あの日の夜空

海乃マリー

500文字で書く小説

習い事の帰り道。

小学五年生になった瑞稀みずきは、マル坂と呼ばれる丸型模様の急な登り坂で自転車を押していた。


今日学校で起きた嫌なことを思い出しながら。


体育の授業で二人ペアを作る時、一人だけあぶれてしまったのだ。奇数人数の時に二人ペアの指示を出すなんて、先生もひどい。少しは考えてもらいたいものだ。


瑞稀はクラスで上手く馴染むことができなかった。大人しすぎる性格のせいかもしれないし、表情を上手く出すことが出来ないからかもしれない。学校ではいつも身体が強張り緊張して、思う通りに振る舞うことが出来なかった。


皆と同じように出来ない悲しみや自己嫌悪が頭の中をぐるぐると巡る。


ふと視線を感じ、群青色の空を見上げた時に、


突如、空と目が合った。


それは誰かが私を見つめる気配。

温かく優しく包み込む眼差し。


ああ、そういうことか。

瞬間的に腑に落ちた。


群青色の空

点々と瞬く星々

夕暮れの匂い

春の生暖かい空気

ハンドルを握る汗ばむ掌

自転車の重み


圧倒されるような濃厚な感覚が強く強く迫ってきて、瑞稀の身体と心に刻み込まれた。


私はこれから先

この瞬間を何度も思い出すだろう。


そして、思い出す度に

小さな私に愛を送るだろう。




ありがとう。


未来の私。

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