悪役貴族に転生したけど、今度こそ平穏に生きたい〜戦乱に巻き込まれたくないので、主人公の太鼓持ちになる予定だったのに〜
森野一葉
第1話 悪役貴族、前世の記憶を取り戻す
「ゼオン・ユークラッド、あなたとの婚約は正式に破棄されましたわ」
婚約者の言葉を呆然と聞きながら、俺は医務室のベッドに横たわったまま前世の記憶を取り戻していた。
――どうやら、俺はゲームの悪役貴族として転生してしまったらしい。
◆
俺の名前は
曲者揃いの会社の中で、チームの緩衝材として揉め事の仲裁や調整に追われた結果、重度の胃潰瘍を
趣味はゲームと貯金だけ。特に好きなゲームは『ミズガルズ・サーガ』というマイナーRPGで、リメイクもされていないのに何十回とクリアしたものだ。
ゼオン・ユークラッド伯爵
黒髪黒目、中肉中背の凡庸な容姿の中、嫌味そうにつり上がった目だけが特徴的な少年で、ライバルキャラと言えるほど際立ったキャラ立ちをしているわけでもない。
ゼオンは平民である主人公ジークの前に何度となく立ちはだかり、ヒロインの誘拐や暗殺未遂などの悪事に加担したあげく、ジークに対する嫉妬心と憎悪を募らせて次第にまともな人間性を失っていく。
そしてついには世界の破滅を
ゼオンの身勝手で独りよがりな行動は、作中人物だけにとどまらず、プレイヤーからも
まさかよりにもよって、そんな男に転生するハメになるとは――
◆
「聞いていますの? ゼオン・ユークラッド」
元婚約者からの冷え切った声で、我に返る。
眼前の元婚約者、公爵令嬢ロレイン・グズルーンは藍色の瞳で蔑むように俺を睨んでいた。
長い薄紅色の髪をツインテールにし、小柄な幼児体型をガレリア魔法学院の制服で包んでいる。
ベッドに横たわった俺のことを気づかう様子など微塵もなく、彼女は容赦なく続ける。
「あなたには心底失望しました。今まであなたの素行には何度も注意をしてきましたが、今日のは最悪でしたわ。自分の従者を虐げたあげく、助けに入った平民に決闘を挑み、手も足も出ず倒される……貴族の誇りなど微塵も感じられない
聞き覚えのあるセリフを聞きながら、俺は前世の記憶をたどる。
これは『ミズガルズ・サーガ』における最序盤のイベントだ。
ガレリア魔法学院に入学した主人公ジークは、ゼオンに虐げられる従者を見て助けに入る。
平民に
その結果、婚約者のロレインはゼオンに婚約破棄を叩きつけてジークと距離を縮めていき、ゼオンは学院中の笑いものになる。
最序盤のささいなイベントではあるが、この事件がゼオンの転落を決定づけたと言っても過言ではない。
――って、まずいまずいまずい! このままだと俺は、主人公の憎まれ役として悲惨な人生を送ることになるじゃねえかっ!
前世もろくでもない死に方だったっていうのに、現世でも最悪の悪役として死ぬなんてまっぴらゴメンだ。
争い事を避けて防いで鎮火し続けてきた前世のスキル、今こそ見せる時だろう。
俺はベッドの上で体を起こすと、土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。
「申し訳ありませんでしたぁ――っ!」
突然の大声に面食らったのか、ロレインは目を丸くして固まる。
その隙を逃さず、俺は前世で
「この度はわたくしめの軽率な行動で
「…………な、何なんですの、いきなり!?」
超絶早口での謝罪に圧倒されていたようだったが、ロレインはようやく我に返って反論してくる。
「大体、あなたの反省はいつも口先だけでしょう!? 本気で謝罪する意思があるなら、言葉より行動で示しなさいっ!」
吐き捨てるように言うと、ロレインは医務室を出ていった。
去っていく元婚約者の背中を見届けながら、俺は密かに決意する。
原作通りだとあと数年もしない内に、俺の人生は破滅を迎える。
原作のシナリオは大好きだが、俺自身が破滅するのは絶対に嫌だ。
何が何でも破滅の運命を回避して、今度こそ平穏な人生を手に入れてやる。
そのためにも、真っ先にやるべきことがある。
俺が考えをまとめるのと同時に、医務室のドアがノックされた。
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