第18話 悪役貴族、少女失踪事件の詳細を聞く

 礼拝堂の横は食堂になっていた。

 全員が食堂のテーブルにつくと、司祭は早速話を始める。


「ケイトとジェナは別々の時期に捨てられていた孤児なのですが、姉妹のように仲の良い子達です」


 ケイトは色白で赤毛の十二歳で、赤ん坊の時に教会の前に捨てられていたところを、司祭が拾って育ててきたらしい。

 責任感が強く、年下の子の面倒をよく見る子で、教会ではエリスの手伝いも率先して行っていたそうだ。


 ジェナは小麦色の肌をした黒髪の十歳で、三歳の頃に貧民街の路上で倒れていたところを、司祭が保護した。

 のんびりとした性格で、勉強や教会の仕事に遅刻したりは日常茶飯事で、ケイトがよく世話を焼いていたようだ。


 二人とも人間種族の女の子で、背丈は一四〇センチ前後。

 教会での暮らしには満足していたらしく、教会を抜け出したり、家出をする理由などは思いつかないとのことだった。


 二人が失踪したのは四、五日前。五日前にジェナが外の掃除から帰ってこなくなり、翌日にケイトがジェナを探しに行ったまま戻らなくなった。

 ケイト失踪で、司祭はついに冒険者ギルドに依頼を出すが受けてくれる冒険者もおらず、途方に暮れてエリスに手紙を出したようだった。


「しかし、まさかこんなに多くの友人ができていたなんて……こんな時ですが、今後ともエリスと仲良くしてやってください」

「し、司祭様っ! ゼオン様やロレイン様は貴族様なんですよ!? 友人だなんて恐れ多いですっ! それに、ジークさんとサディアさんも、あくまで善意で依頼を受けてくださった恩人で……っ!」

「え? 俺達って友達じゃなかったのか?」


 驚いたように聞き返したのは、ジークだった。俺はそれに、内心で快哉かいさいを上げる。

 ――いいぞ、ジーク! 原作通りにエリスのガードをかいくぐって、彼女を自分のパーティに引き込むんだっ!


 俺が内心で声援を送っているとは知らず、ジークはエリスに白い歯を見せて笑いかけた。


「それから、俺にさん付けなんてしなくていいぞ。俺もエリスって呼んじまってるし」

「あ、ありがとうございますっ! ジ、ジーク……さん」

「だから、さん付けはいいんだってば」

「すっ、すみませんっ! 敬語は口癖のようなもので……」


 ジークと友情を交わし、エリスは頬をほんのり染めて嬉しそうに笑う。

 俺はジークの主人公力に感心し、歓喜で拳を握りしめていた――が。


「ジークの言う通りですわ。わたくしやゼオンにも、様付けなんて不要でしてよ?」

「よ、よろしいんですかっ?」

「えっ!?」


 ロレインの申し出に、俺はエリス以上に大きな声を上げてしまった。

 驚愕する俺を見て、ロレインとサディアは冷たい視線を、エリスは悲しげな視線を向けてくる。


「なんですの? まさか、様付けされて悦に入るような低俗さがまだ残っていたのかしら?」

「ゼオン様。この流れでそれはさすがに引きます」

「い、いや、そういうわけでは……っ」

「も、申し訳ありません、ゼオン様っ! 私、皆さんとお友達になれると勘違いして、勝手にはしゃいでしまって……っ」

「いや、だから嫌なわけじゃないんだって!」


 クソっ! せっかくジークが主人公っぽい行動したってのに、これじゃ友達イベントが四等分されて、濃度が薄められちまうじゃないかっ!

 俺は頭を抱えたくなったが、なんとかこらえてぎこちない笑顔を浮かべた。


「いきなりでびっくりしただけだ。俺のことも貴族扱いせず、気楽に接してくれ」

「…………うぅ……こんなに友達ができて、私、感激ですっ!」


 俺の言葉に、エリスは潤んだ瞳を指で拭った。


「私、学院に入学してから全然友達ができなくて……貴族の方々は気安く話しかけられない雰囲気でしたし、平民の方々は活発すぎて話が合わなくて……休み時間も放課後も、ずっと図書館で一人本を読んで過ごしていたので、本当に嬉しいですっ!!」


 ……そう言えば、エリスってそういうやつだったな。

 エリスの性格は、俗に言う陰キャだった。孤独な学生生活を恋愛小説で潤していたところに、初めて友達になったジークと冒険をする内、急速に恋に落ちていく。

 確かこの間の迷宮探索の授業も、パーティが組めなくて仮病で欠席していたはずだ。


 気づけば、全員がエリスに生暖かい視線を向けていた。


「な、なんでしょう? 私、何かおかしなこと言いましたか……?」

「いえ。気になさらないでください」

「そうね。あなたが喜んでくれているようで、わたくし達も嬉しいですわ」

「これからは、飯でも何でも気軽に誘ってくれよな!」

「あ、ありがとうございます!」


 エリスのおかげで、すっかり場がなごんでしまった。

 俺は咳払いしてから、話を本題に戻す。


「それじゃあ、早速聞き込みを始めるか。俺とサディアは教会から西のエリア、ジークとロレインは東のエリアでどうだ? 日が暮れる頃には教会に集合して、お互いの成果を報告し合おう」

「ちょっと、勝手に仕切らないでちょうだい」


 ロレインは不服そうに抗議してくるが、方針自体に反対ではないようだ。

 それに俺は内心ほくそ笑んだ。


 原作通りなら、東のエリアには子ども達を誘拐した犯罪組織のアジトがあるはずだ。

 つまり、このまま行けばジークとロレインは東のエリアで子ども達の有力情報を手に入れ、エリスの信頼を得て、事件解決と同時にエリスがジークパーティに加わることになる。

 聖女の力を得たジークパーティは、原作のように世界の命運を左右する戦いを引き受けてくれるだろう。


 そして俺は――そんなジーク達の太鼓持ちでもしながら、命の危機などなく、のんびり学院生活を送れるというわけだ!


 内心で声高に叫んでいると、ロレインとサディアが氷のように冷たい目で俺を見ていた。


「何なんですの。さっきから薄気味悪い笑みを浮かべて」

「ゼオン様。はっきり申し上げて、気持ち悪いです」


 …………ハハハ、サディアも随分ぶっちゃけて話してくれるようになったなぁ。

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