうわ。それに……元宮廷魔法師というのは伊達ではないのよ? 注目を集めて時間を稼ぐことだけに徹すれば、さほど危険はないわ」
そう言って微笑みながら、カティナ先生は俺に視線を向けてきた。
「ゼオンさんはどう思いますか?」
問われ、俺はとっさに返答に窮した。
……正直なところ、彼女の案は俺の知ってる原作通りのものだった。唯一異なる点は、カティナ先生が陽動を手伝ってくれるという一点だけだ。
原作では、この潜入作戦はロレインが提案し、ジークとロレインとエリスの三人だけで潜入した。
潜入の最中、エリスの『予知』の力で危険を回避しながらケイト達を連れ出し、途中で旅団の幹部と戦うことにはなるものの、三人で力を合わせて敵を撃破する。
そういう流れになるはずだったのだが……このままだと、だいぶ原作からかけ離れた展開になりそうだな。
とはいえ、カティナ先生の案のほうが安全性は高い。言いようのない
「俺は賛成です。先生に負担をかけてしまうことにはなりますが」
「あら、いいのよ。生徒を守るのは教師の務めだもの」
「ありがとうございます。それで……ケイト達を見つけた時の合図ですが、これでどうでしょう?」
言って、俺は懐の革袋からイヤーカフス型の魔道具を取り出した。
「これは風の上級魔法、
「なるほど。これなら簡単に連絡が取り合えますね」
まぁ念話とは言いつつ、実際には超音波に暗号化して音声を送受信する魔法なのだが、細かい原理は割愛する。
俺は魔道具をカティナ先生の手のひらに乗せてから、もう一つを自分の耳につけた。
「ケイト達を見つけたら、先生にその旨をお伝えします。ただ、緊急事態が発生した時にも連絡をするかもしれません」
「わかっています。危険が迫ったらすぐに連絡してください。誘拐された子ども達と同じくらい、あなた方のことも大事ですからね」
これで方針は固まったが、他の面々の顔を見渡すと、それぞれ緊張と不安の入り混じった顔をしていた。
……ふむ。ここはひとつ、主人公様からいい感じの一言をちょうだいしておくか。
俺はジークの隣に回り込むと、彼の背中を叩いた。
「おい、ジーク。何か気合の入ることを言ってくれ」
「な、何だよ急に。っていうか、そういうのは俺じゃなくてお前の役目だろ」
「そうですわ。そもそも、この依頼を受けたのはあなたなんですから」
ジークとロレインから反論され、俺は助けを求めるようにエリスとサディアに視線を向ける。
「私も、ぜひゼオンさんから活を入れていただきたいです!」
「ゼオン様、観念なさったほうがよろしいかと」
……完全に退路が断たれてやがる。
俺は盛大に溜息をもらしてから、覚悟を決めて口を開いた。
「えーと……俺達の最優先目標は、あくまでケイトとジェナを無事に助け出し、俺達自身も含めて無事に敵のアジトから脱出することだ。そのためにも、できる限り無用な戦闘は避けたい」
全員が俺の言葉にうなずくのを確認してから、俺は自分に言い聞かせるように続ける。
「だが……万が一戦闘になった場合、相手を殺すことをためらわないで欲しい。
相手は何の罪もない子どもを誘拐して、奴隷として売り飛ばすようなクズどもだ。仮に連中を手に掛けてしまったとしても、罪の意識を抱く必要はない。そんなことよりも、自分自身と子ども達の命を大事にして欲しい」
……正直、人と殺し合うなんてまっぴらゴメンだ。
できればそんなことは避けたいが、このイベントが原作通りに進んだら戦闘は避けられない。
俺はサディアに視線を向けた。
――俺には、サディアを本来の居場所に帰す義務がある。彼女を奴隷としてこき使ってきた贖罪をするには、それ以外に方法がない。
そのためには、彼女を死なせることはもちろん、俺自身が約束を果たさずに死ぬことも絶対に許されない。
「俺も、皆を守るために全力を尽くす。だから、全員で無事にやり遂げよう!」
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