#08 顧問の呪い?①
全吹奏楽部の新一年生による重要行事の一つ……その名も『楽器決め』。
これは実際に猫丸が体験した、まさにその『楽器決め』による波乱と、顧問による呪い?の実話である。
タンターン、タタタターンターンタタタターンタ……
華々しいステージの開幕を飾った「天国と地獄(地獄のオルフェ)」に、当時小学二年生の猫丸は心より感銘を受けた。
地元の区民ホールで毎年冬、広島交響楽団のオーケストラコンサートが行われていた。
区で繋がっていたのか、小学校に申請を出せばそのチケットを購入することができて、猫丸は元吹奏楽部出身の母親と、毎年のように聴きに行っていた。
ちょうど当時の猫丸と同じくらいの子供連れの親子もたくさんいて、広島交響楽団の総監督・
しかしそんな呑気に笑っていられたのも、演奏が始まるまでだった。
眩しいほど明るいスポットライト、広いホールに響く爆音。学校の音楽の授業なんかと比にならない音楽体験がそこにはあった。
齢八歳で初めて音楽の世界を知った猫丸は、目をキラキラさせながら、ただただ憧れるばかりだった。
特に憧れたのは、最前席のフルートだった。きらびやかなドレスを身に纏ったお姉さんたちが、優雅に、歌うようにして楽器を奏でている。
小鳥のさえずりのような可憐でお上品な音は、ちょうどキラキラのアクセサリーやフリフリのドレスなんかを好む時期である女児の心にド命中。
猫丸はその日、土日の宿題だった作文に『中学生になったら吹奏楽部に入って、フルートを吹きたいです』と書いた。
……そんな思い出深い冬の日から早五年、猫丸は中学生になった。
当時の吹奏楽部は深刻な人数に悩まされていた。二、三年生合わせてたった五名しか部員がおらず、各パートに一人しかいない(もしくは誰もいない)状況。
猫丸は一年生だったからよく分からないが、先輩たちはさぞかし苦労したことだろう。しかもその人数不足の原因が、去年までいた鬼顧問(先輩曰く「怖いなんてレベルじゃない」)のせいなのだから…
しかしそんな先輩方の多大なる苦労も他所に、猫丸は内心『ラッキー!』と親指を立てていた。
フルートがその綺麗な音色や単純な知名度の高さから、枠争いの激しい人気楽器だということは、入部前からある程度知っていた。
先輩の人数が少ないのなら、その分だけ枠もあって、例え人気楽器でも希望が通りやすくなると考えたからだ。
先輩方からすればぶん殴りたくなるようなクソ後輩だったが、猫丸のこの考えは甘かった。
その年はちょうど鬼顧問と入れ違いだった上(高校の方に転勤したらしい)、更に他の運動部が一斉に三つも廃部になり、異常に吹奏楽部を希望する生徒が多かったのだ。
入ってもせいぜい五人くらいだろうと猫丸は見積もっていたが、そういう事情のせいもあってか、実際に体験に来ていた生徒は十人以上いた。
だから当然、フルートの体験者も多くいた。というか、女子のほとんどがフルートを体験していた。
楽器数が足りずに待機することになった猫丸は、あれだけ幼い頃から憧れ続けてきたにも関わらず『あ、フルート無理やん、諦めよ』と早々に見切りをつけた。
それには他にも理由があって、猫丸は体育で最後尾に並ぶほど身長が高く、痩せ体型だが肩幅なんかも割としっかりしている方で…
猫丸の中ではやっぱり、「フルート=華奢で小柄な女の子」ってイメージがなんとなくあって(実際、フルート担当の先輩も小柄かつ声も気も小さい人だった)、だから『背の高い私はなれないだろうな』と思っていたのだ。
そこで、次に目星をつけたのが…(続く)
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